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この週末にトランプ陣営が抱え込んだ5つのトラブル - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2016年8月2日 17時10分

<戦没米兵の家族との批判の応酬、メラニア夫人の過去のヌード写真の掲載、本選のテレビ討論の日程に文句を付ける等々、指名候補になってからの短期間にこれだけのゴタゴタが出てくるのは異常な状態>

 7月第3週の共和党大会が終わった時点では、トランプは世論調査でヒラリーより1~2ポイント先行していましたが、7月最終週の民主党大会が閉幕して「双方の態勢が整った」時点で、ヒラリーが再度優位を取り戻しました。

 政治サイト「リアル・クリアー・ポリティクス(RCP)」が出している、主要な世論調査の平均値では、現時点の数字を見てみると

■ヒラリー・クリントン......45.9%
■ドナルド・トランプ......42.0%

 とヒラリーが3・9ポイントの顕著なリードを確保しています。実は、数時間前に見た時点ではその差は2・2ポイントだったので、リードはジワジワ広がっているようです。RCPの数字というのは純粋に平均値を出したものですが、単独の新しいデータとしては、CBSによる「民主党大会後」の時点の調査で、

■ヒラリー・クリントン・・・・・・46%
■ドナルド・トランプ・・・・・・・39%

 という数字が出ていて、ヒラリーが7ポイント先行しています。一連の調査結果は、俗に言う「党大会後のバウンスバック(揺れ戻し)」だけでなく、それに加えてその背景には「トランプ陣営の深刻なスランプ」という問題がある、そう指摘しなければなりません。

 7月最後の週末は、トランプ陣営にとって選挙戦始まって以来最悪だったでしょう。大ざっぱに言うと、5つのスキャンダルを抱えており、いずれについても適切な「ダメージ・コントロール」ができていないというのが印象です。

 その一つ目は、イスラム教徒の戦没米兵一家の問題です。先週の民主党大会で、イラク戦争でアメリカ兵の息子が戦死したイスラム教徒のヒズル・カーンという人物がスピーチを行いました。その際に、カーン氏はポケット版の「合衆国憲法」を取り出してトランプを批判。つまり合衆国憲法が「信教の自由」を保障しているのにもかかわらず、トランプが「イスラム教徒の入国禁止」を主張しているのはおかしい、と呼び掛けたのでした。

【参考記事】戦死したイスラム系米兵の両親が、トランプに突きつけた「アメリカの本質」

 これは民主党として、極めて政治的な「仕掛け」にほかなりません。ところが、これに対してトランプは、その民主党の仕掛けた「ワナ」に完璧に引っ掛かってしまいました。こともあろうに、戦没米兵の一家を批判したのです。例えば「誰があのスピーチを書いたんだ? ヒラリーのスピーチライターか?」などという具合です。



 これは、大問題になりました。その後もカーン氏との「対立」は続き、カーン氏の「あなたは私達のような犠牲を払っていない」という批判に対して、トランプが「自分も様々な犠牲を払ってきた」と反論するなど応酬は尾を引きました。そこで「トランプは戦没者の一家をバカにしている」という批判が、共和党内からも上がるようになっているのです。

 二つ目としては、31日の日曜に、ニューヨークのタブロイド紙『ニューヨーク・ポスト』に、21年前のメラニア夫人(結婚前の当時はメラニア・クナウス)の「フルヌード写真」が掲載されてしまった問題です。アメリカでは、いくらタブロイド版とはいえ、ここまで露骨な写真を表紙に持ってくることは普通しないのですが、FOX系列の『ポスト』としては、完全に確信犯という感じで掲載しました。

 同紙は、翌日の1日にも同じような別の写真をスクープしているのですが、トランプは「スルーの構え」です。「あれは、私と出会う前のもので、ヨーロッパの人はああいう写真が好きだから、自分は気にしていない」というコメントをしていますし、陣営のスタッフからは「人体美を表現した良い写真だ」という意味不明のコメントまで飛び出しています。こうなると、本人も陣営も、メラニア夫人を「守る」意思があるのか分からないという感じです。

 一方で政治的な暴言も止まりません。三つ目には、この週末にトランプは、「ウクライナにロシアは侵攻していない」とか「クリミアの人々はロシアが来て喜んでいる」といった「ロシア寄りの発言」をしており、これも炎上しています。これとは別に、トランプの選挙参謀であるポール・マナフォートが、以前にウクライナのヤヌコビッチ前大統領のアドバイザーをやっていた疑惑が取り沙汰されています。

【参考記事】トランプはプーチンの操り人形?

 つまり、2004年の「オレンジ革命」で親ロ派のヤヌコビッチが打倒された際に「アドバイザー」として雇われ、選挙での復権へ向けての助言をしたり、西側へのロビイングをしたりしていたというのです。仮にそのマナフォートがプーチンの意向を受けているようですと、これは「話がつながりすぎる」わけです。

 さらにこれはネタとしては小さいのですが、四つ目としては、トランプは遊説をするたびに、地域の消防署の悪口を言っていて、それが無視できなくなってきているという問題があります。というのは、選挙集会を行う場合に、仮に収容人員が1000人の会場を借りて、そこに2000人が来てしまうと、「会場にスペースがあるのに、消防署が規制するので入れない人が出る」と文句を言うのです。

 29日のコロラド・スプリングスでも「だからこの国はダメなんだ」などと、ブツブツ文句を言っていました。実は、その数分前にトランプとその側近は、エレベーターが故障して閉じ込められ、消防隊員に救出されているのですが、その直後にこういうメチャクチャなことを言われたので、消防はカンカンだったそうです。1日のオハイオ州のコロンバスでも、収容人員をめぐる同様のトラブルがあり、ここでも消防を怒らせていました。



 五つ目の問題としては、トランプは、ここへ来て「大統領候補テレビ討論」への参加を渋り始めているという点です。ちなみに、現在「公式に決定されている日程」は以下の通りです。

(第1回)9月26日(月) ニューヨーク州のホフストラ大学にて
(第2回)10月9日(日) ミズーリ州ワシントン大学セントルイス校にて
(第3回)10月19日(水) ネバダ州のネバダ大学にて

 トランプの「文句」というのは、このうちの「第1回」と「第2回」がNFLつまりアメリカン・フットボールの公式戦と重なるので、NFLが抗議の書簡を寄越したというのですが、そのような書簡が出たという事実はないそうです。

【参考記事】オールスター勢ぞろいの民主党大会、それでも亀裂は埋まらない

 実はトランプには「前科」があります。というのは、今年の1月の共和党の予備選テレビ討論を「ボイコット」しています。ただ、さすがに9月、10月の「本選のテレビ討論」に出ないとなれば、ダメージは計り知れないので、共和党内でも「トランプの顔を立ててヒラリーの陰謀でこういう日程になったと文句を言おう」というような動きも出てきています(ギングリッチ元下院議長などのトランプ支持派)。

 ただ、このテレビ討論の日程というのは、1年以上も前に民主党と共和党の全国委員会が協議して決定しているわけで、どう見ても「無理なイチャモン」をつけているとしか言いようがありません。

 せっかく党内をまとめて「統一候補」として指名を受けたのに、わずか数日の間にこれだけのゴタゴタが出てくるというのも異常です。今週はとりあえずオリンピックが始まれば政治休戦になるでしょうが、閉幕後に体制をどう立て直すかが、トランプ陣営の最大の課題になるでしょう。

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