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ジャーナリストへの情報提供者に忍び寄るベネズエラ諜報機関

ニューズウィーク日本版 2016年8月3日 18時0分

<ベネズエラでは政権に対して不利な情報を流す報道機関に対し、マドゥロ政権による締め付けが強まっているが、最近では情報提供者を洗い出すところまで来ている>


ベネズエラ政府のジャーナリストに対する圧力は今に始まったことではありませんが、ここ数年でますます露骨になってきています。
最近では、物不足のために抗議を行う人を取材するジャーナリストが攻撃の対象になったり、病院の取材は禁止されていたり、取材中のジャーナリストが治安当局の人に呼ばれて脅されたり、ということも聞かれます。ツイッターでは #InformarNoEsDelito(報道は犯罪ではない。)というハッシュタグで、多くの人が政府による圧力に対する反対を呼びかけています。さらには当局が情報提供者のあぶり出しまで始めており、かなり心配な状態です。

"ジャーナリストの情報提供者とSEBINの闘い
SEBIN's War on Journalists' Sources
2016年7月7日 Gustavo Hernández A.

【参考記事】
崩れゆくベネズエラ 不穏な政治状況、物不足と連日の襲撃事件

 ベネズエラにおける当局のジャーナリストに対する圧力は深刻さを増している。そして最近標的になっているのは、ジャーナリストの仕事の基盤である情報提供者だ。

 6月23日、LaPatilla.comのジャーナリストであるロマン・カマチョがベネズエラの諜報局SEBINのエージェントに拘束され、7時間の尋問の後に解放された。その翌日、ElPitazo.comのジョセリン・トレスがSEBIN本部への「招待」を受けた。彼女の場合は、4時間、弁護士への面会も認められないまま拘束された。さらにその次の日、彼女のElPitazo.comの同僚ダービソン・ロハスもまた尋問を受けた。ただし、ロハスは「エリコイデ」*を去る際に、なんの法的根拠もないまま自分の携帯電話を引き渡すことを強制された。

*訳注 El Helicoideとは「らせん体」という名前をもつSEBINの本部の建物のこと。

 彼らを結びつけるものは何か? これらすべては、ベネズエラの中央銀行本部で6月21日に起きた奇妙な事件に端を発している。一人の武装した男が中央銀行に軽々と入り込み、人質を取って、ニコラス・マドゥロと中央銀行総裁ネルソン・メレンテスと話すことを要求した事件だ。撃ち合いになった後、当局によって犯人は射殺され、2名の負傷者を出した。

 銃撃犯のフアン・ダビド・オリベロス・ガルシアという名前の27歳の男は、遺書のような動画を残していた。動画の中で彼は「国民のために、国民が苦しんでいる飢えのために」事件を起こしたと証言しており、精神異常者による犯行という主張を否定している。ビデオは公開され、SEBINはこのビデオがどのようにして公開に至ったのかを探り出すための聖戦に乗り出したというわけだ。



 解放された直後、カマチョはSEBINのエージェントからこのビデオについて聞かれたとツイートした。このSEBINの興味は、のちにトレスとロハスの尋問においても確認された。

 さらに奇妙なのが、ダービソン・ロハスの携帯の押収だ。ロハスおよびロハスの弁護士であるマリノ・アルバラドによると、この捜査を担当している検察官エイケル・カンピオーネからと考えられる指示があり、SEBINのエージェントは携帯を取り上げたという。カンピオーネも司法省もともにこれを否定している。この直後、カンピオーネはこの事件から手を引かされ、カンピオーネの後任は時がくればロハスに携帯電話を返却することを約束した。私がこれを書いている時点では、まだ返却はされていないが。

 NGOエスパシオ・プブリコの代表カルロス・コレアは、これをより大規模な反ジャーナリストの流れの一部だと見ている。


"最近では、治安部隊がリポーターの携帯を取り上げ、プライバシーを侵害してリポーターの取材した内容を消去して仕事をさらに困難にすることは当たり前になっている。憲法で定められた権利がまったく尊重されない。このようなハラスメントがはびこる中でジャーナリストの仕事はますます困難になっている。

 適正な捜査手続きを踏まえない違反だけでも十分気がかりだが、この問題が実際にあらわにしているのは、明確に憲法28条で保護されているジャーナリストの情報提供者を守る義務への明らかな迫害だ。しかもそれだけではない。ジャーナリストの倫理規定では、ジャーナリストは「いかなる状況においても職業上の秘密を暴露してはならない」と定められている。

 倫理規定18条はその点について「ジャーナリストは、情報提供者がその身元を隠すことを要求した場合、いかなる状況においてもそれを明らかにしてはならず、情報提供者の判断を尊重し、あらゆる圧力を拒絶しなければならない」と明確に示している。

 政府の反応はどうだろうか?護民官(人民オンブズマン)タレク・ウィリアム・サアブは事件に対しては反対、ただしジャーナリストの情報提供者保護の原則については賛成の立場を示した。他方、ディオスダド・カベジョ*は自らのテレビ番組の中で、当局への協力を拒むジャーナリストたちを攻撃した。


"情報源を暴くために数人のジャーナリストを違法に拘束したと言われる件で、不満の声があがっていますが... このテロとヘイトスピーチの時代、考え直してみるのも重要でしょう。第一に、ベネズエラのジャーナリストが国家や国家機関の安全保障に関わる捜査に協力を求められているときに、いったいジャーナリストの情報源の秘匿はどこまで可能か、という点。第二に、人々の一般的な利益がかかっているようなケースではジャーナリストの責任はどうなるのか、という点。第三に、他の人々の命に関わるような事件において、ジャーナリストが情報源の秘匿を理由に情報を提供しないことが本当に義務といえるのか、という点です。単なる思いつきですがね。

おぉぉ、この人に倫理について説教されるとか、最高だね!

*訳注 ディオスダド・カベジョは現在は政府の重要ポストにはついていないが、ベネズエラ政府の影のドンともフィクサーとも言われ、麻薬密売組織「太陽のカルテル」の主要人物と目されている。


※当記事は野田 香奈子氏のブログ「ベネズエラで起きていること」の記事を転載したものです。

野田 香奈子

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