<政府と親ロ派の分離独立勢力の戦いが続くウクライナで、政府に批判的なジャーナリストへの攻撃が相次いでいる。民主化を進めてEUに加盟しようとしていたウクライナで、危険な愛国主義が高まりつつある> (キエフで爆殺された著名ジャーナリスト、シェレメトの葬儀)
先月20日、ウクライナの首都キエフで、ジャーナリストのパーベル・シェレメト(44)が暗殺された。運転中に車に仕掛けられた爆弾が爆発した。
シェレメトはラジオ局ベスチの朝の番組の司会を担当し、ウェブサイト「ウクライナ・プラウダ」ではスター記者だった。ベラルーシのミンスク出身で常に真実を追う彼は、母国からもロシアからも追放された身だ。
シェレメト暗殺は特異な例だ──そう思えたらどんなにいいだろう。だが、それだけはない。彼の死は、ここ数カ月着々と悪化されている報道弾圧の一例に過ぎない。劇的だからより人目についただけだ。
相次ぐ襲撃
シェレメト暗殺の翌21日には、ウクライナ版フォーブスのマリア・リドバンがキエフで背後から3度刺される事件があった。軽傷で済んだのは幸運だった。
先月25日には、ビジネスセンサー誌の編集長セルゲイ・ゴロブニオバが、キエフの裕福な地区ポディルで2人の男に殴られた。盗まれたものは何もない。
ニューヨーク・タイムズ・マガジンにウクライナの権力者に批判的な記事を書いていたクリスチナ・ベルディンスカヤ記者は、この数カ月、何度も脅迫状を受け取っている。
【参考記事】メディアへの信頼度が高いだけに世論誘導されやすい日本
いったい誰がジャーナリストを狙っているのか。
治安トップは疑惑否定
ウクライナの捜査当局は、シェレメトの妻でウクラインスカ・プラウダの共同オーナーであるオレアナ・プリツラに護衛を付けると約束した。爆弾が爆発したときシェレメトが運転していたのは、プリツラの車だったのだ。
ユーリー・ルツェンコ検事総長は、シェレメトとプリツラを尾行していたウクライナ国家警察の第一副署長バディム・トロヤノフに関する捜査を始めたと発表した。警察署省のカティア・デカノイズも、トロヤノフに尋問を受けさせると言った。
だが彼らの上司にあたる内務相アルセン・アバコフは、トロヤノフへの疑いは根拠がないと言う。
シェレメト殺害の背後に誰がいるのかはまだ不透明だ。だが人権団体などは、ここ数カ月、ウクライナ政府が政府に批判的なジャーナリストに嫌がらせをして口を塞ごうとしていると非難する。
【参考記事】帰ってきた「闘うプリンセス」は次期大統領としてロシアに挑む?
4月には、政府は国内トップの人気を誇るカナダ人テレビ司会者、サビク・シュスターの労働ビザを取り消した。シュスターは、毎週400万人が視聴するロシア語トークショー「シュスター・ライブ」のホスト役だ。
原因は、シュスターがペトロ・ポロシェンコ大統領を批判するようなことを言ったからではないか、ともっぱらの噂だ。シュスターは視聴者に、ポロシェンコが腐敗との戦いに「本気で取り組んでいる」と言ったことについて意見を聞いた。視聴者の93%が、「賛同できない」と答えた。
シュスターは、労働ビザの取り消しは不当だとして裁判所に訴え、今のところは仕事を続けている。
5月には、親ロシアの分離独立派が支配するウクライナ東部で仕事をしたことがある400人以上のジャーナリスト、カメラマン、プロデューサー、フリーランス、翻訳者、そして運転手の名前と連絡先がリークされた。
記者の連絡先を晒す
リークをした親ウクライナのハッカー集団「ピースメーカー」の共同設立者は、アバコフ内務相のアドバイザーで国会議員のアントン・ヘラシュチェンコだ。ヘラシュチェンコチェンコはリークしたのと同じリストをフェイスブックページにも載せている。彼は、リストに挙がったジャーナリストたちがテロリストを支援し、ロシアのプロパガンダを拡散したと非難した。アバコフはリストの発表を称賛し、独立派と協力したとしてジャーナリストたちを批判した。
【参考記事】パナマ文書、巨大リークを専売化するメディア
ジャーナリストや人権団体は無責任なリークに猛反発している。「暴力や告発への恐れから、報道そのものがなくなってしまいかねない」と、国際新聞編集者協会のスティーブン・エリスは言う。
シェレメト暗殺は、現に報道の委縮効果をもたらしていると、VICE誌の記者、シモン・オストロフスキーは7月末のインタビューで語っている。「まるで(民主化革命以前の)1990年代に戻ったようだ。当時は、記者が襲われ、殺され、犯人の罪は不問に処された」
This article first appeared on the Atlantic Council website.
