<NYタイムズのスクープから、トランプが95年の巨額損失の申告以降、長年に渡って連邦所得税を払っていなかった問題が暴露された。しかし支持者の奇妙な擁護論によって、今のところトランプは大きなダメージを被っていない>
先月26日に行われた大統領選の第1回テレビ討論で、最も激しいやり取りになったのは、「トランプが過去の確定申告書を公開していない」という事実に関する部分でした。
まず、トランプは「自分の過去の確定申告に対しては、国税(IRS=内国歳入庁)が監査に入っている」ので、その監査が終わらないと確定しないし、公開もできないと弁解しました。要するに自分の顧問弁護士が「公開したくても認めてくれない」というのです。
しかし、その舌の根も乾かぬうちに、「でもヒラリーが自宅のサーバから消去した3万3000通の電子メールを公開したら、自分も確定申告書を公開してもいい」と、例によって「お得意のディール(取引)」を持ちかけたりもしていました。
【参考記事】トランプの新政策が物語る「大衆の味方」の大嘘
これに対してヒラリーは「ドナルド(トランプ)が確定申告書を見せたがらないのには色々な理由が考えられる」として、列挙を始めました。「まず第1に、確定申告書を公開すると、自分が全然お金持ちではないことがバレて格好悪いという可能性。それから第2に、これまで吹聴してきたほどチャリティーをやっていないことがバレる可能性」という具合に、かなりジョークを交えての追及でした。
そして3番目にやっと本題に入り、「もしかしたら欧州の銀行などに大借金があるのがバレるとか、もしかしたら確定申告の結果、まったく国税を収めていないことが明らかになるかもしれない」と、追及したのでした。ここでトランプは「悪童っぽいアドリブ」を利かせて、「そうそう、その点で俺様は賢いのさ」と、まるで自分が税金を納めていないことが「賢い」とでも言いたげな茶々を入れたのでした。
誰もが、ヒラリーが「一本を取り」、トランプは「自滅した」と思った瞬間でした。そしてこの応酬には、その後「証拠」が出てきたのです。
1日付けのニューヨーク・タイムズは、1995年度のトランプの確定申告書を入手したとして、その内容を公開しました。それによると、95年には事業の失敗によって、トランプ夫妻の「確定申告」では、トータルの収入が9億1600万ドル(現在の為替換算で約925億円)のマイナスだったとしているのです。
この巨額のマイナスは、以降毎年の申告に繰り越すことが可能となっており、おそらくは以降18年間かかって「損失の償却」をしている間は、そのマイナスを分割して繰越すことで、毎年の収入はチャラになり、連邦所得税(国税)は、ほとんど払わずに来ているということが濃厚だというのです。そして、本人とその周囲も否定はしていません。
ところで、このスクープ記事を書いたスザンナ・クレイグ記者が、一体どうやって「トランプの確定申告書を入手」したのかというと、自分のメールボックスに「トランプタワー発」という匿名の封筒があり、その中に確定申告書のコピーが入っていたというのです。何ともミステリアスな話であり、まるで陰謀渦巻くテレビの政治ドラマのようです。
いずれにしても、このニューヨーク・タイムズの記事が出たところで、関係者も読者も「これは大ニュースだ。ようやくトランプの凋落が始まるぞ」と思ったのは間違いありません。というのも、アメリカは「納税義務」には大変に敏感な国だからです。ですから、大統領候補が長い間、連邦所得税を払っていないらしいというのは、通常の選挙であれば、超弩級のスキャンダルになります。
ところが、ここで再びミステリアスな流れが生まれます。トランプの「納税ゼロ」が暴露されたにも関わらず、トランプ支持派を中心に「税制を熟知していて究極の節税をしているトランプは天才だ」という擁護論が出てきているのです。
【参考記事】トランプ、キューバ禁輸違反が発覚=カジノ建設を検討
そのロジックは何とも奇妙です。「トランプは確かに税金を払っていない」とした上で、そのトランプが「これではいけない」と言って「富裕層の租税回避ルール」を改革すると言っている「その主張は見事」だという理屈なのです。
