<共和党の正式な大統領選候補となったトランプだが、暴言はますますひどくなっている。NATOの集団的自衛権を否定したり、WTO加盟を抜けると言ってみたりと、外交的な悪影響がある発言は無視できない>(写真は先月のNATO演習に参加した英軍パラシュート部隊)
先週21日に党大会で「指名受諾演説」を行って、正式に大統領選における共和党の統一候補となったトランプですが、いよいよ本選というこの段階になってもその「暴言」は止まりません。
トランプは選挙戦の初期から「イスラム教徒の入国禁止」とか「不法移民の強制送還」などと言い続けてきたわけですし、また日本に関しては「貿易の不均衡を是正する」とか「駐留米軍の経費を100%負担しないなら撤退する」「米軍撤退の場合には核武装を認める」「TPPは撤廃」などとも言ってきました。
何が問題かというと、こうした「暴言」は比喩であったりファンタジーであったり、要するに非現実的なのですが、「暴言の持つ虚構性」と「現実」の間を埋める気配がまったくないことにあります。それどころか、ここへきて「暴言」が加速している印象すら受けます。特に軍事外交の微妙な問題について、立て続けに問題発言をしているからです。
まず21日付のニューヨーク・タイムズに掲載された独占インタビューですが、特に「バルト三国にロシアが侵攻しても自動的に反撃しない」という部分は、どうしても見過ごすことはできません。
【参考記事】異例尽くしの共和党大会で見えた、「トランプ現象」の終焉
この発言がなぜ問題なのかというと、これは北大西洋条約機構(NATO)の集団的自衛権を否定しているからです。NATOは「集団安全保障体制を構築する」だけでなく、「いずれの加盟国に対する攻撃も全加盟国に対する攻撃とみなす」ことを条約で相互に義務付けており、そのことで「集団的自衛権」が自動的に発動され、陣営に対する攻撃への抑止力とするものです。その根幹を否定しているのです。
タイミングも問題です。というのは、今月8~9日にポーランドのワルシャワでNATOの首脳会議が開かれたのですが、その中でロシアの軍事的脅威を抑止する目的で、バルト三国とポーランドへの4大隊4000人の展開を正式に決定していたからです。その決定が抑止力目的の政治的行動であるならば、トランプ発言はその抑止力を横から壊していることになります。
さらにこのような言動の先には、日米安全保障条約におけるアメリカの防衛義務について、その「条約の縛りによる抑止力」を減じる可能性があることも指摘できます。大変な問題発言です。
また同じインタビューでは、トルコの「クーデター未遂」事件に関して、「エルドアン政権の強権化を支持」するとハッキリと打ち出しています。これは、自由と民主主義の理念を発信するつもりがないとか、トルコをNATO(と可能であればEU)に入れて、より開かれた社会として地域の安定化を図るという方針にも反するという批判が出てくるでしょう。
それ以前の問題として、情勢判断を行う上で十分な情報(インテリジェンス)に接しているのか怪しいなかで、ここまで一方的な発言を行うというのはやはり稚拙と言わざるを得ません。
【参考記事】ヒラリー「肩入れ」メール流出、サンダース支持者はどう動く?
