<一般に「頭が良い(smart)」ことはリーダーに必要な条件と思われているが、頭が良い人特有の「悪い癖」が出ると、良いリーダーにはなれない。特に「スーパー・スマート」と言うべき並はずれた知能を持つリーダーには、傲慢さから来る4つの「悪い癖」がある>
私はエグゼクティブコーチであり、これまでに150人以上の大企業トップと仕事をしてきた。彼らは全員、知的能力(EQなどで測られる「心の知能」や芸術的な能力を除く)を示す一般的なあらゆる指標で平均をはるかに上回る数値をたたきだすはずだ。企業のトップは愚かなことをしでかすこともある。しかし本当に愚かな人物であることはほとんどない。
ここでは頭の良い人たちが抱える典型的な問題点を4つ挙げる。これらは、並外れた知能をもつ「スーパー・スマート」な人たちには、よりいっそう当てはまるものだ。
【参考記事】心が疲れると、正しい決断はできない
1.自分たちがいかに頭が良いかを誇示する
私は10年ほどピーター・F・ドラッカー財団の役員をさせていただいた。そのおかげで、ドラッカー本人と50日間以上一緒に過ごす機会を得ることができた。ドラッカーは疑うべくもなく「スーパー・スマート」の1人であり、それどころか「スーパー・ワイズ(超賢人)」と言っていい人物だ。
ドラッカーは私にこんなことを教えてくれた。「私たちの人生におけるミッションは『常に進歩すること』であり、頭の良さを誇示することではない」。この基本的な教訓を理解していないリーダーがあまりに多いことに驚かされる。
私が以前コーチングを担当した「スーパー・スマート」リーダーの1人は、最初の面談の1時間のあいだに、6回もいかに自分が優秀かを語った。また、数千人のリーダーを対象に、次のような質問をしたことがある。
●あなたのすべての対人コミュニケーションのうち、次のAとBの合計が何パーセントを占めていますか?
A:自分がいかに頭が良く、特別で素晴らしい存在かについて会話をする(自分が話すか、聞き役に回る)
B:他の誰かがいかに愚かで拙劣、間抜けであるかについて会話をする(自分が話すか、聞き役に回る)
驚いたことに世界中どこでも「65%前後」という回答が多かった。自分がどれだけ頭が良いかを誇示したり、他者がいかに愚かであるかを指摘すること、あるいはそういった話を聞くことで得られるものは何もない。「何も得られない」ことに、対人コミュニュケーションの約65%を費やしているのは、どう考えても無駄だろう。
一般的に頭の良い人は、これまでの人生の中で、自分の頭の良さを何度も何度もひけらかしていたに違いない。そうすることで周りから「頭が良い」と思われてきたのだ。すなわち彼らは、「頭が良い」ことに対してたくさんの肯定的評価を受けてきた。人間には(動物にも)、ポジティブな方向に心を強化してくれる行動を繰り返す傾向がある。「頭が良いことを誇示→周りからの肯定的評価」というサイクルを繰り返すほど、先ほどのドラッカーの教訓が忘れられていくことになる。
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2.自分が「正しい」と言い張る
「スーパー・スマート」な人々は、自分が同意できない話をおとなしく聞くのが苦手だ。どうしても相手が間違っていると指摘したくなるからだ。相手が反論してきた時にはすかさず「相手が間違っている」と決めつける。
私が一緒に仕事をした中に、ジョーンズという「スーパー・スマート」な科学者がいた。彼は大会社の研究開発部門のリーダーを務めていた。彼は非常に正直だった。しかし反面、とても無遠慮なところがあった。誰かが彼との「論争」に挑んだ時には、相手の間違いを徹底的に追及し、恥をかかせるのが常だった。
そう、彼はいつでも正しかった。ひどい間違いを犯すまでは。ジョーンズは、会社のある意思決定を積極的に支持した。だがその判断は誤りだった。結果として会社の株式の時価総額を100億ドル以上減らすという大損害につながったのだ。
事件の後、ジョーンズの部下だった科学者数名が会社から事情を聞かれた。それによると彼らはプロジェクトについていくつか疑問をもっていたが、それを上司にあげることはなかった。なぜって? ジョーンズが正しいと確信しているからにはそれは正しいと、彼らは思い込まざるを得なかったからだ。彼らは疑問をもったとしても、上司に論争を挑んだ結果、恥をかかされたくなかったのだ。
3.「そんなことは知っている」と言う
頭の良い人にとって、既知のことに話が及んだ時に、それをおとなしく聞いているのは非常に難しいことなのだろう。どうしてもこう口をはさみたくなる。「そんなことは知っているよ」
頭の良い人たちは、他人の言うことに同意した時、なぜか頭に「No(いいや)」をつけて反応する。「No, I agree with you(いや、君に賛成だ)」「No, I think that is fantastic !(いや、それは素敵だ!)」といった具合に。どうして彼らは「Yes, I agree with you」と言えないのだろう?
