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グーグル、VRを身近にする3Dオーディオ技術を公開

ニューズウィーク日本版 2016年7月27日 16時20分

<グーグルは、ウェブ上にあるVRコンテンツに追随して音も移動する、「オムニトーン(Omnitone)」というプロジェクトを公開した。これによりVRコンテンツがますます身近なものになりそうだ...>

 バーチャルリアリティ(VR)ヘッドセットが去年から今年にかけて、サムスン、HTC、フェイスブック傘下のオキュラスVRといった大手から次々に売り出され(ソニーは今年10月発売予定)、VRが身近になってきた。ただしグーグルは、そうした専用機器を新たに追加しなくても、手持ちのPCとヘッドホンでVRコンテンツに一層没入できる環境を整えようとしている。
【参考記事】リアルなVRの時代がついに到来

ウェブに「空間音声」を普及させる取り組み

 グーグルは7月25日、「オムニトーン(Omnitone)」という新たなオープンソースプロジェクトを立ち上げた。これは、ウェブ上にあるVRコンテンツや360度動画を見る場合に、動画に追随して音の定位も移動する、いわゆる「空間音声」のレンダリング技術をオープンにして、既存のブラウザで手軽に再生できるようにするという取り組みだ。

 グーグルがブログで発表し、ポピュラーサイエンスなどが報じたオムニトーンによる音声処理の仕組みは、以下のダイアグラムで図解されている。



 上から説明すると、あらかじめ4チャンネルで録音された音声を伴う空間メディア(VRコンテンツ)が、「ローテイター(Rotator)」と呼ばれる部分に送られ、ここにはVRヘッドセットやスマートフォンからの方向センサーデータも送信される。これら2つの入力情報がローテイターでアンビソニックス(音波の方向感も再現する高忠実度再生)技術により処理され、8方向の音声ストリームに分けられて8チャンネルの仮想スピーカーに送られる。最後に、仮想スピーカーからの8チャンネルの音声を両耳用にレンダリングしてステレオ音声ストリームに変換し、PCなどのイヤホンジャックから出力、という流れになる。

 とはいえ、図や文字で説明されるより、実際の空間音声を動画と一緒に体験するほうがはるかに理解しやすいだろう。グーグルはオムニトーンの特設ページから、2つの360度動画のデモを公開している(ただし、これらの2本の動画は、同プロジェクトのために制作されたコンテンツではなく、既存の空間音声付き360度動画をウェブページ上で再生できるようにしたもの)。ブラウザで再生する際、ヘッドホンやイヤホンで聴くと、マウスやタッチパッドで映像を右や左に移動させるのに合わせて、楽器や歌声が出てくる位置が動くのを実感できるはずだ。



YouTubeアプリでも空間音声を体感

 同じくこの話題を報じたベンチャービートによると、オムニトーンはすべてJavaScriptで書かれているため、当面はPC上のブラウザでしか正しく再生されないという(将来的には、モバイルデバイスやVRヘッドセットにも対応するとしている)。

 ただし、モバイルデバイスでも空間音声を聴く方法はある。今回のオープンソース化に先立ち、グーグル傘下のYouTubeが4月、360度動画ライブ配信機能と空間音声を追加したと発表。YouTubeのヘルプページによると、「バージョン4.2以降のAndroid端末でYouTube Androidアプリを使用すると、イヤホンまたはスピーカーで空間音声を聴くことができる」という。

 YouTubeは空間音声付きの360度動画のサンプルを「Immersive Videos With Spatial Audio」という再生リストで13本公開している。筆者も実際にAndroidフォンのYouTubeアプリで試してみたが、デバイスを動かすのに合わせて、動画と音声がシンクロして移動するのを確認できる。PCの場合はマウスなどを操作して画面を動かす必要があるのに対し、スマホの場合は腕や体の位置が変わるだけでコンテンツが追随するので、没入感がぐっと高まる印象だ。

フェイスブックも対抗する動き

 VRコンテンツの配信プラットフォームとしては、グーグルの最大のライバルになるであろうフェイスブックも、空間音声への取り組みも進めている。同社は5月、VR音響技術を手がける英企業のTwo Big Earsを買収したと発表し、VRコンテンツ用の空間音声設計ツール「Facebook 360 Spatial Workstation」を無償で提供開始した。

 両社によるVRコンテンツの制作および配信環境の整備により、クリエイター、パブリッシャー、オーディエンスにとってVRコンテンツが次第に身近なものになっていくのは間違いない。当面は、音楽ビデオやビデオインスタレーション、ショートムービーなどで実験的な作品が作られるだろう。ただしその先は、企業がVRコンテンツを制作し、ソーシャルメディアを通じたバイラルマーケティングに活用するのが主要な市場になるだろうし、グーグルとフェイスブックも当然そこを見据えているはずだ。

高森郁哉

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