<たび重なる財政出動でも低成長から脱出できず、再びデフレが影を落としている。先進国のどこより速く高齢化が進み、高かった貯蓄率も急降下。不利な条件ばかりなのに、なぜ世界の投資家が競って日本の国債を買い、円を買うのか>
主要国の中央銀行が無節操に紙幣を乱発したらどうなるか。市場が大きく歪む心配などないと言うのなら、日本とイタリアの国債価格をチェックして欲しい。この2カ国の公的債務残高はアメリカを上回っているが、いずれも今のところアメリカより大幅に低い金利で借金を重ねることができている。
【参考記事】日銀は死んだ
日本の財政が持続不可能な道を突き進んでいることは議論の余地がないだろう。公的債務残高はGDPの250%近く、プライマリーバランス(公債関連の収入と支出を除いた基礎的財政収支)の赤字はGDPの5%に上っている。
IMFの推定によれば、プライマリーバランスの赤字を縮小できなければ、日本の公債残高は2030年までにGDPの300%に達する見込みだ。いくら財政出動を繰り返しても日本は低成長から脱出できず、デフレ懸念が再び影を落としている。G7諸国で最も急速に人口の高齢化が進み、それに伴って、高かった貯蓄率も一気に低下している。
それでもバカ売れ
これほど不安材料があるにもかかわらず、市場が評価する日本経済の強さは、筋肉増強剤を打ったスイス並みだ。驚くことに、日本政府が発行する20年物の国債は今やマイナス金利(最後まで保有し続ければ損をする)なのに、それでもなお売れている。日本は通貨も強く、世界の金融市場が混乱するたびに安全な投資先として円が買われる。1年前と比べ円の対ドル相場は20%上昇、それでなくても青息吐息の日本経済にとって、最近の円高はまさに弱り目に祟り目だ。
【参考記事】消費税を増税すれば「デフレ脱却」できる
イタリア国債が高値を付けているのも不可解な現象だ。イタリアは政府債務残高のGDP比がユーロ圏で2番目に高い。しかもイタリアの銀行が抱える不良債権は今では貸出残高の実に18%に上り、総額3600億ユーロ前後と見積もられている。
イタリアは99年の統一通貨創設時からのユーロ加盟国だが、経済は硬直したままで、ユーロ導入後も低成長が続き、デフレ脱却もままならない。経済が活気を取り戻すには構造改革が必要だが、政治は機能不全に陥っており、改革の実施は望み薄だ。
【参考記事】財政再建はなぜ必要か──日本がギリシャにならないために。
日本とイタリアの国債が大幅に過大評価されている(金利がとても安い)現状は、この2カ国の経済の健全性ばかりでなく、世界の金融システムの健全性にとっても大きなリスクになっている。
また日本の大盤振る舞い
国債の利回りが人為的に低く抑えられていれば、財政規律は緩み、財政運営は放漫になりがちだ。膨れ上がった借金はいつかは返さねばならないが、放漫財政はその時の苦痛をなおさらひどくする。
日本政府は超低金利をいいことに、またもや大盤振る舞いをしようとしている。バラマキ財政を続ければ、それでなくても膨大な国の借金は膨れ上がる一方だ。
イタリアでも超低金利のおかげで、政府は改革を先延ばしにし、銀行は不良債権の処理を棚上げにしている。財政破綻を避けるには早急に手を打つ必要があるのに、超低金利は麻薬のように現実を忘れさせる。
世界の金融システムにとって、日本とイタリア国債の大幅な過大評価はとりわけ深刻なリスクになっている。日本とイタリアの公債の市場規模は、世界の債券市場でそれぞれ第2位、第3位の位置を占めているからだ。2国のいずれかがデフォルト(債務不履行)に陥れば、世界の金融システムに激震が走るだろう。
現状ではこの2国は異常に低い金利で市場から資金を調達できているが、日本発、もしくはイタリア発の金融危機などあり得ないと思ったら、大間違いだ。
ユーロ危機が勃発する直前の09年、ギリシャ政府はドイツとほぼ同じ低金利で市場から長期の借り入れができていた。それから3年足らずで、ギリシャは第2次大戦後最大級のデフォルト危機に見舞われることになった。
A version of this article was first published at Economics21.
Desmond Lachman
Desmond Lachman is a resident fellow at the American Enterprise Institute. He was formerly a Deputy Director in the International Monetary Fund's Policy Development and Review Department and the chief emerging market economic strategist at Salomon Smith Barney.
