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ベネズエラ9月1日大規模デモの意味するもの

ニューズウィーク日本版 2016年9月13日 6時30分

 9月1日、以前から予告されていた通り、ベネズエラで野党派の大規模な抗議運動がありました。このことは日本の主要なメディアはどこも伝えていました。

 ただ、ツイッターでもいくつか質問を受けたのですが、そもそもこのデモは何のためにやってるの? と感じている人が多いようです。

 マドゥロ大統領の罷免を求めるデモ、退陣を求めるデモ、でも少し前にも署名を集めていて、大統領退陣はできても政権交代は無理になったとか聞いたような聞いてないような......

 実際には、このデモは単に人が集まったということ以上に、政治的にはテクニカルな意味をもつかなり重要なデモでした。

 そこで、9月1日のデモの背景についてベネズエラの憲法という観点から説明します。

 1. ベネズエラの憲法では、大統領の任期6年の後半期に罷免が可能である。ただし、任期4年を全うすると大統領が罷免されても新たな大統領選挙は行われず、副大統領が政権を継ぐ。

 2. ベネズエラの憲法では、大統領の罷免には、国民投票で賛成多数になるだけではなく、その賛成票が大統領に当選したときの得票数を上回る必要がある。

 3.  大統領罷免の国民投票の実施には、国民の20%が「罷免のための国民投票を求める」という意志を示した署名が必要である。

 4. ベネズエラの選管CNEはこの手続きを妨害するため、新たに「罷免を求める国民投票実施の手続きを始めるためには、各州の1%の署名が必要」という新たなルールを作った。

 ちなみに、CNEはこの時点で署名に必要な所定の用紙の準備をしぶっており、「署名用の用紙をくれ」というデモも起きていました。

 5. このルールを受け、野党派は当初の各州1%を大幅に超える数の署名を集めた。ところがCNEは、次は指紋認証による署名の本人確認が必要だと発表。

 そそもこのような手続きは憲法に記されておらず、すべてが罷免を遅らせるためのでっち上げだと言われています。



 6. この指紋認証の機械が人里離れた場所(ジャングルの中など)に設置される、カラカスの中心部には設置されないなどの妨害行為もあったが、野党はこの本人確認の難関もクリアした。

 7. これを受け、CNEはついに国民投票がどのように進むかの日程を発表した。ただし、この日程ではマドゥロの罷免は実現しても、政権交代に至らないことが明らかになった。

なぜ2016年が鍵となるのか?

 マドゥロが当選したのは2013年。1.にある通り、来年1月10日以降に国民投票が行われた場合、マドゥロが罷免されても政権はチャベス派が維持することになります。政権与党PSUVはすでにマドゥロ退陣については合意済みと言われていますが、政権交代は避けたいところです。なので、手続きを遅らせ、国民投票を期限内に実施させない方向で動いているのです。マドゥロの罷免と政権交代に関して与野党の攻防の中心が2016年(年内実施か否か)になるのはこのためです。

 8. 野党派は、CNEの日程発表を受けて、今回の大規模なデモを企画した。

このデモの意味は?

 9月1日のデモの直接的な目的は、2.の国民投票の実施を求める署名集めのゴーサインをCNEにすぐにでも出させることです。この20%の署名集めの段階で、野党が20%(390万票)を大幅に超える署名、つまりマドゥロが大統領が当選したときの得票数(750万票)を超える署名を集めることができれば、この署名集めは実質的な国民投票の意味を持つからです。こうなると、いくら独裁的な政権とはいえ、マドゥロ政府は政権を維持することはできないと見られています。

 今回のデモの動員数や盛り上がり、特に、長年チャベス政権を支持してきたハードコアなチャベス主義者層の現政権に対する怒りが露わになったことで、野党派には20%を大幅に超える署名を集めそのまま政権を打倒する、マドゥロを辞任に追い込むポテンシャルがあることが示されたのです。

 #RevocacorioYAというのはそういうことです。2016年以降にベネズエラで起きている野党派による抗議運動はすべてこの文脈で読み解いていく必要があります。※当記事は野田 香奈子氏のブログ「ベネズエラで起きていること」の記事を転載したものです。

野田 香奈子

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