この「No」が意味するのは「もちろん私は君に賛成だ。だって、そんなことは私にはすでにわかっているんだから」ということだ。もちろんそんなことは口には出さないし意識もしていないかもしれない。「スーパー・スマート」リーダーはそれで、アイデアへの賞賛の意が伝わると思っているのだろう。しかし「No」という言葉は当然ネガティブな印象を与えるし、賞賛の気持ちを振り払ってしまう。残るのは、「この世に自分が最初に思いつかないアイデアなどない」という傲慢な考えだ。
4.「なんで自分みたいにできないんだ?」と言う
私がコーチングを担当した「スーパー・スマート」リーダーの一人、ジョーのチームのミーティングを見学したことがある。直属の部下たちが各々の到達目標に対する進捗状況を共有するために、報告を行っていた。その中の1人は、明らかに行き詰まっていた。
ジョーは言った。「Xを試すことは考えたのか?」。「思いもよりませんでした」と部下。ジョーは苛立ち、こう言い放った。「わかりきったことじゃないか!」。そしてジョーは部下たちを見回してこう言った。「誰もXを思いつかなかったのか? 私だけしかわからなかったとは信じられない!」
ミーティングの後、私はジョーに言って聞かせなくてはならなかった。あの部下たちは「普通」なのだと。普通じゃないのはジョーのほうだ。彼らは善良でよく働く、「頭の良い」人たちだ。ただジョーほどは頭が良くなかっただけだ。ジョーは、「普通の人間」と一緒に働く術を学ばなくてはならなかった。さらに私は、彼自身が変わらない限り、彼と同じくらい頭の良い人であっても彼と一緒に働きたいとは思わないだろう、とつけ加えた。
私がこれまでに出会った中で最高のリーダーの1人から、素晴らしい教訓を得られたことがある。「個人として偉大な業績をめざす人にとって大切なのは自分自身だ。だが優れたリーダーをめざすならば、"彼ら"(部下など自分以外の存在)を大事にしなければならない」
ここまでに挙げた「頭の良い人」の4つの問題点は、いずれも「自分自身を大切にする」ことによるものだ。それに対して「"彼ら"を大事にする」には、彼らが正しいことも認め、彼らが答えにたどり着くことを誇りに思わなくてはならない。この「自分自身が大切」から「"彼ら"が大事」にシフトするのは容易ではないのだろう。
「知能(intelligence)」と「知恵(wisdom)」には大きな隔たりがあるのかもしれない。知能の高いリーダーが自分の優秀さを誇示している間に、知恵のあるリーダーは誰かがヒーローになる手助けをしている。
[執筆者]
マーシャル・ゴールドスミス Dr. Marshall Goldsmith
エグゼクティブコーチングの世界的権威の1人。30冊以上の本を世に送り出してきたベストセラー作家で、『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(共著、邦訳・日本経済新聞出版社)はアメリカだけでなく、日本でもベストセラーとなった。
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※当記事は「Dialogue Q3 2016」からの転載記事です
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2005年創業。厳選した書籍のハイライトを3000字にまとめて配信する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を提供。国内の書籍だけではなく、エグゼクティブ向け教育機関で世界一と評されるDuke Corporate Educationが発行するビジネス誌『Dialogue Review』や、まだ日本で出版されていない欧米・アジアなどの海外で話題の書籍もいち早く日本語のダイジェストにして配信。上場企業の経営層・管理職を中心に約6万人のビジネスパーソンが利用中。 http://www.joho-kojo.com/top
マーシャル・ゴールドスミス ※編集・企画:情報工場
私はエグゼクティブコーチであり、これまでに150人以上の大企業トップと仕事をしてきた。彼らは全員、知的能力(EQなどで測られる「心の知能」や芸術的な能力を除く)を示す一般的なあらゆる指標で平均をはるかに上回る数値をたたきだすはずだ。企業のトップは愚かなことをしでかすこともある。しかし本当に愚かな人物であることはほとんどない。