Melinda Haring is the editor of the UkraineAlert at the Atlantic Council. She tweets at @melindaharing.
メリンダ・ヘイリング(米大西洋協議会)
先月20日、ウクライナの首都キエフで、ジャーナリストのパーベル・シェレメト(44)が暗殺された。運転中に車に仕掛けられた爆弾が爆発した。
シェレメトはラジオ局ベスチの朝の番組の司会を担当し、ウェブサイト「ウクライナ・プラウダ」ではスター記者だった。ベラルーシのミンスク出身で常に真実を追う彼は、母国からもロシアからも追放された身だ。
シェレメト暗殺は特異な例だ──そう思えたらどんなにいいだろう。だが、それだけはない。彼の死は、ここ数カ月着々と悪化されている報道弾圧の一例に過ぎない。劇的だからより人目についただけだ。
相次ぐ襲撃
シェレメト暗殺の翌21日には、ウクライナ版フォーブスのマリア・リドバンがキエフで背後から3度刺される事件があった。軽傷で済んだのは幸運だった。
先月25日には、ビジネスセンサー誌の編集長セルゲイ・ゴロブニオバが、キエフの裕福な地区ポディルで2人の男に殴られた。盗まれたものは何もない。
ニューヨーク・タイムズ・マガジンにウクライナの権力者に批判的な記事を書いていたクリスチナ・ベルディンスカヤ記者は、この数カ月、何度も脅迫状を受け取っている。
【参考記事】メディアへの信頼度が高いだけに世論誘導されやすい日本
いったい誰がジャーナリストを狙っているのか。
治安トップは疑惑否定
ウクライナの捜査当局は、シェレメトの妻でウクラインスカ・プラウダの共同オーナーであるオレアナ・プリツラに護衛を付けると約束した。爆弾が爆発したときシェレメトが運転していたのは、プリツラの車だったのだ。
ユーリー・ルツェンコ検事総長は、シェレメトとプリツラを尾行していたウクライナ国家警察の第一副署長バディム・トロヤノフに関する捜査を始めたと発表した。警察署省のカティア・デカノイズも、トロヤノフに尋問を受けさせると言った。
だが彼らの上司にあたる内務相アルセン・アバコフは、トロヤノフへの疑いは根拠がないと言う。
シェレメト殺害の背後に誰がいるのかはまだ不透明だ。だが人権団体などは、ここ数カ月、ウクライナ政府が政府に批判的なジャーナリストに嫌がらせをして口を塞ごうとしていると非難する。
【参考記事】帰ってきた「闘うプリンセス」は次期大統領としてロシアに挑む?
4月には、政府は国内トップの人気を誇るカナダ人テレビ司会者、サビク・シュスターの労働ビザを取り消した。シュスターは、毎週400万人が視聴するロシア語トークショー「シュスター・ライブ」のホスト役だ。
原因は、シュスターがペトロ・ポロシェンコ大統領を批判するようなことを言ったからではないか、ともっぱらの噂だ。シュスターは視聴者に、ポロシェンコが腐敗との戦いに「本気で取り組んでいる」と言ったことについて意見を聞いた。視聴者の93%が、「賛同できない」と答えた。
シュスターは、労働ビザの取り消しは不当だとして裁判所に訴え、今のところは仕事を続けている。
5月には、親ロシアの分離独立派が支配するウクライナ東部で仕事をしたことがある400人以上のジャーナリスト、カメラマン、プロデューサー、フリーランス、翻訳者、そして運転手の名前と連絡先がリークされた。
記者の連絡先を晒す
リークをした親ウクライナのハッカー集団「ピースメーカー」の共同設立者は、アバコフ内務相のアドバイザーで国会議員のアントン・ヘラシュチェンコだ。ヘラシュチェンコチェンコはリークしたのと同じリストをフェイスブックページにも載せている。彼は、リストに挙がったジャーナリストたちがテロリストを支援し、ロシアのプロパガンダを拡散したと非難した。アバコフはリストの発表を称賛し、独立派と協力したとしてジャーナリストたちを批判した。
【参考記事】パナマ文書、巨大リークを専売化するメディア
ジャーナリストや人権団体は無責任なリークに猛反発している。「暴力や告発への恐れから、報道そのものがなくなってしまいかねない」と、国際新聞編集者協会のスティーブン・エリスは言う。
シェレメト暗殺は、現に報道の委縮効果をもたらしていると、VICE誌の記者、シモン・オストロフスキーは7月末のインタビューで語っている。「まるで(民主化革命以前の)1990年代に戻ったようだ。当時は、記者が襲われ、殺され、犯人の罪は不問に処された」
This article first appeared on the Atlantic Council website.
Melinda Haring is the editor of the UkraineAlert at the Atlantic Council. She tweets at @melindaharing.
メリンダ・ヘイリング(米大西洋協議会)