<ISISの海外プロパガンダ、インターネットを使った新兵勧誘、ローンウルフを焚きつけた欧米での大規模テロ──すべての責任者がナンバー2のアドナニだった>
テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)は30日、同組織の公式メディア「アマク通信」を通じて、海外でのテロ戦略とインターネット上のプロパガンダを指揮していた幹部、アブ・ムハンマド・アル・アドナニ報道官が死亡したと発表した。声明によると、アドナニはシリア北部の都市アレッポで「作戦視察中」に死亡したという。
ロシア国防省はアドナニがロシア軍の空爆で死亡したと発表したが、米国防総省はこれを否定、標的を絞った米軍の空爆で死んだと主張しており、真相は不明だ。いずれにせよ、支配地域を失いつつあるISISにとって、アドナニの死が大きな痛手となることは確かだ。
アドナニ(本名はタハ・ソブヒ・ファラハ)は、カリフを自称するISISの最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディに次ぐナンバー2の幹部だった。ISISの海外責任者として、世界中のシンパにテロを呼び掛けてきた。
海外への攻撃を担当
ヨーロッパ、アジア、アラブ諸国で残虐なテロを行う下部組織の監督を担当し、アドナニが指揮するISISの対外テロ機関「エムニ」は、多数の死者を出したパリの同時多発テロ、ブリュッセルの連続テロ、イスタンブールの空港テロなどに関与したとみられる。
【参考記事】パリ同時テロは、ISISの軍事的弱体化のしるし
ローンウルフ(一匹狼)型のテロも呼び掛けた。今年6月にフロリダ州オーランドのクラブで起きた銃乱射事件、7月にドイツのバイエルン州で起きた銃乱射と列車内の襲撃事件、フランスで6月に起きた警官夫婦殺害と7月に起きた神父殺害など、いずれも犯人はアドナニのメッセージに触発されたといわれる。
ISISが発表する動画の検閲官も務めていた。残忍な処刑の動画をじっくり見比べ、最も効果的な時期に、最も衝撃的な動画を公開させていた。
イラクとシリアで支配地域を失いつつあるISISは、アドナニの指揮下、世界中の支持者にテロを実行させ、メディアに派手に取り上げられることで、存在感をアピールしようとしてきた。
【参考記事】連日の大規模テロ、ISISの戦略に変化
そのアドナニの死は、ISISの生き残り戦略と新兵募集に深刻なダメージを与えるだろう。
だが、これでテロが収まると思うのは早い。幹部を次々に失い、支配地域と資金源を失いつつあるISISは、残された拠点を死守し、欧米人を恐怖の底に陥れるテロ攻撃を仕掛けようとする、と専門家は断言する。
「指導者が殺されると、テロ組織はいっそう過激になりがちだ。直後には、民間人を標的にした攻撃を行う確率も高い」と、ノースイースタン大学の政治学者で米シンクタンク・外交問題評議会のメンバーでもあるマックス・エイブラムズは言う。
エイブラムズによると、テロ組織で幹部がいなくなると下部のメンバーがいきなり権力を握るため、攻撃のターゲットが変わる傾向がある。ただし、アドナニは尋常でなく過激だったので、それ以上に過激になることは考えにくいという。
【参考記事】ISISの支配下には31,000人以上の妊婦がいる
アドナニはシリアのイドリブ県で77年に生まれた。「ISISの声」となり、過激思想に傾倒する若者に欧米諸国でテロを実行するよう、イスラムの聖なる月ラマダンを中心に、ネット上で盛んに呼び掛けてきた。その影響力は極めて大きく、米政府は500万ドルの懸賞金をかけて居場所の特定を急いでいた。
アサドに捕まったことも
03年の米軍のイラク侵攻後、国際テロ組織アルカイダに入り、そこから分派したISISのメンバーとなったアドナニは、ISISの最古参の幹部の1人で、発足当初から中心的なメンバーだった。イラクでは米軍に、シリアではアサド政権に収監されたことがある。
最盛期のISISは頭がいくつもある怪物のような組織だったが、米軍主導の有志連合がそれらの頭をひとつずつ斬り落としてきた。ここ数カ月間に戦争大臣のアブ・ウマル・アル・シシャニ、ナンバー2の司令官だったアブドゥル・ラーマン・ムスタファ・アル・カドゥリが殺害され、アドナニの死で、残された著名な指導者はバグダディのみとなった。
「(アドナニの)死でISISが終わるわけではない」と、安全保障専門のコンサルティング企業ソウファン・グループは30日に発表した。「それでも、ISISにとっては大きな痛手であり、テロの舞台から主役級の役者がまた1人消えたことになる」