ここでは頭の良い人たちが抱える典型的な問題点を4つ挙げる。これらは、並外れた知能をもつ「スーパー・スマート」な人たちには、よりいっそう当てはまるものだ。
【参考記事】心が疲れると、正しい決断はできない
1.自分たちがいかに頭が良いかを誇示する
私は10年ほどピーター・F・ドラッカー財団の役員をさせていただいた。そのおかげで、ドラッカー本人と50日間以上一緒に過ごす機会を得ることができた。ドラッカーは疑うべくもなく「スーパー・スマート」の1人であり、それどころか「スーパー・ワイズ(超賢人)」と言っていい人物だ。
ドラッカーは私にこんなことを教えてくれた。「私たちの人生におけるミッションは『常に進歩すること』であり、頭の良さを誇示することではない」。この基本的な教訓を理解していないリーダーがあまりに多いことに驚かされる。
私が以前コーチングを担当した「スーパー・スマート」リーダーの1人は、最初の面談の1時間のあいだに、6回もいかに自分が優秀かを語った。また、数千人のリーダーを対象に、次のような質問をしたことがある。
●あなたのすべての対人コミュニケーションのうち、次のAとBの合計が何パーセントを占めていますか?
A:自分がいかに頭が良く、特別で素晴らしい存在かについて会話をする(自分が話すか、聞き役に回る)
B:他の誰かがいかに愚かで拙劣、間抜けであるかについて会話をする(自分が話すか、聞き役に回る)
驚いたことに世界中どこでも「65%前後」という回答が多かった。自分がどれだけ頭が良いかを誇示したり、他者がいかに愚かであるかを指摘すること、あるいはそういった話を聞くことで得られるものは何もない。「何も得られない」ことに、対人コミュニュケーションの約65%を費やしているのは、どう考えても無駄だろう。
一般的に頭の良い人は、これまでの人生の中で、自分の頭の良さを何度も何度もひけらかしていたに違いない。そうすることで周りから「頭が良い」と思われてきたのだ。すなわち彼らは、「頭が良い」ことに対してたくさんの肯定的評価を受けてきた。人間には(動物にも)、ポジティブな方向に心を強化してくれる行動を繰り返す傾向がある。「頭が良いことを誇示→周りからの肯定的評価」というサイクルを繰り返すほど、先ほどのドラッカーの教訓が忘れられていくことになる。
【参考記事】20代で資産10億、「アイデア不要論」を語る
2.自分が「正しい」と言い張る
「スーパー・スマート」な人々は、自分が同意できない話をおとなしく聞くのが苦手だ。どうしても相手が間違っていると指摘したくなるからだ。相手が反論してきた時にはすかさず「相手が間違っている」と決めつける。
私が一緒に仕事をした中に、ジョーンズという「スーパー・スマート」な科学者がいた。彼は大会社の研究開発部門のリーダーを務めていた。彼は非常に正直だった。しかし反面、とても無遠慮なところがあった。誰かが彼との「論争」に挑んだ時には、相手の間違いを徹底的に追及し、恥をかかせるのが常だった。
そう、彼はいつでも正しかった。ひどい間違いを犯すまでは。ジョーンズは、会社のある意思決定を積極的に支持した。だがその判断は誤りだった。結果として会社の株式の時価総額を100億ドル以上減らすという大損害につながったのだ。
事件の後、ジョーンズの部下だった科学者数名が会社から事情を聞かれた。それによると彼らはプロジェクトについていくつか疑問をもっていたが、それを上司にあげることはなかった。なぜって? ジョーンズが正しいと確信しているからにはそれは正しいと、彼らは思い込まざるを得なかったからだ。彼らは疑問をもったとしても、上司に論争を挑んだ結果、恥をかかされたくなかったのだ。
3.「そんなことは知っている」と言う
頭の良い人にとって、既知のことに話が及んだ時に、それをおとなしく聞いているのは非常に難しいことなのだろう。どうしてもこう口をはさみたくなる。「そんなことは知っているよ」
頭の良い人たちは、他人の言うことに同意した時、なぜか頭に「No(いいや)」をつけて反応する。「No, I agree with you(いや、君に賛成だ)」「No, I think that is fantastic !(いや、それは素敵だ!)」といった具合に。どうして彼らは「Yes, I agree with you」と言えないのだろう?
