<メキシコを訪問して大統領と共同会見までしたトランプだが、国境の「壁」の建設に関しては双方の意見の食い違いが露呈。直後にアリゾナ州で開催された支持者集会では、トランプの移民対策に「トランプファン」が大喝采。奇々怪々な選挙戦は続く>(写真は共同会見に臨んだトランプとメキシコのペニャニエト大統領)
ドナルド・トランプ候補は、昨年6月に大統領選に立候補を表明して以来、「外遊」を計画したことが何回かありました。1つは、昨年12月にイスラエルを訪問しようとしたことがあります。ですがこの時は、ネタニエフ首相に面会を拒否されたことで訪問を断念しています。
この時点でハッキリと「イスラム教徒の入国禁止」という「スローガン」を抱えていたトランプを、イスラエルが歓迎しなかったのは当然です。イスラエルは多民族、多宗教国家で、イスラエル国民の約17%がイスラム教徒であることを考えれば理解できることです。
続いて、今年6月にはアイルランドへの訪問を計画しましたが、この時は計画が話題に上っただけで「人種差別主義者の入国反対」デモが発生し、とても入国できる雰囲気ではないということで断念しています。
そのトランプが、今週8月31日にメキシコを訪問しました。ちゃんと首都のメキシコシティを訪れ、大統領府でペニャニエト大統領と会談し、共同会見までやったのです。
【参考記事】芸人も真っ青? 冗談だらけのトランプ劇場
会見の中身は基本的に「西半球の繁栄と安全に関する協力」をすることで一致したというのが基本トーンで、「外交辞令」が主だったようです。ただ、会談後にトランプは「国境に建設する壁についても議論したが、費用の負担については話題に上らなかった」と話しています。
一方、ペニャニエト大統領は、会談後のツイートで「トランプの発言は虚偽だ。自分は壁の建設費用についてメキシコは支払わないとハッキリ言った」と述べ、早速食い違いが出ています。
このこと自体、かなり問題だと思いますが、もっと重要なのは、このメキシコシティ訪問の後に、トランプはアリゾナ州フェニックスで支持者を集めて大集会を開いたことです。事前に各メディアには「移民政策に関する主要な政策の発表」があると通告されていたこともあり、各ケーブルニュース局は特番を組んで対応しました。
その「主要な政策」ですが、何とも奇妙なものでした。3つ特筆すべき点があったと思います。
1つ目は、その「メキシコとの壁」の問題です。ペニャニエト大統領との会談の直後にも関わらず、スピーチの冒頭「1番目の政策」として、「メキシコ国境に大きな壁を作る」とブチ上げ、しかも「費用はメキシコ持ちだ」とやったのです。会場内は大喝采になりましたが、これは問題だと思います。
アメリカでは、リオ五輪の際に自分が加害者のくせに、被害者だという証言をしているアメリカ人の水泳選手が、アメリカからブラジルに戻って出頭するかどうかが注目されているのですが、この水泳選手の問題と同じように、こんなことを言っていたら、メキシコから逮捕状が出てもおかしくないと思います。
2つ目は、その雰囲気です。「さあ楽しい時間を過ごそう」という「いつもの支持者集会」と同じ軽い「ノリ」で始まり、「じゃあ、準備はいいかな? 1番目から行こう」という調子で、まるでお笑いトークショーのような話し方で入ったのには驚きました。
聴衆は、ほとんどが「トランプのファン」と見られ、中身はどうでもいいからヒラリーやワシントンの悪口で盛り上がろうといったグループのようでした。例えば、イスラム教徒の入国者には「イデオロギー試験」をするという箇所で、聴衆から「USA、USA」というコールが出た場面では、トランプ自身も面食らったようで、「国を愛するのはいいことだ」などという意味不明のリアクションを返していたぐらいです。
【参考記事】好調ヒラリーを襲う財団疑惑
一方で、「どうして不法移民はいけないのか?」というロジックとしては、「不法移民には凶悪犯罪を犯す人間がいる」という説明で一貫しており、何とスピーチの終わりには、「不法移民の犯罪者に殺された被害者の家族」を大勢登場させています。そして「犯罪者に寛容なリベラルは犯罪者と同じ」という憎悪を煽ったわけですが、この種の「ネガティブ・キャンペーン」は、市政や州政レベルならともかく、大統領選で使うのは珍しいと思います。とにかく、異様な雰囲気のスピーチでした。
3つ目には、そんな「ヘイトスピーチすれすれ」の内容に加えて、簡単なことで「USAコール」を大合唱してしまう妙な聴衆という組み合わせにしては、具体的な内容は「穏健」だったということがあります。壁の費用について、相変わらず「メキシコ持ち」だと言っているのは大問題ですが、それ以外については、重大犯罪の場合の国外追放についても、ビザ発給時の生体認証の導入についても、中身は常識的でした。
ということで、よく中身を検証してみると奇々怪々なのですが、支持者たちは大いに盛り上がって満足していたようです。もしかすると、ここまでバカバカしい選挙戦が続くのであれば、同時選挙となる共和党の上下両院議員の候補者たちも、「トランプと自分は別」だと開き直った選挙戦ができるかもしれません。その真意は不明ながら、奇々怪々な選挙戦が継続しているとしか言いようがありません。
