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2つの難民サミット、世界にまだできること

ニューズウィーク日本版 2016年9月20日 18時52分

<今世界は大きな分岐点にある。協力して問題を解決するか、世界に背を向けるか。もし協力するなら、難民危機をチャンスに変えることもできる> (写真は、命懸けでトルコからギリシャに渡った難民)

 今、世界政治の中心に不穏なヒビが入っている。世界はかつてないほど繋がり合っているのに、グローバル化を管理するためのメカニズムや手法がまだ追いついていない。案の定、グローバル化に反感を抱く人々が苛立ちや疲れ、恐れを募らせている。

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 その最たる例が難民危機だ。2015年に紛争や迫害、人権侵害のために避難を強いられた難民は6500万人で、2014年と比べて580万人増加した。

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 国連の統計によると、2014年に出身国へ戻ることができた難民は全体の1%にも満たず、避難生活は一人当たり平均17年まで延びた。国連は2015年、人道ニーズを解消するため過去最大級の200億ドルに上る資金提供を呼びかけたが、最終的には目標の45%が不足するという過去最悪の事態に陥った。

 難民や受け入れ国の間では、落胆が広がりつつある。世界最大規模の難民を受け入れるトルコやケニアをはじめ、ここ数年で主にシリアとイラクから大量の難民を受け入れてきたドイツやスウェーデンなどでも、難民の受け入れに対する懸念の声が上がっている。

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逃げるか団結するか

 1980年代に急速に進んだオゾン層の破壊や90年代のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争などを振り返れば、人類が危機に直面したときには、2種類の反応が出ることが分かる。1つ目は、問題が手に余るとして関与や責任から逃れようとする反応。もう1つは、すべての国が一致団結しなければ有効な対策は打てないという認識で世界が一致するパターンだ。難民危機は今まさに、どちらを選ぶかの岐路に立たされている。

 国境を閉鎖して難民や移民を強制送還しようという圧力が高まれば、悪徳な密航仲介業者を利するだけだ。一部の政治家は、難民をテロリストと同じように扱うことで人々の恐怖心を煽り、難民と住民を敵対させている。この危険なサイクルを直ちに食い止めなければならない。

 今週ニューヨークで開催される2つのサミットは、難民問題を前進させるチャンスだ。1つ目は、国連の潘基文(バン・キムン)事務総長が19日に国連本部で主催する「難民・移民に関する国連サミット」、もう1つは翌20日にバラク・オバマ米大統領の呼びかけで開催される「難民に関するリーダーズ・サミット」だ。



 潘基文主催のサミットの目的は、最大の難民受け入れ国を支援し、各国が責任や負担をより公平に分担し、難民や移民の受け入れに関する新しい国際的な原則を確立することだ。先月国連が発表した「ニューヨーク宣言」の草案からは、難民支援に向けて各国が責任を共有できる意義のある変革をもたらすというより、すでに合意された原則の繰り返しに過ぎないという印象を受けた。実際にそうならがっかりだ。膨大な数の難民を抱える最中に、国際社会として具体策に欠ける単調な共同声明を発表して終わりというのでは許されない。各国が難民問題に対する責任を共有し、実行力のある関与を強めることが必要だ。

 もし国連のサミットが期待外れに終われば、バラク・オバマの「難民に関するリーダーズ・サミット」の重要性が一層高まる。こちらのサミットの主要目的は、難民問題の解決に向けて各国に拠出金や受け入れ数の増加を求めるのと同時に、受け入れ国側でも難民のための雇用や教育の機会を創出することだ。アメリカがお手本となってグローバルな人道支援への関与を広めるチャンスだが、参加各国は会期中も終了後も一貫して、以下の3つの課題に取り組まなければならない。

2級市民扱いをするな

 第1に、難民の受け入れ国に対する支援の在り方を大変革すること。難民の出身国のうち約85%は経済協力開発機構(OECD)に加盟していないような貧しい国々だ。潘基文は今年になって、「各国政府や地域コミュニティー、民間部門や援助機関が協力して、危機的状況に置かれた人々のために取り組む新しい支援モデル」を提唱した。難民の受け入れ国は、難民に安全で尊厳ある生活環境を提供するために、より多くの資金や援助を必要としている。

 第2に、支援国は難民の自立を支援しなければならない。難民キャンプの住人たちは、誰かの世話にならなければ生きられないという罠に落ちた永遠の2級市民のような気持ちでいる。世界銀行の試算では、レバノンのシリア難民が1%増えるごとに、レバノンのサービス輸出は1.5%増えるという。つまり、難民受け入れの恩恵をフルに享受するためには、難民に働く機会を与えなければならないのだ。雇用創出の上で指導的な役割を果たすべきは、世界銀行や民間セクターだ。



 第3に、難民を受け入れ国とは別の国に定住させる第三国定住を拡充する必要がある。世界の難民の10%に相当する約160万人を今後3年間で第三国に定住させることができれば、過大な負担を背負う受け入れ国にとっても事態は好転する。1年間に約50万人なら、十分に達成可能な数字だ。先進国が毎年受け入れている合法的な移民と比べればほんの一握りだ。アメリカは伝統的に第三国定住のリーダーであり成功者だ。難民を援助から自立させ経済的に自立させるのも速い。米政府は第三国定住の受け入れをもっと増やすべきだ。それが正しいからではない、それがよい投資だからだ。

 難民支援を行う米NGOの国際救済委員会(IRC)では昨年、第三国定住させた難民の88%が求職し、採用された。2009~2011年には、16歳以上の難民男性はアメリカ人の16歳男性より働いている確率が高かった。第三国定住は世界で最も貴重な人材に希望への道を拓くだけでなく、既に多くの難民を抱える受け入れ国の負担を軽減することにもなる。

 こうした課題を成し遂げるには、各国政府が協調してビジネス革新への指導力を発揮し、また世界の問題を解決しようという人々を動員することも必要だ。9月のサミットは、これだけのスケールの悲劇にも対応できるよりよい人道システムを作るいい機会だ。失敗の痛みは難民たち自身よりはるか遠くまで及ぶだろう。世界秩序の将来が危機にさらされる。

From Foreign Policy Magazine



デービッド・ミリバンド(元英外相)、マデレン・オルブライト(元米国務長官)

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