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人道支援トラックに空爆、シリア和平の希望が潰える

ニューズウィーク日本版 2016年9月21日 17時19分

<政権側、反体制側の双方から停戦違反の非難が相次ぎ、7日間のシリア停戦が終了。その直後、国連の人道支援車列が空爆されて約20人が死亡した。ロシア・シリア両政府への批判が高まる一方、国連は支援活動を停止した>

 シリア北部の街アレッポの近郊で19日夜、人道支援の車列が空爆に遭い、約20人が死亡。停戦継続の希望は潰えた。

 内戦の激戦地となっているアレッポの西部、ウルム・アル・クブラ。シリアの反体制派が支配するこの町で、国連が支援するシリア赤新月社の車列が空爆されたことを国連が確認した。トラック31台のうち18台が破壊され、赤新月社の倉庫も攻撃されたという。アレッポに残された約7万8000人の困窮した市民のための支援物資を運んでいるところだった。

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 シリアでは米ロの仲介により7日間の停戦が12日に発効したが、極めてもろい停戦だった。政権側、反体制側の双方から相手側の停戦違反に対する非難の応酬が続き、延長の見込みがないまま空爆が起こった。

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 救援団体のシリア市民防衛団(SCD)は空爆を受けた場所の映像を公開。映像では、ここが赤新月社の倉庫だったと、支援団体の職員が破壊の跡を示している。



「政権軍のヘリコプターが樽爆弾を4発落とした」とSCDメンバー。そして破壊された赤新月社のトラックに積んであった物資を手に取って言った。「これは全部、国連の難民機関からの毛布だ。それに、紙おむつ......。家を追われた人々に届ける物資だったのに」

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空爆はロシア軍機が行ったとの見方

 今のところ、誰も空爆への関与を認めていない。しかし、シリア政権軍とシリアを支援するロシア空軍は以前にこの地区を空爆したことがあり、アメリカが支援する反体制派はこの地区で活動してきた。イギリスに拠点を置くシリア人権監視団は、シリア・ロシアの両政府を非難している。

 アメリカも同様で、国務省のジョン・カービー報道官は「トラックの目的地をシリア政府もロシア政府も知っていた。そして、シリア市民に物資を届けようとしていた支援団体の職員たちが殺された」と述べる。

 BBCによれば、シリア空軍が実行するには複雑な攻撃で、実際に空爆を行ったのはロシア軍機2機だったと米政府筋は考えている。一方でロシア国防省は、関与を否定し、空爆ではなく地上からの攻撃だったとの見方を示しているという。

国連は支援を停止

 国連緊急援助調整官のスティーブン・オブライエンは、もし故意に人道支援の車列を狙ったのなら戦争犯罪にあたる可能性があると述べ、国連シリア担当特使のスタッファン・デミストゥラも「孤立した市民を救うため、長い時間をかけて準備し、許可を得て運んでいた支援物資だった」と、攻撃を強く非難した。

 20日、国連は「緊急対策として」シリアでの支援活動を一旦すべて停止。「世界の人道支援にとって、非常に陰鬱な一日となった」と、国連人道問題調整事務所(OCHA)のイェンス・レルケ報道官は述べた。

 シリア・ロシアの両政府は、反体制派が停戦期間中に合意を破り、数々の攻撃を仕掛けてきたと言う。17日にはアメリカ主導の有志連合による空爆がシリア兵を多数殺害したと非難。米政府は17日の件は事故で、ISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)の戦闘員と誤認したとしている。

 7日間の停戦はシリアの和平にとって何の意味もない期間だったのだろうか。

ジャック・ムーア

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