<イランとの核合意の後にオバマ政権が支払った「清算金」は17億ドルに上っていたことが発覚。合意後の対イラン関係を重視するのはわかるが、それも含めて中東外交の大方針を説明していないことは問題>(写真は今週ラオスで開催された東アジアサミットに参加したオバマ)
アメリカのオバマ政権は、ケリー国務長官を中心としてイランとの「核合意」を推進してきましたが、そのプロセスの一環として、6億ドル(約600億円)の「キャッシュ」をイランに支払っていたことが明らかになっています。
これには保守派からかなり非難が出ていたのですが、今回イランに渡った総額は6億ドルではなく、全部で17億ドル(1700億円)に上ることが明るみになりました。国務省もこれを認めています。
国務省によれば、このカネは1978~79年にかけて発生したイラン革命「以前」からの経緯として「イランに対するアメリカの負債」の清算金だというのです。つまり、イスラム国家となる前の、パーレビ国王時代に発生した「負債」の「元本+利息」が膨れ上がったものというわけです。
では、どうして40年近く経過した今になって支払われたかと言うと、これも国務省によれば「ハーグの国際司法裁判所などで係争」していたが、このたび「調停」の運びとなったので金額が確定したという説明がされています。
【参考記事】アメリカの外交政策で攻守交代が起きた
なお支払いはすべてキャッシュで行われ、イラン側の希望によって「米ドル以外」という指定があったために、スイス・フランとユーロなど多数の通貨を混ぜる形で、スーツケースに入れてイランに運ばれたそうです。何とも生々しい話です。
さて、当初は6億ドル、そして後に総額17億ドルという「イランへの支払い」に関して、アメリカの保守派はカンカンです。論点は主に2つあります。1点目は「スパイ容疑でイランに拘束されていた3人のアメリカ人の釈放と引き換え」だと思われるが、そうなると「国として身代金は払わない」という法律に違反するというのです。
そして2点目としては、「そんな多額なカネがイランと同盟を結んでいるテロ集団のヒズボラなどに流れたら大変だ」という批判がされています。これに対して、国務省としては「ヒズボラへの横流しはあり得ない」とキッパリこれを否定、1点目についても「これは身代金ではない」と突っぱねています。
この「押し問答」ですが、何が真相かというのは政治的立場によって変わるでしょうが、一歩引いて考えてみれば、「核合意における付帯事項」としてイランが要求し、米国がそれをのんだという解釈が一番納得できます。
そこで考えられるのは、長年続いた経済制裁に関する保障が要求され、それに対してケリー国務長官は「それを認めたら制裁の意味がなくなる」ことから、40年前の話を持ち出したというような「経緯」はありそうです。これは、あくまでも憶測に過ぎませんが。
いずれにしても、このような「キャッシュの移送」などというエピソードが出てくるということは、それだけオバマ政権がイランとの合意を重視していることです。そして、このイランとの合意に関して、基本的にはヒラリーも支持していると考えられることから、オバマ=ヒラリーすなわち現在の民主党の外交路線だという認識で良いのだと思います。
では、そのオバマ=ヒラリー路線というのは、このような大金を払い、そのことへの批判を国内から浴びてまでイランとの関係改善を進めたいのでしょうか? 大前提としては、イランとの関係を正常化したいヨーロッパとの協調ということがあります。ですが、おそらくそれだけではないと思います。
3つの可能性があります。
【参考記事】好調ヒラリーを襲う財団疑惑
1つは、ブッシュ政権が戦争までしてフセイン政権を倒したイラクでは、実質的にシーア派主導の政府ができているので、イランの影響力が高まっています。ここでイランに対して、アメリカの支援するイラク新政府に「協力的」な姿勢を取らせて、イラクの治安を改善することは対ISISという点でも重要です。
2つ目に、イランがイラク新政府に協力的になるだけでなく、ペルシャ湾を挟んだサウジとの対立も緩和するように仲介したいという問題もあると思います。前回のコラムでも述べた通り、サウジはムハンマド副皇太子の主導下、アラビア半島のシーア派との対決を強め、またイランへの強硬姿勢を見せていますが、この対立を緩和するためにもイランを国際社会に復帰させたいという意図はあるでしょう。
3つ目に、イランが国際社会に復帰する代わりに、レバノンのヒズボラや、シリアのアサド政権への軍事支援をやめさせるという思惑があります。ヒズボラとアサド政権は、何と言ってもシリア情勢を落ち着かせるための大切なキーになる存在です。同時に、この両者が長年続けてきたイスラエルとの確執を緩和へ導くことは中東和平にとって重要だということもあります。
あくまで憶測ですが、オバマ=ヒラリーはそのような構想を描きながら、イランとの和解を進めていると考えられます。
これに対して、共和党は「イランの核開発はイスラエルにとっての脅威」だという点、そして「革命以来、大使館人質事件などアメリカに敵対してきたイランに頭を下げたくない」という基本的な姿勢、さらにはヒズボラ支援の問題などを根拠に、イラン敵視を継続する構えです。
問題はオバマもヒラリーも、中東情勢へのアメリカの関与について、国内外に大方針を説明していないことです。トランプのことを大統領となる資質に欠けるとか、ロシアのスパイだとか非難し罵倒するだけの選挙戦を続け、その一方では「6億ドル」がいつの間にか「17億ドル」の支援に話が拡大し、そんな中で外交方針のグランドデザインを示すことをしない――そのような姿勢を続けていることも「ヒラリーの支持率がジリジリ下がってきている」背景にはあると思います。
