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Airbnbは、どのように人工知能を活用しているのか?

ニューズウィーク日本版 2016年9月13日 17時3分

<シェアリングエコノミーを代表する企業のAirbnbは、一見、高度なテクノロジーとは無縁な企業のように見える。しかし実態はIT企業だ。宿泊需要の予測ツールなどで人工知能をどう活用しているのか...>

 ビッグデータがバズワードになり、データ活用の重要性が叫ばれてずいぶん時間が経っています。 ただ、集めたデータをどのように活用するのかが分からないということが問題になっています。日本企業はデータ活用についての理解が乏しかったり、データを用いたイノベーションを起こそうという意識が諸外国について著しく低いことが、様々な調査で明らかになっており、経済産業省がものづくり白書の中で警鐘を鳴らしています。 集まったデータのほとんどが活用されていないというような状況も珍しくはなく、膨大なデータを保存し、解析するためのコストと、そこから得られる効果のバランスをいかにとるかも大きな課題となっています。

 ビッグデータ活用は、テクノロジー企業だけでなく、ほぼ全ての業種で必要となってきます。データ活用の有無が、企業の生き残りを左右するような状況が生まれつつあります。また、今は保有するデータがそれほど多くない企業でも、IoTの爆発的普及によりデータを収集できるようになります。2015年から2020年までの5年間でIoTデバイスの数は5倍の250億台(ガートナー)、デジタルデータの量は毎年40%増加(IDC)すると予測されています。このような背景からも、ビッグデータ活用がより重要になってくることがわかります。
参考記事: あのテーマパークも。すべての産業を変えていく、IoTの利用例7選

 シリコンバレーでは、実際にデータを活用してサービスを改善する取り組みは盛んです。しかし、具体的にどのように利用しているかは、Apache HadoopやSparkといった解析技術のカンファレンスや、各社の技術ブログで紹介されることはありますが、一般にはあまり知られていません。そこで、シェアリングエコノミーを代表するAirbnbの事例を元に、どのようにビッグデータを活用すべきかのヒントを得てみましょう。



Airbnbの宿泊需要の予測ツール Pricing Tips

 シェアリングエコノミーを代表する企業で、言わずと知れたAirbnbはサンフランシスコに本社を置くスタートアップです。未上場企業ですが、評価額は255億ドル(約2兆4000億円)にまで達しています(2016年6月現在)。未上場でありながら、評価額が10億ドルを超える企業をユニコーンと呼び、Uberなどの多数のユニコーンが存在しています。

 日本ではAirbnbの仕組みは「民泊」と呼ばれ、ネガティブな報道が多いようです。しかし、アメリカでは当たり前のように使われています。また、中国版Airbnbとも呼べる、Airbnbそっくりなサービスもあります。Airbnb自体の発展と、そのモデルが世界中に広がっていくことは間違いないでしょう。

【参考記事】Airbnbが家を建てた――日本の地域再生のために
【参考記事】「東京五輪まであと4年、「民泊」ルールはどうする?

 Airbnbは、一見すると部屋を提供するホストと、部屋を借りるゲストをマッチングするだけです。テクノロジーとは無縁の企業に思えます。しかし、実際はテクノロジーカンパニーであり、自社で開発した機械学習のソフトウェアライブラリのAerosolveをオープンソースしたり、社内のビッグデータ解析、人工知能の活用についての成果をブログやカンファレンスで公開しています。

 Airbnbがホストに提供しているものが、Pricing Tipsという宿泊需要の予測ツールです。設定した宿泊価格に対し、どのくらいの可能性で予約が入るかを1日ごとに表示されます。緑なら高い可能性で予約され、赤は値段が高いため予約が入る見込みが少ないことを示しています。



 ご存知のように、民泊に限らず宿泊施設の需要は季節やイベントの有無により大きく変動します。当然、需要の変動により、価格も変動します。Airbnbのホストは収益を高めるために、空室を出すことや安すぎる値段で部屋を貸すことは避けなければなりません。

 しかし、Airbnbを始めたばかりのホストにとって自分の部屋の相場を正しく判断することは大変難しいですし、自分が知らないようなイベントがあり、宿泊需要が急増していたり、実は季節によって需要が大きくが変動していたなんてことは、普通に暮らしていては分かりません。

 このツールはこのような課題を解決することを目的としています。Airbnbは公式ブログの中で、ツールが提示する価格の5%以内に設定することで、4倍の予約を取ることができるようになると述べています(5%以上価格差がある場合との比較)。

