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中国獄中で忘れられるアメリカ人

ニューズウィーク日本版 2016年9月20日 11時0分

<証拠不十分なまま4年も拘束されているアメリカ人男性。アメリカ政府の助けも得られず母親は悲痛な叫びを上げている>(米国務省によれば、中国で拘束されているアメリカ人は約90人)

 あとどれくらい中国の刑務所で過ごすことになるのか。マーク・スワイダン(41)は今日にでも知ることになるかもしれないし、ならないかもしれない。

 米ヒューストン出身のスワイダンは放浪のアーティストで写真家、そして意欲的なビジネスマン。4年前に中国南部で、覚醒剤の一種であるメタンフェタミン関連の陰謀に加わった容疑で逮捕された。保釈を認められずに1年間拘束され、その後、裁判にかけられた。

 3年たった今でも、裁判官は判決の言い渡しを何度も先延ばしにしている。観測筋が言うには、当局がこの裁判で悩んでいる可能性があるからだ。「彼にとって不利な証拠は、非常に脆弱なものしかない」と、中国の政治犯の解放などを目指して活動する対話財団の創設者ジョン・カムは言う。「私がみるに、マーク・スワイダンはひどい誤認逮捕の被害者だ」

 裁判が解決するまで、スワイダンは広東省江門の拘置所に拘束され続ける。そこでは夏の気温は43度にもなり、彼が母親に語ったところでは、被収容者の多くは輸出向けに「刺激の強い化学薬品で絹の花を作らされる」という。

 母親のキャサリン・スワイダンは、100キロあった息子の体重が半分近くになったと話す。高血圧や皮膚感染症など、健康不安の高まりも悩ましい。最近、首にしこりができたが、家族の病歴から考えると癌性のものではないかと彼は心配しているのだという。

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 さまざまな不安から息子は重い鬱状態に陥っていると、キャサリンは言う。7月下旬に訪問した米領事館員の報告によれば、スワイダンは「エネルギッシュ」に見えたが、自殺を一度試みたと話したらしい。

「自殺することを今も考えているとマークは言っていた」と、領事館員はキャサリンに宛てた電子メールで告げた。「彼の安全を確保するよう注意を払い、彼が自殺をほのめかしたら真剣に受け止めるよう、われわれは拘置所に依頼している」

 証拠が不十分で、適正な手続きもない。そんな状況に置かれている息子のために、なぜアメリカ当局はもっと声を上げてくれないのかとキャサリンは不思議に思っている。これまで中国や北朝鮮、キューバ、イランで逮捕されたアメリカ市民のために、そうしてきたように。

 中には、ジョン・ケリー国務長官やホワイトハウスから支援を受けた人もいた。しかしスワイダンの件でホワイトハウスから声明は出ておらず、国務省の日例記者会見でも言及はない。

結婚前に家具を買いに

 キャサリンによれば、スワイダンは数年前にベトナムでの結婚式に出席したことがきっかけで、アジア旅行に夢中になった。台湾や日本を訪れたときにフィリピン人女性と恋に落ちて、プロポーズ。結婚間近になり、彼は家具を買うために中国に行ったが、このとき同時に、友人の会社にヘリウムを供給してくれるところを探していた。



 12年11月14日、スワイダンは珠江デルタの工業都市である広東省東莞で拘束された。起訴状によれば、メキシコ人や中国人による犯罪者集団と共謀し、ドラッグを製造・販売したという。

 事件を詳細に調べた対話財団のカムが言うには、スワイダンにとって不利な証拠は、メタンフェタミンが製造されていたと中国当局が主張する工場を一度だけ訪れたことと、ある人物から彼が借りた部屋でドラッグが見つかったことだけだ。法医学的な証拠、つまり指紋もDNAも体内から検出された薬物もないと、カムは言う。「電子メールや電話記録など、彼が調整役だったという証拠も示されていない」。彼は無実だと、カムは確信している。

 スワイダンの訴訟は中国の法律の下で進んでいるため、自分たちにできることはないと米国務省の職員は言う。同省によれば、中国で拘束されているアメリカ人は約90人。有名なのはサンディ・ファンギリスだ。

 実業家の彼女は昨年3月にヒューストン市の貿易代表団の一員として中国を訪れた際、中国の安全保障を損なう活動に従事していた疑いで治安当局に拘束された。しかし中国側はいまだに、ファンギリスの犯罪行為の証拠を公にしていない。

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 今年7月には国連人権理事会の「恣意的拘禁に関する作業部会」が、中国はファンギリスを正式に起訴していないし、法的支援も行っていないと批判。中国当局は同部会に対して、彼女には「外部の関係者が国家機密を盗む手助けをした」容疑があると述べたと報じられている。

 ヒューストンでは、キャサリンが日々、フェイスブックを通してスワイダンへの支援を必死に訴えている。7月には地元の議会議員、テキサス州選出の連邦上院議員(共和党のテッド・クルーズとジョン・コーニン)、「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(CECC)」の共同委員長、そしてケリーに手紙を出した。本稿執筆時点では、まだ誰からも返事は来ていない。

「貴殿や多くの方々に、数え切れないほど何度も手紙を書きました。しかし中途半端な反応をもらうか、まったく反応がないかでした」と、彼女は書いた。「マークも、中国で拘束された他のアメリカ市民と同じくらい注意を払うに値する。あなた方がそう考えていると、どうか私に教えてください」

「彼は私の息子です」と、彼女は続けた。「彼はアメリカ市民です。息子を中国の刑務所で死なせないでください。マーク・スワイダンを家に連れて帰れるよう、私を助けてください」

[2016.9.20号掲載]
ジェフ・スタイン

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