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草原のゲルに手紙を届ける画期的な「住所」特定システム

ニューズウィーク日本版 2016年7月26日 15時30分

<英単語3つの組み合わせで地点を示し、住所なしでも郵便を届けられる新発想のシステムをモンゴルが導入へ>(モンゴルでは住所がある家に住む人はほんの一部)

 ガンホヤグ・チュルーン・フタグトは、モンゴルの財務副大臣を務めたこともあるひとかどの人物。なのに首都ウランバートルの自宅には、いわゆる「住所」がない。そのため、個人的な郵便物は職場で受け取っている。

 彼がCEOを務める金融持ち株会社アルド・ホールディングズは、半官半民の郵便事業会社であるモンゴル郵便の株主に名を連ねている。それでも会社の住所はない。ただし名の知れた大会社なので、郵便局が場所を間違うことはない。

 実は、家や会社に住所がないというのはモンゴルではよくある話。フタグトいわく、ウランバートルという町は「有機的」に成長を続けており、名前のない街路も多ければ、建物に番地も付いていない。郊外に行くとゲルと呼ばれる伝統的なテント式の住居で暮らす人も多く、この場合ももちろん、住所はない。

 遊牧民に郵便物を配達する際には「~さんの家はどこですか」と散々聞いて回らなければならないし、届くかどうかは運次第だ。

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 そんな郵便事情も、イギリスのホワット3ワーズ社のおかげで大きく変わりそうだ。同社は全世界のすべての場所を3つの英単語を使って表す方法を編み出した。

 まずは地球の表面を3メートル角の区画に格子状に分割。計57兆個の区画それぞれに英単語を3つつなげた「住所」を割り当てた。例えば、彼らのロンドン本社の入り口は「index.home.raft.」だし、ニューヨークのセントラルパークの南西の角は「cute.seated.joke.」となる。



 このシステムをGPSと結び付けて運用すれば、16桁の緯度と経度を用いるのと同程度の精度が得られるという。数字より覚えやすい言葉を使って「誰でも簡単に正確な位置を伝えられるようにしたかった」と、同社のクリス・シェルドリック共同創業者兼CEOは言う。海上を含む世界の全区画を言い表すのに使われる英単語の数は約4万語だ。

 モンゴル郵便は、このシステムのモンゴル語版の導入を進めている。8月には最初の荷物を届けられるようにするのが目下の目標だ。

 新システムの導入により郵便物の受け取りは容易になり、政府から国民への連絡もしやすくなる。ネット通販が発展するきっかけにもなる――そうフタグトは期待している。確かに、あのアマゾンだって住所がなければ商売はできない。

[2016.7.26号掲載]
ロブ・バーガー

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