 Airbnbにとって、このような需給の予測は、ホストとゲスト(宿泊者)の両方にとって大きなメリットがあります。ホストは、適正な価格で効率的に部屋を運用することで、収益を高めることができ、ホストの増加、つまり部屋の増加につながります。価格の高い時期は、ホストも積極的に部屋を貸し出そうとするでしょう。また、ゲストにとっても、部屋が増えることは大きなメリットです。



 この宿泊需要の予測ツールは、何百ものパラメータに基づいています。それぞれのパラメータがどのように価格に影響するかがモデル化され、予測に使われています。例えば次のようなものがあります。

立地

 地区によって当然価格の相場は変わってきます。自動的にエリア分けをするアルゴリズムが用いられており、地域毎の価格差を反映しています。

自動的に地域分けされたサンフランシスコとオークランド

写真

 Airbnbでは、機械学習により、どのような写真が予約されやすいかを明らかにしています。 プロの写真家が評価するのはリビングルームの綺麗な写真ですが、実際にゲストが予約するのは、居心地の良さそうなベッドルームを掲載している部屋のようです。

レビューの平均と総数

 レビューの数や総数も、ゲストが判断する基準となります。レビューの高いホストは、高い価格でもゲストを獲得しやすくなります。

ローカルイベント

 例えば、SXSWというイベントが開かれるアメリカのAustinでは、SXSWの時に価格が何倍にも急騰します。自分が知らない間にイベントが開催されていることは珍しくなく、とても重要な指標です。

 しかし、Airbnbの価格の決定は様々な要素が絡み合っており複雑です。さらには、ホストが貸し出す部屋もホテルのように画一なものではありませんし、ホテルがないような場所でも様々な場所にホストが存在します。精度が今ひとつという声もあり、例えば、あなたがAirbnbのPricing Tipsを使うと損する5つの理由 というブログでは、次のような不満が述べられています。

 ・Airbnbでは1日ごとの宿泊料金の他、クリーニング代が必要なので、1日や2日などしか連続で宿泊できない場合は1日あたりの宿泊代が高くなるが、これがうまく考慮されていない
 ・日曜日は土曜日よりも需要が少ないと考えられるのに、日曜日の方が高い価格に設定することを勧められることがある
 ・自物件の過去の結果のデータを利用していないのではないか」

 どの時期が需要が高いかなどを知るには十分かもしれませんが、ツールに価格を全て任せることはまた難しいのかもしれません。ただ、Airbnbは、このツールは価格の予測と予約の結果を学習していき、精度を高める仕組みを持っていると述べており、より高い精度で予測が可能になることが期待されます。
参考:Aerosolve: Machine learning for humans



Uberもデータ活用を積極的に行う

 UberはAirbnbと同様に、シェアリングエコノミーを代表する企業です。評価額は、620億ドル(約6兆6000億円)にまで達しています。 日本では法規制の問題で利用が難しいため、実際にどのようなサービスを提供されているかがあまり知られていないかもしれません。Uberは、ただ白タクと乗客のマッチングを行っているのではなく、テクノロジー企業です。 需給バランスに応じて価格がリアルタイムで変わるシステムや、出発地点と行き先が近い人同士を相乗りさせることで格安で移動できるUber Pool(ウーバープール)、高度なアルゴリズムを用いて正確な到着時刻予測を行ったり、Uberの運行状況をリアルタイムでビジュアライズ化するなど、テクノロジーをフル活用しています。Uberについては、後日詳しくご紹介したいと思います。

サンフランシスコのUberの運行状況のビジュアライズ

 2016年1月には、サンフランシスコのタクシー会社が破産するというニュースも報じられました。これも、あまりに多くの人がUberと競合のLyftを使うため、タクシー会社の競争環境が悪化したためです。
参考: Uber Engineering Blog

全ての企業はIT企業に

 AirbnbもUberも、一見すると高度なテクノロジーとは無縁のように思えます。しかし実態はIT企業です。もちろん、美しいアプリや、Webサイトを提供していますが、ビッグデータ解析や人工知能の活用の部分に注目すべきです。つまり、ユーザーからは直接見えない部分で、テクノロジーが活用されており、サービスの品質を向上させています。

 弊社の記事、「デジタルワールド」となる未来に向かって「破壊的イノベーション」をでご紹介したように、全ての企業がIT企業になり、テクノロジーをどう活用するかが、企業の運命を左右するようになります。

 自分たちをIT企業と捉えることができるかどうかが、大きな分かれ目になるでしょう。自分たちのビジネスはテクノロジーとは無縁、難しいことはよく分からないと考えて、時代遅れになるか、いち早く転換できるかが、大きな分かれ道になります。

※当記事は「Nissho Electronics USA」からの転載記事です。


Team Nelco (Nissho Electronics USA)

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