This article was originally published on FEE.org. Read the original article.
デズモンド・ラックマン(米アメリカン・エンタープライズ研究所研究員)
主要国の中央銀行が無節操に紙幣を乱発したらどうなるか。市場が大きく歪む心配などないと言うのなら、日本とイタリアの国債価格をチェックして欲しい。この2カ国の公的債務残高はアメリカを上回っているが、いずれも今のところアメリカより大幅に低い金利で借金を重ねることができている。
【参考記事】日銀は死んだ
日本の財政が持続不可能な道を突き進んでいることは議論の余地がないだろう。公的債務残高はGDPの250%近く、プライマリーバランス(公債関連の収入と支出を除いた基礎的財政収支)の赤字はGDPの5%に上っている。
IMFの推定によれば、プライマリーバランスの赤字を縮小できなければ、日本の公債残高は2030年までにGDPの300%に達する見込みだ。いくら財政出動を繰り返しても日本は低成長から脱出できず、デフレ懸念が再び影を落としている。G7諸国で最も急速に人口の高齢化が進み、それに伴って、高かった貯蓄率も一気に低下している。
それでもバカ売れ
これほど不安材料があるにもかかわらず、市場が評価する日本経済の強さは、筋肉増強剤を打ったスイス並みだ。驚くことに、日本政府が発行する20年物の国債は今やマイナス金利(最後まで保有し続ければ損をする)なのに、それでもなお売れている。日本は通貨も強く、世界の金融市場が混乱するたびに安全な投資先として円が買われる。1年前と比べ円の対ドル相場は20%上昇、それでなくても青息吐息の日本経済にとって、最近の円高はまさに弱り目に祟り目だ。
【参考記事】消費税を増税すれば「デフレ脱却」できる
イタリア国債が高値を付けているのも不可解な現象だ。イタリアは政府債務残高のGDP比がユーロ圏で2番目に高い。しかもイタリアの銀行が抱える不良債権は今では貸出残高の実に18%に上り、総額3600億ユーロ前後と見積もられている。
イタリアは99年の統一通貨創設時からのユーロ加盟国だが、経済は硬直したままで、ユーロ導入後も低成長が続き、デフレ脱却もままならない。経済が活気を取り戻すには構造改革が必要だが、政治は機能不全に陥っており、改革の実施は望み薄だ。
【参考記事】財政再建はなぜ必要か──日本がギリシャにならないために。
日本とイタリアの国債が大幅に過大評価されている(金利がとても安い)現状は、この2カ国の経済の健全性ばかりでなく、世界の金融システムの健全性にとっても大きなリスクになっている。
また日本の大盤振る舞い
国債の利回りが人為的に低く抑えられていれば、財政規律は緩み、財政運営は放漫になりがちだ。膨れ上がった借金はいつかは返さねばならないが、放漫財政はその時の苦痛をなおさらひどくする。
日本政府は超低金利をいいことに、またもや大盤振る舞いをしようとしている。バラマキ財政を続ければ、それでなくても膨大な国の借金は膨れ上がる一方だ。
イタリアでも超低金利のおかげで、政府は改革を先延ばしにし、銀行は不良債権の処理を棚上げにしている。財政破綻を避けるには早急に手を打つ必要があるのに、超低金利は麻薬のように現実を忘れさせる。
世界の金融システムにとって、日本とイタリア国債の大幅な過大評価はとりわけ深刻なリスクになっている。日本とイタリアの公債の市場規模は、世界の債券市場でそれぞれ第2位、第3位の位置を占めているからだ。2国のいずれかがデフォルト(債務不履行)に陥れば、世界の金融システムに激震が走るだろう。
現状ではこの2国は異常に低い金利で市場から資金を調達できているが、日本発、もしくはイタリア発の金融危機などあり得ないと思ったら、大間違いだ。
ユーロ危機が勃発する直前の09年、ギリシャ政府はドイツとほぼ同じ低金利で市場から長期の借り入れができていた。それから3年足らずで、ギリシャは第2次大戦後最大級のデフォルト危機に見舞われることになった。
A version of this article was first published at Economics21.
Desmond Lachman
Desmond Lachman is a resident fellow at the American Enterprise Institute. He was formerly a Deputy Director in the International Monetary Fund's Policy Development and Review Department and the chief emerging market economic strategist at Salomon Smith Barney.
This article was originally published on FEE.org. Read the original article.
デズモンド・ラックマン(米アメリカン・エンタープライズ研究所研究員)