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【写真特集】タックスヘイブンの知られざる素顔

ニューズウィーク日本版 2016年8月25日 18時0分

<今や国際貿易の半分以上がオフショア金融や税逃れの象徴であるタックスヘイブン(租税回避地)を経由するといわれているが、多くの人にとってはまだまだ謎の世界だ>(冒頭写真は英領ケイマン諸島:首都ジョージタウンにあるグランドケイマン島では、新しいマリンスポーツ「ジェットパック」が楽しめる)

 企業や富裕層によるタックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を暴いた「パナマ文書」が4月に公開されると、世界に衝撃が走った。各国の金融当局などによる調査も始まり、しばらく余波は続きそうだ。

 グローバル化とともに、租税回避地はひそかに世界へ浸透。今や国際貿易の半分以上が、オフショア金融や税逃れの象徴である同地を経由するといわれる。だが多くの人にとっては謎の世界で、思い描くのは「ヤシの木がある南国リゾート」だろう。

【参考記事】パナマ文書で注目を浴びるオフショア市場、利用するのは悪くない?

 では実際は? 写真家パオロ・ウッズとガブリエレ・ガリンベルティは13~15年に米デラウェア州や英王室属領ジャージー島、パナマ、シンガポールといった租税回避地を旅し、写真集『ヘブンズ――年次報告書』にまとめた。彼らには、形のないものに形を与えたいとの強い思いがあったという。さらに写真集と同名の会社ヘブンズをデラウェア州に設立。同州にはアップルやコカ・コーラ、グーグルなど28万5000社以上が登記上の本社を置いている。

 税を逃れた資金は、本来なら教育や医療、安全保障に使えたもの。この問題は公と私、企業と国家、持てる者と持たざる者の関係を私たちに問い直す。


<英領ケイマン諸島>グランドケイマン島のカンドラ・パワリー(25)と3人の子供たち。カリブ海のオフショア金融センターであるケイマン諸島は1人当たりGDPが南北アメリカで4番目に高いが、貧困地区も存在する。労働力の55%を占める外国人も、サービス業に従事する低賃金職と、金融業の高賃金職に分かれている


<パナマ>パナマ運河に新しく造られた水門の工事現場。大型船舶の通行を可能にすべく数十億ドルをかけて行われた大規模な拡張工事は今年完了の予定だが、当初予定より工期は2年ほど遅れ、費用は2倍に膨らんだ

<英領バージン諸島>バージン諸島の財務次官ニール・スミスのオフィス。世界有数の租税回避地であるバージン諸島は人口わずか2万8000人だが、登録している企業数は80万社以上ともいわれる。中国に対する海外直接投資額では、香港に次いで2番目だ


<ロンドン>会計事務所アーンスト・アンド・ヤングのロンドン本社。同社は08年に米証券大手リーマン・ブラザーズが経営破綻した当時、監査を手掛けていた。同社とプライスウォーターハウスクーパーズ、デロイト、KPMGの「ビッグ4(四大会計事務所)」は租税回避を支える存在として、しばしば非難される


<ジャージー島>イギリス海峡に浮かぶ英王室属領チャネル諸島のジャージー島は、英NGO「タックス・ジャスティス・ネットワーク」がまとめた15年の金融秘密度指数ランキングで16位。潮の満ち干が激しいことでも有名で、その差は10メートルにもなるという。首都セントヘリアでは、満潮時にできた海水だまりで子供たちが泳いでいる


<米デラウェア州>会社設立の手続きを監督するデラウェア州の州務副長官リチャード・J・ガイセンバーガー(左)。同州にはアメリカの株式公開企業の半数以上、フォーチュン500社の6割以上が登記上の本社を構える。新規設立も1日に300社以上あり、州政府庁舎は月曜日~木曜日は真夜中まで開庁。手続きは数分で終わるという

<シンガポール>チャンギ国際空港内の高級品保管施設「シンガポール・フリーポート」には、個人や企業が所有する総額数十億ドル相当ともいわれる美術品や貴重品などが預けられている。滑走路そばの同施設は税務署の手の届かない「中間地帯」。写真はその中の金庫室で話をするシンガポール・フリーポートのトニー・レイナード会長(右)と、ファインアート・ロジスティクス社のクリスチャン・パウリ本部長


<香港>香港の有名ホテル、マンダリンオリエンタルでチーフコンシェルジュを務めるジョバンニ・バレンティ(69、中央)。20年以上にわたり各国の大統領や著名人、ビジネスマンを日々迎え、超高額のスイートルームへと案内してきた。「香港で唯一の神はお金」と彼は言う


撮影:パオロ・ウッズ&ガブリエレ・ガリンベルティ
ウッズは1970年生まれでカナダ人とオランダ人の両親を持ちイタリアで育つ。ガリンベルティは1977年イタリア生まれ。本作が含まれる共著の写真集『ヘブンズ――年次報告書』(英デウィ・ルイス社刊)がある

Photographs by Paolo Woods & Gabriele Galimberti-Institute

<本誌2016年5月31日号掲載>

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Photographs By PAOLO WOODS & GABRIELE GALIMBERTI

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