ジャック・ムーア
テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)は30日、同組織の公式メディア「アマク通信」を通じて、海外でのテロ戦略とインターネット上のプロパガンダを指揮していた幹部、アブ・ムハンマド・アル・アドナニ報道官が死亡したと発表した。声明によると、アドナニはシリア北部の都市アレッポで「作戦視察中」に死亡したという。
ロシア国防省はアドナニがロシア軍の空爆で死亡したと発表したが、米国防総省はこれを否定、標的を絞った米軍の空爆で死んだと主張しており、真相は不明だ。いずれにせよ、支配地域を失いつつあるISISにとって、アドナニの死が大きな痛手となることは確かだ。
アドナニ(本名はタハ・ソブヒ・ファラハ)は、カリフを自称するISISの最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディに次ぐナンバー2の幹部だった。ISISの海外責任者として、世界中のシンパにテロを呼び掛けてきた。
海外への攻撃を担当
ヨーロッパ、アジア、アラブ諸国で残虐なテロを行う下部組織の監督を担当し、アドナニが指揮するISISの対外テロ機関「エムニ」は、多数の死者を出したパリの同時多発テロ、ブリュッセルの連続テロ、イスタンブールの空港テロなどに関与したとみられる。
【参考記事】パリ同時テロは、ISISの軍事的弱体化のしるし
ローンウルフ(一匹狼)型のテロも呼び掛けた。今年6月にフロリダ州オーランドのクラブで起きた銃乱射事件、7月にドイツのバイエルン州で起きた銃乱射と列車内の襲撃事件、フランスで6月に起きた警官夫婦殺害と7月に起きた神父殺害など、いずれも犯人はアドナニのメッセージに触発されたといわれる。
ISISが発表する動画の検閲官も務めていた。残忍な処刑の動画をじっくり見比べ、最も効果的な時期に、最も衝撃的な動画を公開させていた。
イラクとシリアで支配地域を失いつつあるISISは、アドナニの指揮下、世界中の支持者にテロを実行させ、メディアに派手に取り上げられることで、存在感をアピールしようとしてきた。
【参考記事】連日の大規模テロ、ISISの戦略に変化
そのアドナニの死は、ISISの生き残り戦略と新兵募集に深刻なダメージを与えるだろう。
だが、これでテロが収まると思うのは早い。幹部を次々に失い、支配地域と資金源を失いつつあるISISは、残された拠点を死守し、欧米人を恐怖の底に陥れるテロ攻撃を仕掛けようとする、と専門家は断言する。
「指導者が殺されると、テロ組織はいっそう過激になりがちだ。直後には、民間人を標的にした攻撃を行う確率も高い」と、ノースイースタン大学の政治学者で米シンクタンク・外交問題評議会のメンバーでもあるマックス・エイブラムズは言う。
エイブラムズによると、テロ組織で幹部がいなくなると下部のメンバーがいきなり権力を握るため、攻撃のターゲットが変わる傾向がある。ただし、アドナニは尋常でなく過激だったので、それ以上に過激になることは考えにくいという。
【参考記事】ISISの支配下には31,000人以上の妊婦がいる
アドナニはシリアのイドリブ県で77年に生まれた。「ISISの声」となり、過激思想に傾倒する若者に欧米諸国でテロを実行するよう、イスラムの聖なる月ラマダンを中心に、ネット上で盛んに呼び掛けてきた。その影響力は極めて大きく、米政府は500万ドルの懸賞金をかけて居場所の特定を急いでいた。
アサドに捕まったことも
03年の米軍のイラク侵攻後、国際テロ組織アルカイダに入り、そこから分派したISISのメンバーとなったアドナニは、ISISの最古参の幹部の1人で、発足当初から中心的なメンバーだった。イラクでは米軍に、シリアではアサド政権に収監されたことがある。
最盛期のISISは頭がいくつもある怪物のような組織だったが、米軍主導の有志連合がそれらの頭をひとつずつ斬り落としてきた。ここ数カ月間に戦争大臣のアブ・ウマル・アル・シシャニ、ナンバー2の司令官だったアブドゥル・ラーマン・ムスタファ・アル・カドゥリが殺害され、アドナニの死で、残された著名な指導者はバグダディのみとなった。
「(アドナニの)死でISISが終わるわけではない」と、安全保障専門のコンサルティング企業ソウファン・グループは30日に発表した。「それでも、ISISにとっては大きな痛手であり、テロの舞台から主役級の役者がまた1人消えたことになる」
ジャック・ムーア