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ヒラリー勝利のキーマンになるのは誰だ

ニューズウィーク日本版 2016年7月29日 18時40分

<ヒラリーが正式に民主党候補となっても、まだ納得できないサンダース支持者は多い。そんな有権者を説得できるのは、元々サンダース支持だった人たちのメッセージだけかもしれない>(党大会で壇上に立ったオバマとヒラリー)

 バーニー・サンダースがヒラリー・クリントン支持を表明した後も、民主党大会の会場内外で抗議運動を続けるサンダース支持者は目につく。党大会でのスピーチの妨害も続き、オバマ政権でCIA長官と国防長官を務めたレオン・パネッタは、「No More War(戦争はもうまっぴらだ)」というチャントや野次の嵐の中でスピーチをする羽目になった。

 最近の世論調査ではトランプがヒラリーを上回っていて、民主党指導部や長年の党員の間では、党の亀裂がトランプ勝利に繋がることへの不安が高まっている。

 元々のサンダース支持者でも党大会でブーイングを受けるような荒れた雰囲気だが、党内の亀裂を乗り越えてヒラリー支持をアピールできる人物もようやく浮上してきている。

【参考記事】オールスター勢ぞろいの民主党大会、それでも亀裂は埋まらない

 まずはバイデン副大統領だ。

 党大会ではバイデンが登壇したとたん、会場の雰囲気ががらりと明るくなった。皮肉たっぷりのトランプ批判が拍手喝采を浴びたのは意外ではないが、野次をほとんど受けずにヒラリーの応援をやりとげたのは快挙だった。

 バイデンはよく「Middle-class Joe(庶民のジョー)」や「Uncle Joe(ジョー叔父さん)」と呼ばれ、政治家として長いキャリアを持ちながら庶民感覚を失っていないと言われる。歯に衣を着せないところや、ときに失言をすることも、有権者にとっては逆に「正直さ」を印象づけるもので、ヒラリーのイメージを変えるができそうな数少ない人物だ。

 もう一人はオバマ大統領だ。

 党大会3日目のスピーチでオバマは、「ヒラリーと私が8年前の予備選でライバルだったことを覚えているかもしれないが、私たちは1年半に渡って戦った。ちょっと言わせてもらうと、とてもタフな戦いだった。ヒラリーがタフだったから。私は疲れ果てた」と、ユーモアまじりに熾烈な戦いを振り返った。

 サンダース支持者の多くは、両陣営に憎しみを残した8年前の予備選について余り知らない(あるいは、当時は政治に興味がなかった)。だから、オバマがヒラリーに国務長官への就任を依頼し、ヒラリーだけでなく自分のスタッフも驚かせたという逸話は馴染みがないものだろう。怒りや失望を抱くサンダース支持者に対して、激しく戦ったライバルでもアメリカのために尽くす目標のためには和解できるし、いつかお互いに敬意を抱くようになれる――。そう伝えたいオバマの気持ちが伝わってきた。

 オバマはさらにこう語った。「ヒラリーはかなりの非難を受けてきた。右からはずっと揶揄されてきたし、一部は左からも。想像できる限りありとあらゆることの責任を問われ、想像できないことまで彼女のせいにされた」(ここで会場から笑い)。「でも40年も顕微鏡の下に晒されていたら、そういうことが起こるということをヒラリーは承知している」(会場拍手)。「この40年間には失敗も犯したことをヒラリーは自覚している。でも、失敗は誰でも犯すものだ。私やあなたがたのように」



 そしてルーズベルト大統領の言葉を引き合いに出し、実際に何かを達成できるのは、傍観者ではなく土俵に立つ人間だと語り、「その土俵に立っているのがヒラリー・クリントンだ。彼女は、私たちが気づかないときにも、ずっと我々のために土俵に立ってきた。もしあなたたちが民主主義に真剣ならば、彼女と政策がすべて一致しないからといって、投票せず家にいる余地などない。あなたたちも、彼女と一緒に土俵に入らなければならない。なぜなら、民主主義はスポーツ観戦ではないのだから」と、強く語りかけた。

 移民の国アメリカの価値観とそれを守ることの重要さについて語るオバマの言葉に、会場にいる多くの民主党員が心を打たれ、涙を流していた。

 支持率が急上昇しているオバマと好感度の高いミシェル夫人の2人は、ヒラリーの最強の応援団になるだろう。

 さらに意外なところからも支援の声が上がっている。サンダース支持者に強い影響力を持つ人たちだ。

【参考記事】トランプはなぜプーチンを称賛するのか

 2007年にイスラム教徒として初めて下院議員に当選したキース・エリソンは、サンダース支持者として知られ、党大会初日に登壇したサンダースを紹介する重責も果たした。サンダースの政策の多くが民主党の政策プラットフォームに取り入れられたのも、エリソンの手柄だ。サンダースがヒラリー支持を表明してからは、エリソンもヒラリー支持を表明している。

 ある政治番組で、今でもサンダース支持者からの野次やブーイングが消えないことについて質問されたエリソンは、笑顔で次のように答えた。「心配しなくても大丈夫。だから怒らないで欲しい。アメリカは抗議で建国したのだから。市民が情熱を抱いていることで声を上げるのは、決して間違っていない。党のリーダーはそこを考慮してやって欲しい」。つまり、個々の意見を封じ込めて表層的な団結をするよりも、自由に意見を表明させ、声を上げさせるほうが健全な民主党になるという考え方だ。

 エリソンの態度は、ヒラリー支持という点では消極的に見えるかもしれない。だが、韻を踏んだ詩のようなメッセージは強力だ。「Demonstration without legislation ends in frustration. (立法につながらないデモをしても、フラストレーションにしかならない)」。つまり、抗議デモをしているだけで満足していては何も解決しない。社会を改善するための法律を作れる政治家を当選させなければ、結局何も得られずにフラストレーションを募らせるだけで終わる、という意味だ。「ヒラリーに票を投じて当選させてから自分たちの要求を突きつけろ」と間接的にアピールしている。

 またニューヨーク・デイリーニュースの記者ショーン・キングも、熱烈なサンダース支持者で、厳しいヒラリー批判をすることで知られる。民主党全国委員会(党大会で辞任を表明)がヒラリー寄りの不正をしていると追求してきたキングは、サンダース支持者からも信頼されている。そのキングが、「次期大統領は、トランプとヒラリーのどちらかだ。現時点ではトランプがリードしている。我々はなんとしてもトランプを阻止しなければならない。そのために、僕はヒラリーに投票する」という内容の記事を掲載した。

 ヒラリーを「悪徳政治家」と決めつけるサンダース支持者の心には、オバマの言葉も響かないかもしれない。そんな人たちには、トランプ勝利への危機感に焦点をあてた、キングのようなサンダース支持者のメッセージの方が効果的だろう。

<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>

≪筆者・渡辺由佳里氏の連載コラム「ベストセラーからアメリカを読む」≫

渡辺由佳里(エッセイスト)

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