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1万7000人が殺され、今も殺され続けているシリアの刑務所はこんなところ

ニューズウィーク日本版 2016年8月18日 19時18分

<シリア内戦開始から5年、アサド政権の拷問による死者が少なく見積もっても1万7000人に達することがアムネスティの調査でわかった。元収容者などへの聞き取り調査を基に再現した悪名高いサイダネヤ刑務所の3D画像も公開、一刻も早い行動を促している>

 内戦が続くシリア国内の刑務所で、アサド政権側の残虐な拷問による死者数が毎月300人に上ることが、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの調査で明らかになった。

 最新の報告書は、シリア内戦が始まった2011年以降に少なくとも1万7723人が拘束された収容施設内で死亡したと発表。政権側による組織的な「人道に対する罪」の実態を告発した。シリアでは内戦開始以前にも、2011年までの10年間で年間約45人が拘束中に死亡していたが、報告書を執筆したアムネスティのクラウディア・シウフラーは本誌の取材に「収容施設における現在の死者数は、前代未聞で最悪の状況だ」と語った。

【参考記事】人間を「駆除」するアサドの収容所、国連が告発

 シリアでは、ジャーナリストや人権活動家、医療関係者に至るまで、少しでも反体制的とみなされればだれでも投獄される危険がある。最近は、シリア国内で人道支援活動に携わる職員が投獄されるケースも急増している。

私語禁止のなかの拷問死

 政権側の収容施設のうち死者数が最も多いのが、首都ダマスカスから30キロ北にあるサイダネヤ刑務所だ。建物の画像もなく、これまで実態が知られていなかった。今回の報告書は、元収容者や目撃者の証言をもとに、同刑務所の全体像や内部構造を再現。アサド政権による組織ぐるみの拷問や虐待の内情を暴いている。

【参考記事】内戦下の医療の過酷すぎる現実

 聞き取り調査に協力したのは、シリア当局が運営する刑務所や収容施設で拷問を受けた生存者65人。平和的な抗議活動に参加して拘束されたという弁護士や活動家、農家の青年など、元収容者の多くが拷問されたうえ、処刑の現場に居合わせていた。目の前で収容者が殴り殺され、監房には死体が転がる惨状だったという。収容施設では一切の私語が禁じられ、静まり返った建物内には生々しい拷問の音が響き渡った。

 拷問の手口は様々だ。収容者を載せたトラックが刑務所に到着すると、金属製の警棒や電気ケーブルで殴打する恒例の「歓迎パーティー」が行われた。女性の収容者は施設の警備員から性的暴行を受ける。タイヤの中に身体を押し込めて殴打する「デュラブ」や、足の裏を鞭打つ「ファラカ」など、収容者の「自白」を強要する拷問が日常的に行われた。


サイダネヤ刑務所で使われたとされる拷問方法 Amnesty International/Forensic Architecture



 収容環境は劣悪で、十分な水や食料、医薬品も与えられなかった。換気扇が動かなくなった翌日に、7人の収容者がたて続けに死亡したという証言もある。今回の調査で公表した1万7723人という死者数も、まだまだ実態を反映していないとシウフラーは言う。「拘束中に行方不明になった数万人を含めると、実際の死者数はもっと増えるはずだ」

【参考記事】死者47万人、殺された医師705人......シリア内戦5年を数字で振り返る

 アムネスティは元収容者の記憶だけを頼りに、サイダネヤ刑務所の全体像を映す3D画像を製作。初めて内部構造を明らかにした。「元収容者が経験した壮絶で恐ろしい状況を再現し実態を伝えることで、国際社会が結束して行動を起こすきっかけを作りたかった」とシウフラー。

 シリアの難民問題や北部アレッポでの激戦に国際社会の注目が集まる反面、シリアの閉ざされた刑務所内部で続く組織的な拷問や殺害が見過ごされているのではないか。そう懸念するシウフラーは言った。「いつか現在のシリアの状況を振り返った時、国際社会は収容施設から救えたはずの多数の命を見殺しにして、シリアの人々の期待を裏切った責任を思い知るだろう」

ルーシー・ウェストコット

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