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ヒラリー「肩入れ」メール流出、サンダース支持者はどう動く?

ニューズウィーク日本版 2016年7月25日 18時30分

<党大会開催の直前に、党全国委員長ら幹部の流出メールが公表される事件に見舞われた民主党。メールの中には、予備選でサンダースの選挙戦を妨害するような企ても語られ、サンダース支持者がどのような反応を示すか注目される>(写真は事態収拾を図るために辞任を表明したワッサーマンシュルツ民主党全国委員長)

 25日からの党大会開催を控えて、大きな問題が民主党を揺るがしている。民主党全国委員会(DNC)のデビー・ワッサーマンシュルツ委員長ら幹部数人の合計約2万通に上るメールのやり取りを、内部告発サイトのウィキリークスが先週公開したのだ。

 先月、ロシア人ハッカーがDNCのコンピュータに潜入したことが報じられており、今回の事件との関係が疑われている。

 流出したメールの中には、DNCを攻撃するサンダースの取り扱いについて弁護士に相談するものや、サンダースの信頼を失墜させる方法を探るものもある。例えば広報担当者と広報部長との次のようなやりとりだ。

広報担当者:「バーニー(サンダース)の行動が一貫していないことや、陣営がめちゃくちゃだということを(報道に)伝える良い実例がないか考えている」
広報部長:「それは事実だが、(ワッサーマンシュルツ)全国委員長は、関わるなと指導している。だから、そのままにしておくしかない」

【参考記事】異例尽くしの共和党大会で見えた、「トランプ現象」の終焉

 さらにダメージが大きいのが民主党全国委員のCFO(最高財務責任者)という重責にあるブラッド・マーシャルのメールだ。「(サンダース)は神を信じるのか? 彼は、ユダヤ人の血を受け継いでいると答えをはぐらかせているが、私は彼が無神論者だと耳にしたことがある。私の地元の人にとってこれは数%の違いがある。地元の南部バプテスト(キリスト教プロテスタント)の信者にとって、ユダヤ人なのか無神論者なのかは大きく異なる」と書いていた。サンダースの宗教観をヒラリー寄りのPRに利用しようとする態度は非難されて当然だ。

 サンダース支持者らは、予備選の期間中「民主党がヒラリーを勝利させるよう仕組んだ」「システムはrigged(不正操作されている)」と訴えてきた。彼らにとってこれらのメールはそれを証明するものだ。

 とは言え、流出したメールには、ヒラリー自身がDNCに不正操作を依頼したり、示唆したりした証拠はない。むしろ民主党とDNCを攻撃するサンダースと支持者、それに好意的な報道機関に対するフラストレーションと反発が書き連ねられている。 全国委員長のワッサーマンシュルツが自分への個人攻撃に対し、「それについて語りたい」とメールをした相手はNBCテレビの政治部ディレクターのチャック・トッドだが、トッドは「誰かが報道内容に文句をつける。この程度のことは、我々が関わるすべての選挙陣営との間で起こる日常茶飯事だ」と、メールの内容は取るに足らないことという態度だ。



 理由がどうであれ、中立であるべきDNCがヒラリー陣営に肩入れしていただけでも、サンダースと支持者にとっては十分な「不正」だ。憤ったサンダース支持者は、ツイッターで#DNCleakをトレンドのトップに押し上げた。

 今回のメール流出は、副大統領候補発表という重要なPR効果をかき消しただけでなく、サンダースがヒラリーを公式に支持した12日のイベントで「団結」と「癒やし」のプロセスが始まっていた民主党の傷をまた大きく開けてしまったのだ。

 メール流出は、ヒラリー陣営に決定的な打撃を与えるのだろうか?

 気になるのは、ようやくヒラリー支持に傾きかけていたサンダース支持者の動向だ。

 12日のニューハンプシャー州のイベントで取材した、2人の若者にたずねてみた。

【参考記事】ようやくヒラリーを受け入れ始めたサンダース支持者

 大学生のエリックは、「内容には驚いていない」と答えていた。高校生のポールも同じだった。「むしろ、これまで『陰謀論者』扱いされてきた自分たちの主張が正しかったことを認めてもらえてよかった」と言う。

 だが、ヒラリーを支持できるかどうかになると、支持者の間で微妙に意見が食い違っている。

 高校生のポールは「革新的なサンダース支持者が(ヒラリー支持に)乗り換えるとは思えない。多くは(アメリカ緑の党の)ジル・スタインに投票するだろう」と言い、息子の影響で政治に興味を抱くようになった母親のリサは、「トランプには投票しないが、誰に投票するか現時点ではわからない」と、ヒラリー支持をためらっている。

 一方エリックは、「民主党がサンダースに対して不公正だったことが数カ月前に明らかになっていたら、悪夢だっただろう。けれども、クリントンかトランプか、という選択肢に直面した今、僕にどんな選択があるだろう? この時点では、クリントンに投票し、内部からシステムを革新的に変えていくことを望むしかない」と、反トランプ票としてヒラリーに投票するつもりだという。

 2人とも、先週末に発表された副大統領候補ティム・ケーンの選択については、「中道で革新的ではないからサンダース支持者には受け入れられない。保守にもリベラルにもアピールしないので、選挙には不利な人選」と否定的だ。スター性がないケーン選択の発表は、同じ日に起こったウィキリークスのニュースに圧倒されてしまうのではないかとも見られた。

 しかし、ヒラリーが副大統領候補を紹介するマイアミでのイベントで、ケーンが語り始めると、ソーシャルメディアの雰囲気は一変した。
 
 流暢なスペイン語を自然体で英語に織り込むケーンのスピーチには、実直さと静かな決意がにじみ出ていた。しかも、笑顔を絶やさないメッセージは徹底的にポジティブだ。フェイスブックでのライブ中継のコメントやツイッターも「これまでサンダース支持者で強固な革新派だったけれど、#ClintonKaineのスピーチを観た今、誇りを持って11月にこの2人に投票できる」というポジティブなものが目立った。また「私も! ケーンのスピーチを聞くまでは#StillSanders (まだサンダース支持)だったけれど、彼に魅了された。ケーンはサンダースと同じように信頼できる。私はクリントン=ケーンを応援する」という反応もあった。

 このスピーチまではツイッターのトレンドで#DNCleakがトップだったが、スピーチ後は #ClintonKaineがトップに入れ替わった。



 しかし、これで騒動が収まったわけではない。多くのサンダース支持者はケーンのスピーチは見ていないから、副大統領候補に対して否定的な先入観を抱いたままだ。

 12日のニューハンプシャーでのイベントの温和な雰囲気は、フィラデルフィアの民主党大会が大荒れにはならないと予感させた。しかしメール流出があった今、会場周辺に大勢がデモに押しかけ、共和党大会と同様、サンダース支持の代議員の抗議で議事が揉める可能性も出てきた。

 サンダースはCNNの取材に対して「非常に腹立たしいことだ。しかしそんなに驚いてはいない。私は6カ月前から委員長が辞任するよう求めてきた」と答えたが、ヒラリー支持は取り下げなかった。

 混乱を受けて、ワッサーマンシュルツは党大会終了後に辞任することを発表した。これは、共和党大会が開催されたオハイオ州のケーシック知事が大会を欠席したことに匹敵する異常事態と言えるだろう。

 民主党大会初日の25日にサンダースは登壇するが、このスピーチで彼が何を語るか、支持者がそれにどう反応するか、そこに注目が集まっている。

<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>

≪筆者・渡辺由佳里氏の連載コラム「ベストセラーからアメリカを読む」≫

渡辺由佳里(エッセイスト)

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