アメリカのオバマ政権は、ケリー国務長官を中心としてイランとの「核合意」を推進してきましたが、そのプロセスの一環として、6億ドル(約600億円)の「キャッシュ」をイランに支払っていたことが明らかになっています。
これには保守派からかなり非難が出ていたのですが、今回イランに渡った総額は6億ドルではなく、全部で17億ドル(1700億円)に上ることが明るみになりました。国務省もこれを認めています。
国務省によれば、このカネは1978~79年にかけて発生したイラン革命「以前」からの経緯として「イランに対するアメリカの負債」の清算金だというのです。つまり、イスラム国家となる前の、パーレビ国王時代に発生した「負債」の「元本+利息」が膨れ上がったものというわけです。
では、どうして40年近く経過した今になって支払われたかと言うと、これも国務省によれば「ハーグの国際司法裁判所などで係争」していたが、このたび「調停」の運びとなったので金額が確定したという説明がされています。
【参考記事】アメリカの外交政策で攻守交代が起きた
なお支払いはすべてキャッシュで行われ、イラン側の希望によって「米ドル以外」という指定があったために、スイス・フランとユーロなど多数の通貨を混ぜる形で、スーツケースに入れてイランに運ばれたそうです。何とも生々しい話です。
さて、当初は6億ドル、そして後に総額17億ドルという「イランへの支払い」に関して、アメリカの保守派はカンカンです。論点は主に2つあります。1点目は「スパイ容疑でイランに拘束されていた3人のアメリカ人の釈放と引き換え」だと思われるが、そうなると「国として身代金は払わない」という法律に違反するというのです。
そして2点目としては、「そんな多額なカネがイランと同盟を結んでいるテロ集団のヒズボラなどに流れたら大変だ」という批判がされています。これに対して、国務省としては「ヒズボラへの横流しはあり得ない」とキッパリこれを否定、1点目についても「これは身代金ではない」と突っぱねています。
この「押し問答」ですが、何が真相かというのは政治的立場によって変わるでしょうが、一歩引いて考えてみれば、「核合意における付帯事項」としてイランが要求し、米国がそれをのんだという解釈が一番納得できます。
そこで考えられるのは、長年続いた経済制裁に関する保障が要求され、それに対してケリー国務長官は「それを認めたら制裁の意味がなくなる」ことから、40年前の話を持ち出したというような「経緯」はありそうです。これは、あくまでも憶測に過ぎませんが。
いずれにしても、このような「キャッシュの移送」などというエピソードが出てくるということは、それだけオバマ政権がイランとの合意を重視していることです。そして、このイランとの合意に関して、基本的にはヒラリーも支持していると考えられることから、オバマ=ヒラリーすなわち現在の民主党の外交路線だという認識で良いのだと思います。
では、そのオバマ=ヒラリー路線というのは、このような大金を払い、そのことへの批判を国内から浴びてまでイランとの関係改善を進めたいのでしょうか? 大前提としては、イランとの関係を正常化したいヨーロッパとの協調ということがあります。ですが、おそらくそれだけではないと思います。
3つの可能性があります。
【参考記事】好調ヒラリーを襲う財団疑惑
1つは、ブッシュ政権が戦争までしてフセイン政権を倒したイラクでは、実質的にシーア派主導の政府ができているので、イランの影響力が高まっています。ここでイランに対して、アメリカの支援するイラク新政府に「協力的」な姿勢を取らせて、イラクの治安を改善することは対ISISという点でも重要です。
2つ目に、イランがイラク新政府に協力的になるだけでなく、ペルシャ湾を挟んだサウジとの対立も緩和するように仲介したいという問題もあると思います。前回のコラムでも述べた通り、サウジはムハンマド副皇太子の主導下、アラビア半島のシーア派との対決を強め、またイランへの強硬姿勢を見せていますが、この対立を緩和するためにもイランを国際社会に復帰させたいという意図はあるでしょう。
3つ目に、イランが国際社会に復帰する代わりに、レバノンのヒズボラや、シリアのアサド政権への軍事支援をやめさせるという思惑があります。ヒズボラとアサド政権は、何と言ってもシリア情勢を落ち着かせるための大切なキーになる存在です。同時に、この両者が長年続けてきたイスラエルとの確執を緩和へ導くことは中東和平にとって重要だということもあります。
あくまで憶測ですが、オバマ=ヒラリーはそのような構想を描きながら、イランとの和解を進めていると考えられます。
これに対して、共和党は「イランの核開発はイスラエルにとっての脅威」だという点、そして「革命以来、大使館人質事件などアメリカに敵対してきたイランに頭を下げたくない」という基本的な姿勢、さらにはヒズボラ支援の問題などを根拠に、イラン敵視を継続する構えです。
問題はオバマもヒラリーも、中東情勢へのアメリカの関与について、国内外に大方針を説明していないことです。トランプのことを大統領となる資質に欠けるとか、ロシアのスパイだとか非難し罵倒するだけの選挙戦を続け、その一方では「6億ドル」がいつの間にか「17億ドル」の支援に話が拡大し、そんな中で外交方針のグランドデザインを示すことをしない――そのような姿勢を続けていることも「ヒラリーの支持率がジリジリ下がってきている」背景にはあると思います。