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自分が大統領にならなければイスラエルは破壊される──トランプ

ニューズウィーク日本版 2016年9月8日 17時42分

<また出た、トランプの脅迫発言。中身は空っぽでも、イランの最高指導者を怒らせるなど実害は少なくない>

 米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプは5日、自分が大統領にならなければ、イランとアメリカの核合意のせいでイスラエル国家は消滅すると語った。

 オハイオ州の地元紙の報道によると、トランプは同州クリーブランドで開かれた労組幹部の会合で、イランの核開発計画の縮小を条件にイランへの経済制裁を解除するオバマの核合意が実施されれば、「イスラエルは破壊される」と述べた。「ただし、私が大統領になったら、イスラエルは安泰だ」

 イランの保守的な宗教指導者らは日常的にイスラエルの破壊を呼び掛けている。そのため、昨年7月アメリカはじめ6カ国とイランが核合意を締結すると、イスラエルの対外情報機関モサドの長官はイスラエルはさらなる脅威に直面すると猛反発した。

【参考記事】イランの弾道ミサイル実験は核合意違反にならない?──イスラエルは激怒

ハメネイ師も反発

 イスラエル当局によると、制裁解除でイランには数十億ドルの外資が流入する。この資金の一部がレバノンのヒズボラやパレスチナのハマスなど、イスラエルと敵対する武装組織に流れることは避けられないという。

 トランプは以前から核合意を激しく批判。自分が大統領になったら、完全に破棄すると主張してきた。

 今年3月、ユダヤ系ロビー団体「米・イスラエル・広報委員会(AIPAC)」の会合で行った演説では、自分が大統領に就任したら「真っ先に取り組むのは、イランとの破滅的な合意を無効にすることだ」と語った。

【参考記事】米、イスラエルに過去最大の武器供与提案──イラン核合意の償い?

 この発言はイラン宗教界の最高権威、アリ・ハメネイ師の逆鱗に触れたようだ。アメリカの次期大統領が合意を尊重しないなら、ハメネイは合意文書を燃やすと宣言したと、イランの国営メディアが今年6月に伝えた。

「イラン・イスラム共和国は相手より先に核合意を侵すことはない。約束を忠実に守ることはコーランの教えだからだ。だが、合意を破棄するという大統領候補の脅し文句が現実になるなら、われわれは合意文書に火をつける」



 トランプは、イスラエル国家の「生存権」と治安を守ると主張している。過去にはイスラエルの総選挙前に同国のベンヤミン・ネタニヤフ首相をたたえる与党・リクード党の広告動画に出演したこともある。昨年末にはイスラエル訪問も予定していたが、イスラム教徒の入国禁止など極端な発言がイスラエル世論の反発を招いたため、「大統領になってから」訪問するとして延期を発表した。

 トランプ支持を表明しているルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長は今年7月、先にイスラエルを訪問して得た感触として、ネタニヤフ政権はトランプがヒラリー・クリントンを敗ることを望んでいると語った。だが、この発言については、イスラエル政府が他国の選挙に介入するつもりはないとして、即座に否定した。

 イスラエルの世論調査では、トランプよりクリントンのほうが好感度は高い。イスラエル民主主義研究所が今年5月に行った調査では、ユダヤ系住民の40%がクリントンが大統領になるほうがイスラエルにとっては望ましいと答え、トランプのほうが望ましいという回答は31%だった。


ジャック・ムーア

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