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アメリカの外交政策で攻守交代が起きた

ニューズウィーク日本版 2016年8月16日 16時0分

<これまでにない、外交下手の共和党vs安全保障に強い民主党という構図になった今回の大統領選。逆転劇はトランプの命取りになる?>(写真は7月の民主党全国大会で大統領候補指名を受諾したクリントン)

 歴代の大統領選挙で、二大政党の候補がどのように外交政策を議論していたか記憶にあるだろうか。共和党はドワイト・アイゼンハワーからジョン・マケインまで、自分には堅実な外交政策を運営する能力があるという雰囲気を醸し出すことに努めた。反対に民主党はジョージ・マクガバンからジョン・ケリーまで、安全保障に弱腰と批判されてきた。

 今年の大統領選はこれまでとはまるで違う。民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官は冷静な口調に終始する一方、共和党候補のドナルド・トランプは何をしでかすか分からない、外交の素人。同盟国との関係や地球規模の課題、国際機関の軽視など、従来の共和党の堅実路線から逸脱するトランプは過去の共和党候補と正反対だ。

【参考記事】自称「救世主」トランプがアメリカを破壊する

 先月末の民主党全国大会では、クリントンがかつてニューヨーク州選出の上院議員として9・11同時多発テロ後に取った果敢な行動や、国務長官として培った安全保障政策の経験が最大の目玉として挙げられ、かつての同僚や部下たちが応援演説を行った。

 その翌日、トランプは国務長官時代の私用メール問題でロシアにクリントンへのハッキングを促すなど、従来の外交常識をひっくり返した。プーチン政権との危険な関係について、議会で本格的に追及されてもおかしくないほどの失言だ。

中国はトランプに期待

 ウォール・ストリート・ジャーナルとNBCニュースによる5月の合同世論調査では、外交政策の手腕への支持率でクリントンはトランプを27ポイント上回った。軍の最高司令官としての支持もクリントンが10ポイント高かった。もちろん、こうした数字は今回の波乱に満ちた両党の党大会の後では変化もあろう。今後、トランプは民主党政権のテロ対策を弱腰と非難することだろう。それでも、外交政策についてクリントンの優位が揺らぐことはもうない。



 従来の大統領選からすれば、驚くべき変化だ。作家のノア・ゴードンが14年にアトランティック誌で指摘した言葉を借りれば、「この40年近く、世論調査を見る限り、米国民は国家安全保障や外交、軍事面で共和党を信頼してきた」からだ。

 ところが今や、共和党の外交関係者はトランプを支持していない。それどころか、スコウクロフト元大統領補佐官やアーミテージ元国務副長官といった共和党の外交政策の重鎮が続々とクリントン支持に動いている。

 そんなクリントンにも、外交政策での弱みがないわけではない。国務長官時代、リビア東部のベンガジで起きた米領事館襲撃事件での不手際や、私用メール問題がそうだ。

【参考記事】ライアンやマケインも敵に回し、ますます孤立するトランプ

 ただ、多くの共和党員だけでなく、国家安全保障に関わる政策決定者らにとって、こうした問題はクリントン不支持の理由にはならない。

 むしろ、孤立主義を公約し、イスラム教徒を非難し、NATO加盟国に対して防衛義務を果たさないと発言するトランプに対して、共和党員は離れていくばかりだ。

 トランプは政治経験がないばかりかモラルも皆無。第二次大戦後のどの大統領候補よりもアメリカの安全保障上、未曾有の脅威になるかもしれない。外交専門家からは、建国史上最悪の候補と見なされる始末だ。

 ただ、中国はトランプの勝利に期待しているらしい。クリントンは国務長官時代、人権についてやかましかったからだ。中国の指導者なら、トランプにでも務まるかもしれないが。

From Foreign Policy Magazine

[2016.8. 9号掲載]
デービッド・ロスコフ(フォーリン・ポリシーグループCEO)

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