さらに今週24日の朝にNBCのインタビュー番組に出演した際には、トランプは、「国内雇用をメキシコに移転する動きは35%の関税をかけて阻止する」と述べ、司会のチャック・トッドが「それはWTOに禁止されているからできない」と指摘すると「それならWTOから出て行く」と平然と言い放っています。
これに対してトッドは「それでは、ブレグジット(英EU離脱)と同じではないですか」と反論すると、トランプは「ブレグジットのショックで下がった株も戻っている」とした上で、「ところで、世界の要人の中でブレグジットを予測したのは俺様ぐらいだ」と威張っていました。
さらに勢いづいたトランプは、「そもそもEUはアメリカに対抗するために連中が作ったもので、我々の通商の敵」だとしていました。こうなると、暴言と言うより認識不足というか、多国間の通商とか、国際分業といった21世紀の経済の初歩を理解していないとしか言いようがないのです。
トランプの主張が「暴言」であるのは、常識に外れているとか、品がないということもありますが、とにかく「現実と乖離していて、具体的な政策と結びつかない」ことに最大の問題があります。
その意味では、選挙戦の初期と比較すると、改善されるどころか、ますますエスカレートしています。では実現不可能な内容だから、単に政治的なエモーションの「うっぷん晴らし」をやっているだけなので「スルー」すればいいのかというと、それは違うと思います。正式の共和党の統一候補となった現在、そしてNATOの問題のように発言それ自体が国際政治に悪い影響を与えかねないことを考えると、無視できなくなっているのです。
先週21日に党大会で「指名受諾演説」を行って、正式に大統領選における共和党の統一候補となったトランプですが、いよいよ本選というこの段階になってもその「暴言」は止まりません。
トランプは選挙戦の初期から「イスラム教徒の入国禁止」とか「不法移民の強制送還」などと言い続けてきたわけですし、また日本に関しては「貿易の不均衡を是正する」とか「駐留米軍の経費を100%負担しないなら撤退する」「米軍撤退の場合には核武装を認める」「TPPは撤廃」などとも言ってきました。
何が問題かというと、こうした「暴言」は比喩であったりファンタジーであったり、要するに非現実的なのですが、「暴言の持つ虚構性」と「現実」の間を埋める気配がまったくないことにあります。それどころか、ここへきて「暴言」が加速している印象すら受けます。特に軍事外交の微妙な問題について、立て続けに問題発言をしているからです。
まず21日付のニューヨーク・タイムズに掲載された独占インタビューですが、特に「バルト三国にロシアが侵攻しても自動的に反撃しない」という部分は、どうしても見過ごすことはできません。
【参考記事】異例尽くしの共和党大会で見えた、「トランプ現象」の終焉
この発言がなぜ問題なのかというと、これは北大西洋条約機構(NATO)の集団的自衛権を否定しているからです。NATOは「集団安全保障体制を構築する」だけでなく、「いずれの加盟国に対する攻撃も全加盟国に対する攻撃とみなす」ことを条約で相互に義務付けており、そのことで「集団的自衛権」が自動的に発動され、陣営に対する攻撃への抑止力とするものです。その根幹を否定しているのです。
タイミングも問題です。というのは、今月8~9日にポーランドのワルシャワでNATOの首脳会議が開かれたのですが、その中でロシアの軍事的脅威を抑止する目的で、バルト三国とポーランドへの4大隊4000人の展開を正式に決定していたからです。その決定が抑止力目的の政治的行動であるならば、トランプ発言はその抑止力を横から壊していることになります。
さらにこのような言動の先には、日米安全保障条約におけるアメリカの防衛義務について、その「条約の縛りによる抑止力」を減じる可能性があることも指摘できます。大変な問題発言です。
また同じインタビューでは、トルコの「クーデター未遂」事件に関して、「エルドアン政権の強権化を支持」するとハッキリと打ち出しています。これは、自由と民主主義の理念を発信するつもりがないとか、トルコをNATO(と可能であればEU)に入れて、より開かれた社会として地域の安定化を図るという方針にも反するという批判が出てくるでしょう。
それ以前の問題として、情勢判断を行う上で十分な情報(インテリジェンス)に接しているのか怪しいなかで、ここまで一方的な発言を行うというのはやはり稚拙と言わざるを得ません。
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さらに今週24日の朝にNBCのインタビュー番組に出演した際には、トランプは、「国内雇用をメキシコに移転する動きは35%の関税をかけて阻止する」と述べ、司会のチャック・トッドが「それはWTOに禁止されているからできない」と指摘すると「それならWTOから出て行く」と平然と言い放っています。
これに対してトッドは「それでは、ブレグジット(英EU離脱)と同じではないですか」と反論すると、トランプは「ブレグジットのショックで下がった株も戻っている」とした上で、「ところで、世界の要人の中でブレグジットを予測したのは俺様ぐらいだ」と威張っていました。
さらに勢いづいたトランプは、「そもそもEUはアメリカに対抗するために連中が作ったもので、我々の通商の敵」だとしていました。こうなると、暴言と言うより認識不足というか、多国間の通商とか、国際分業といった21世紀の経済の初歩を理解していないとしか言いようがないのです。
トランプの主張が「暴言」であるのは、常識に外れているとか、品がないということもありますが、とにかく「現実と乖離していて、具体的な政策と結びつかない」ことに最大の問題があります。
その意味では、選挙戦の初期と比較すると、改善されるどころか、ますますエスカレートしています。では実現不可能な内容だから、単に政治的なエモーションの「うっぷん晴らし」をやっているだけなので「スルー」すればいいのかというと、それは違うと思います。正式の共和党の統一候補となった現在、そしてNATOの問題のように発言それ自体が国際政治に悪い影響を与えかねないことを考えると、無視できなくなっているのです。