ドナルド・トランプ候補は、昨年6月に大統領選に立候補を表明して以来、「外遊」を計画したことが何回かありました。1つは、昨年12月にイスラエルを訪問しようとしたことがあります。ですがこの時は、ネタニエフ首相に面会を拒否されたことで訪問を断念しています。
この時点でハッキリと「イスラム教徒の入国禁止」という「スローガン」を抱えていたトランプを、イスラエルが歓迎しなかったのは当然です。イスラエルは多民族、多宗教国家で、イスラエル国民の約17%がイスラム教徒であることを考えれば理解できることです。
続いて、今年6月にはアイルランドへの訪問を計画しましたが、この時は計画が話題に上っただけで「人種差別主義者の入国反対」デモが発生し、とても入国できる雰囲気ではないということで断念しています。
そのトランプが、今週8月31日にメキシコを訪問しました。ちゃんと首都のメキシコシティを訪れ、大統領府でペニャニエト大統領と会談し、共同会見までやったのです。
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会見の中身は基本的に「西半球の繁栄と安全に関する協力」をすることで一致したというのが基本トーンで、「外交辞令」が主だったようです。ただ、会談後にトランプは「国境に建設する壁についても議論したが、費用の負担については話題に上らなかった」と話しています。
一方、ペニャニエト大統領は、会談後のツイートで「トランプの発言は虚偽だ。自分は壁の建設費用についてメキシコは支払わないとハッキリ言った」と述べ、早速食い違いが出ています。
このこと自体、かなり問題だと思いますが、もっと重要なのは、このメキシコシティ訪問の後に、トランプはアリゾナ州フェニックスで支持者を集めて大集会を開いたことです。事前に各メディアには「移民政策に関する主要な政策の発表」があると通告されていたこともあり、各ケーブルニュース局は特番を組んで対応しました。
その「主要な政策」ですが、何とも奇妙なものでした。3つ特筆すべき点があったと思います。
1つ目は、その「メキシコとの壁」の問題です。ペニャニエト大統領との会談の直後にも関わらず、スピーチの冒頭「1番目の政策」として、「メキシコ国境に大きな壁を作る」とブチ上げ、しかも「費用はメキシコ持ちだ」とやったのです。会場内は大喝采になりましたが、これは問題だと思います。
アメリカでは、リオ五輪の際に自分が加害者のくせに、被害者だという証言をしているアメリカ人の水泳選手が、アメリカからブラジルに戻って出頭するかどうかが注目されているのですが、この水泳選手の問題と同じように、こんなことを言っていたら、メキシコから逮捕状が出てもおかしくないと思います。
2つ目は、その雰囲気です。「さあ楽しい時間を過ごそう」という「いつもの支持者集会」と同じ軽い「ノリ」で始まり、「じゃあ、準備はいいかな? 1番目から行こう」という調子で、まるでお笑いトークショーのような話し方で入ったのには驚きました。
聴衆は、ほとんどが「トランプのファン」と見られ、中身はどうでもいいからヒラリーやワシントンの悪口で盛り上がろうといったグループのようでした。例えば、イスラム教徒の入国者には「イデオロギー試験」をするという箇所で、聴衆から「USA、USA」というコールが出た場面では、トランプ自身も面食らったようで、「国を愛するのはいいことだ」などという意味不明のリアクションを返していたぐらいです。
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一方で、「どうして不法移民はいけないのか?」というロジックとしては、「不法移民には凶悪犯罪を犯す人間がいる」という説明で一貫しており、何とスピーチの終わりには、「不法移民の犯罪者に殺された被害者の家族」を大勢登場させています。そして「犯罪者に寛容なリベラルは犯罪者と同じ」という憎悪を煽ったわけですが、この種の「ネガティブ・キャンペーン」は、市政や州政レベルならともかく、大統領選で使うのは珍しいと思います。とにかく、異様な雰囲気のスピーチでした。
3つ目には、そんな「ヘイトスピーチすれすれ」の内容に加えて、簡単なことで「USAコール」を大合唱してしまう妙な聴衆という組み合わせにしては、具体的な内容は「穏健」だったということがあります。壁の費用について、相変わらず「メキシコ持ち」だと言っているのは大問題ですが、それ以外については、重大犯罪の場合の国外追放についても、ビザ発給時の生体認証の導入についても、中身は常識的でした。
ということで、よく中身を検証してみると奇々怪々なのですが、支持者たちは大いに盛り上がって満足していたようです。もしかすると、ここまでバカバカしい選挙戦が続くのであれば、同時選挙となる共和党の上下両院議員の候補者たちも、「トランプと自分は別」だと開き直った選挙戦ができるかもしれません。その真意は不明ながら、奇々怪々な選挙戦が継続しているとしか言いようがありません。