<イラン・ロウハニ大統領の本質は3万人の反体制派を大量処刑した革命初期の指導者と変わらない>(写真は、ニューヨークの国連総会で演説を行う直前のロウハニ)
イランのロウハニ大統領は今月、ニューヨークで開かれた国連総会で演説した。2日前にはアメリカのオバマ大統領も演説を行っている。両首脳がこれほど接近するのはほぼ1年ぶりだ。
今回のロウハニ訪米は、ある重要な疑問を提起している。オバマ政権と同盟国は、イランの核問題をめぐる交渉が合意に達する前からほとんど無視してきたイラン国内の人権侵害に、本気で取り組む意思があるのかどうかという疑問だ。
イランと欧米など6カ国が、核問題に関する最終合意(包括的共同作業計画)の履行を宣言したのは今年1月。欧米の合意支持派は、これでイランの穏健化が進展する可能性があると主張した。
それと同時に、イランが拘束していたアメリカ人5人を釈放したことも、支持派の主張を後押しするかに見えた。だが8月、オバマ政権がイラン側への計17億ドルの支払いに合意していた件が表面化。その一部は人質を解放させるための「身代金」だとして、多くの批判を浴びた。
【参考記事】オバマ政権がイランへ支払った17億ドルの意図とは何か
さらにイランが核問題の合意を完全には守っていない疑惑も浮上した。合意に基づく制裁の解除は、対イラン関係の改善を強く期待したオバマ政権と同盟国の特別な譲歩だった。だが、その後もイランの外交的挑発は続いている。むしろ以前より激化している例も目に付く。
8月には、イラン革命防衛隊の艦艇がペルシャ湾を航行中だった米軍の艦船に異常接近する事件が続発。米軍側が警告射撃する一幕もあった。イランの国営メディアは9月初め、米軍の艦船と航空機をイラン沖で破壊したとする革命防衛隊のプロパガンダを報道した。
法相は大量処刑の責任者
エスカレートするイラン側の挑発は、国際社会に決断を迫っている。今こそ危険な行動を止めようとしないイランの「穏健派」と本気で対峙すべきだ。
ロウハニ政権に対する国際社会の対応が後手に回っている問題はほかにもある。ロウハニ政権には「穏健派」のイメージがあるが、イラン国内の人権状況は一貫してその評判を裏切るものだった。
だからこそオバマ政権と同盟国は、核合意と1月の人質交換(米政府も7人のイラン人を釈放)の「成功」を優先させ、人権問題をあえて積極的に取り上げようとしなかったのかもしれない。だが現在、イランの穏健化が進行していないことは火を見るよりも明らかだ。
ロウハニについて、イスラム革命初期の指導者とは違うと考える根拠は何もない。88年、反体制派の政治犯3万人を処刑した当時の体制と現政権との間に本質的な違いはない。
【参考記事】エジプトの過激派にナチスからの地雷の贈り物
最近になって明らかになった情報によれば、このとき反体制派の処刑やその他の人権侵害に反対した当局者は、例外なく権力の座を追われた。一方、積極的に加担した当局者は高く評価され、現在まで権力の中枢にとどまっている例も少なくない。
ロウハニ政権のプルモハンマディ法相もその1人だ。88年当時、プルモハンマディは情報省の代表として、処刑する政治犯を選ぶ「死の委員会」のメンバーに加わっていた。このような人物が現政権で大きな力を持っていること自体、「穏健派」への期待が幻想にすぎないことを雄弁に物語る。
イランの対外的な侵略姿勢と国内での暴虐に立ち向かう勢力が、現体制の内部から生まれることは期待できない。対抗勢力の芽は、勇気あるイランの活動家と国際社会の中にしか存在し得ないのだ。
[2016.10. 4号掲載]
ジュリオ・テルツィ(元イタリア外相)
イランのロウハニ大統領は今月、ニューヨークで開かれた国連総会で演説した。2日前にはアメリカのオバマ大統領も演説を行っている。両首脳がこれほど接近するのはほぼ1年ぶりだ。
今回のロウハニ訪米は、ある重要な疑問を提起している。オバマ政権と同盟国は、イランの核問題をめぐる交渉が合意に達する前からほとんど無視してきたイラン国内の人権侵害に、本気で取り組む意思があるのかどうかという疑問だ。
イランと欧米など6カ国が、核問題に関する最終合意(包括的共同作業計画)の履行を宣言したのは今年1月。欧米の合意支持派は、これでイランの穏健化が進展する可能性があると主張した。
それと同時に、イランが拘束していたアメリカ人5人を釈放したことも、支持派の主張を後押しするかに見えた。だが8月、オバマ政権がイラン側への計17億ドルの支払いに合意していた件が表面化。その一部は人質を解放させるための「身代金」だとして、多くの批判を浴びた。
【参考記事】オバマ政権がイランへ支払った17億ドルの意図とは何か
さらにイランが核問題の合意を完全には守っていない疑惑も浮上した。合意に基づく制裁の解除は、対イラン関係の改善を強く期待したオバマ政権と同盟国の特別な譲歩だった。だが、その後もイランの外交的挑発は続いている。むしろ以前より激化している例も目に付く。
8月には、イラン革命防衛隊の艦艇がペルシャ湾を航行中だった米軍の艦船に異常接近する事件が続発。米軍側が警告射撃する一幕もあった。イランの国営メディアは9月初め、米軍の艦船と航空機をイラン沖で破壊したとする革命防衛隊のプロパガンダを報道した。
法相は大量処刑の責任者
エスカレートするイラン側の挑発は、国際社会に決断を迫っている。今こそ危険な行動を止めようとしないイランの「穏健派」と本気で対峙すべきだ。
ロウハニ政権に対する国際社会の対応が後手に回っている問題はほかにもある。ロウハニ政権には「穏健派」のイメージがあるが、イラン国内の人権状況は一貫してその評判を裏切るものだった。
だからこそオバマ政権と同盟国は、核合意と1月の人質交換(米政府も7人のイラン人を釈放)の「成功」を優先させ、人権問題をあえて積極的に取り上げようとしなかったのかもしれない。だが現在、イランの穏健化が進行していないことは火を見るよりも明らかだ。
ロウハニについて、イスラム革命初期の指導者とは違うと考える根拠は何もない。88年、反体制派の政治犯3万人を処刑した当時の体制と現政権との間に本質的な違いはない。
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最近になって明らかになった情報によれば、このとき反体制派の処刑やその他の人権侵害に反対した当局者は、例外なく権力の座を追われた。一方、積極的に加担した当局者は高く評価され、現在まで権力の中枢にとどまっている例も少なくない。
ロウハニ政権のプルモハンマディ法相もその1人だ。88年当時、プルモハンマディは情報省の代表として、処刑する政治犯を選ぶ「死の委員会」のメンバーに加わっていた。このような人物が現政権で大きな力を持っていること自体、「穏健派」への期待が幻想にすぎないことを雄弁に物語る。
イランの対外的な侵略姿勢と国内での暴虐に立ち向かう勢力が、現体制の内部から生まれることは期待できない。対抗勢力の芽は、勇気あるイランの活動家と国際社会の中にしか存在し得ないのだ。
[2016.10. 4号掲載]
ジュリオ・テルツィ(元イタリア外相)