この「No」が意味するのは「もちろん私は君に賛成だ。だって、そんなことは私にはすでにわかっているんだから」ということだ。もちろんそんなことは口には出さないし意識もしていないかもしれない。「スーパー・スマート」リーダーはそれで、アイデアへの賞賛の意が伝わると思っているのだろう。しかし「No」という言葉は当然ネガティブな印象を与えるし、賞賛の気持ちを振り払ってしまう。残るのは、「この世に自分が最初に思いつかないアイデアなどない」という傲慢な考えだ。
4.「なんで自分みたいにできないんだ?」と言う
私がコーチングを担当した「スーパー・スマート」リーダーの一人、ジョーのチームのミーティングを見学したことがある。直属の部下たちが各々の到達目標に対する進捗状況を共有するために、報告を行っていた。その中の1人は、明らかに行き詰まっていた。
ジョーは言った。「Xを試すことは考えたのか?」。「思いもよりませんでした」と部下。ジョーは苛立ち、こう言い放った。「わかりきったことじゃないか!」。そしてジョーは部下たちを見回してこう言った。「誰もXを思いつかなかったのか? 私だけしかわからなかったとは信じられない!」
ミーティングの後、私はジョーに言って聞かせなくてはならなかった。あの部下たちは「普通」なのだと。普通じゃないのはジョーのほうだ。彼らは善良でよく働く、「頭の良い」人たちだ。ただジョーほどは頭が良くなかっただけだ。ジョーは、「普通の人間」と一緒に働く術を学ばなくてはならなかった。さらに私は、彼自身が変わらない限り、彼と同じくらい頭の良い人であっても彼と一緒に働きたいとは思わないだろう、とつけ加えた。
私がこれまでに出会った中で最高のリーダーの1人から、素晴らしい教訓を得られたことがある。「個人として偉大な業績をめざす人にとって大切なのは自分自身だ。だが優れたリーダーをめざすならば、"彼ら"(部下など自分以外の存在)を大事にしなければならない」
ここまでに挙げた「頭の良い人」の4つの問題点は、いずれも「自分自身を大切にする」ことによるものだ。それに対して「"彼ら"を大事にする」には、彼らが正しいことも認め、彼らが答えにたどり着くことを誇りに思わなくてはならない。この「自分自身が大切」から「"彼ら"が大事」にシフトするのは容易ではないのだろう。
「知能(intelligence)」と「知恵(wisdom)」には大きな隔たりがあるのかもしれない。知能の高いリーダーが自分の優秀さを誇示している間に、知恵のあるリーダーは誰かがヒーローになる手助けをしている。
[執筆者]
マーシャル・ゴールドスミス Dr. Marshall Goldsmith
エグゼクティブコーチングの世界的権威の1人。30冊以上の本を世に送り出してきたベストセラー作家で、『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(共著、邦訳・日本経済新聞出版社)はアメリカだけでなく、日本でもベストセラーとなった。
© 情報工場
※当記事は「Dialogue Q3 2016」からの転載記事です
情報工場
2005年創業。厳選した書籍のハイライトを3000字にまとめて配信する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を提供。国内の書籍だけではなく、エグゼクティブ向け教育機関で世界一と評されるDuke Corporate Educationが発行するビジネス誌『Dialogue Review』や、まだ日本で出版されていない欧米・アジアなどの海外で話題の書籍もいち早く日本語のダイジェストにして配信。上場企業の経営層・管理職を中心に約6万人のビジネスパーソンが利用中。 http://www.joho-kojo.com/top
マーシャル・ゴールドスミス ※編集・企画:情報工場