Infoseek 楽天

オリンピック最大の敗者は開催都市

ニューズウィーク日本版 2016年8月23日 17時11分

<オリンピック開催都市には新たな投資や観光客がやってきて、長期的に経済を活性化するというのは、IOCの宣伝文句であって事実ではない。現実はむしろその逆だ> (写真は、次の夏季五輪開催都市東京の知事として五輪旗をリオから引き継いだ小池百合子)

 オリンピックはスポーツの祭典だ。開催期間中は世界のほぼ2人に1人が、人生を懸けて戦うトップ選手の姿を観戦する。世界は感動のエピソードに酔いしれ、夢を見て、奮い立つ──だが、おとぎ話はここまでだ。現実を見渡せば、開催都市への経済波及効果が実際にはほとんどないことが判明する。人々の酔いも、一気にさめる。

【参考記事】リオは便乗商法が花盛り、五輪マークのコカインまで

 一見すると、オリンピック開催は経済活性化の切り札のように見える。壮大な新スタジアムを建設すれば建設業界は活況を呈し雇用も生まれる。その上、世界中から観戦に訪れた観光客もお金を落としてくれるとなれば、バラ色の未来を期待したくなる。

誇張される経済効果

 だが、オリンピック開催がもたらす経済波及効果は極端に誇張されている。国際オリンピック協会(IOC)は、2012年にロンドン五輪を開催したイギリスについて、開催後も10年近くは経済効果が持続し、海外からの投資や新しいビジネス機会も増えると予測した。根拠もなしに。そして4年後の今、イギリスは景気後退局面にある。

 リオ五輪のスローガンは「新しい世界」だったが、五輪後のブラジルに好況の未来は見えない。ブラジルが参考にすべき国は、2004年のアテネ五輪に巨額の資金を注ぎ込んだことが遠因となって2010年に財政危機を招いたギリシャだろう。

【参考記事】五輪開催コストは当初予算の「5割増し」が平均額

五輪後に残る負の遺産

 オリンピック関連施設の建設に多額の金がかかるのは周知の事実だ。そのうえで必ず大きな議論を呼ぶのは、「だれが建設費を負担するか」という問題だ。

 IOCは開催都市から多額の費用負担を引き出そうとする。IOCによる選考過程でも、競技施設の建設費用についてIOCの基準を満たす財政負担ができるかどうかが重要な評価ポイントとされる。晴れて開催都市となれば、IOCは見返りとして「長期に渡り持続する経済波及効果」があるというお墨付きを与える。

【参考記事】東京五輪まで「5年しかない」現実



 しかし、輝くものが何でも金メダルと思ったら大間違い。開催国にとって、夏季オリンピックはほぼ確実に1度限りのイベントだ。これまでに4都市だけが2度以上の夏季オリンピックを開催しているが、その実現にロンドンは64年(1948年、2012年)、アテネは108年(1896年、2004年)、ロサンゼルスは52年(1932年、1984年)、そしてパリは24年(1900年、1924年)の年月を要している。

 これが意味するのは、オリンピック開催国は大会後、巨大な複合施設の処理に長いこと悩むことになるということだ。開催都市が維持と整備の継続に費用を支払う一方で、一部の施設は何十年もの間、使われなくなる。2008年北京の夏季オリンピックで使用された会場の大半は、北京のはずれで放棄されたままになっている。地元のアーティストや自動車学校の教習生などがこれらの会場を利用してきたが、これらの会場をつくって維持するのにかかる何十億ドルという費用に見合う価値が、果たしてそれにあるのだろうか?

観光、建設、輸出

 オリンピックは大会の直前・直後に観光や投資を増加させるだろうか。大方の予想とは裏腹に、こうした事実は明白でない。2012年にイギリスが夏季オリンピックを開催した月の外国人訪問客は、2011年の同月と比べて約5パーセント減少した。ギリシャでは、アテネで開かれた2004年夏季オリンピック直後の3カ月間で、7万人が職を失った(おもに建設業)。

 そして、長期的な経済活動の増加という約束はどうなのか? ある最近の研究から、オリンピック招致に失敗した場合、その国の輸出は、実際に開催できた場合と同じくらい増加することがわかった。重要なのは、立候補することによって、その国がビジネスに対してオープンであるという信号が送信されることなのだ。

 つまるところ、オリンピックの開催は、大会で選手たちが競争するのと同じようなものだ。目標達成に向けた大いなる努力とスタミナ、意欲が必要になる。だが、誘致に関して言えば、勝つことは負けることよりも悪いのかもしれない。

 リオはオリンピックの栄光に浴している今をたっぷり楽しむべきだ。9月には、その間違いなくその代償を払うことになるのだから。

This article first appeared on the Foundation for Economic Education site.

Christopher Koopman is a research fellow with the Project for the Study of American Capitalism at George Mason University's Mercatus Center. Thomas Savidge is a program associate for the State and Local Policy Project at the Mercatus Center.


クリストファー・コープマン(米ジョージメイソン大学研究員)、 トマス・サヴィッジ(米ジョージメイソン大学准教授)

この記事の関連ニュース