一見、屁理屈のように見えますが、これを大真面目に言い続けると、それなりの効果があるようで、週明けの時点では「納税ゼロ問題」については、それほどのダメージになっていないようです。
ヒラリーは、「そもそも一年で9億ドルの損失を出す人間が、どうしてビジネスの天才なのか?」と言って批判しており、それは確かにそうなのですが、当初考えていた「トランプが納税していないことがバレたら命取り」という目論見は、まんまと外れてしまった格好です。
このエピソードについて、各メディアは面白おかしく伝えています。ですが、前述の通り、アメリカという国の基本的な価値、つまり「納税の義務」に根本的に挑戦してきたような人物が、そのことも含めて人気を集め、大統領に就任する可能性を残している現在の状態は異常です。
国の基本的な価値が揺らいでいると言っても過言ではなく、こうなると候補本人だけでなく、視聴率稼ぎのために選挙報道を「エンタメ化」しているアメリカの各メディアにも大きな責任があると言えるでしょう。
先月26日に行われた大統領選の第1回テレビ討論で、最も激しいやり取りになったのは、「トランプが過去の確定申告書を公開していない」という事実に関する部分でした。
まず、トランプは「自分の過去の確定申告に対しては、国税(IRS=内国歳入庁)が監査に入っている」ので、その監査が終わらないと確定しないし、公開もできないと弁解しました。要するに自分の顧問弁護士が「公開したくても認めてくれない」というのです。
しかし、その舌の根も乾かぬうちに、「でもヒラリーが自宅のサーバから消去した3万3000通の電子メールを公開したら、自分も確定申告書を公開してもいい」と、例によって「お得意のディール(取引)」を持ちかけたりもしていました。
【参考記事】トランプの新政策が物語る「大衆の味方」の大嘘
これに対してヒラリーは「ドナルド(トランプ)が確定申告書を見せたがらないのには色々な理由が考えられる」として、列挙を始めました。「まず第1に、確定申告書を公開すると、自分が全然お金持ちではないことがバレて格好悪いという可能性。それから第2に、これまで吹聴してきたほどチャリティーをやっていないことがバレる可能性」という具合に、かなりジョークを交えての追及でした。
そして3番目にやっと本題に入り、「もしかしたら欧州の銀行などに大借金があるのがバレるとか、もしかしたら確定申告の結果、まったく国税を収めていないことが明らかになるかもしれない」と、追及したのでした。ここでトランプは「悪童っぽいアドリブ」を利かせて、「そうそう、その点で俺様は賢いのさ」と、まるで自分が税金を納めていないことが「賢い」とでも言いたげな茶々を入れたのでした。
誰もが、ヒラリーが「一本を取り」、トランプは「自滅した」と思った瞬間でした。そしてこの応酬には、その後「証拠」が出てきたのです。
1日付けのニューヨーク・タイムズは、1995年度のトランプの確定申告書を入手したとして、その内容を公開しました。それによると、95年には事業の失敗によって、トランプ夫妻の「確定申告」では、トータルの収入が9億1600万ドル(現在の為替換算で約925億円)のマイナスだったとしているのです。
この巨額のマイナスは、以降毎年の申告に繰り越すことが可能となっており、おそらくは以降18年間かかって「損失の償却」をしている間は、そのマイナスを分割して繰越すことで、毎年の収入はチャラになり、連邦所得税(国税)は、ほとんど払わずに来ているということが濃厚だというのです。そして、本人とその周囲も否定はしていません。
ところで、このスクープ記事を書いたスザンナ・クレイグ記者が、一体どうやって「トランプの確定申告書を入手」したのかというと、自分のメールボックスに「トランプタワー発」という匿名の封筒があり、その中に確定申告書のコピーが入っていたというのです。何ともミステリアスな話であり、まるで陰謀渦巻くテレビの政治ドラマのようです。
いずれにしても、このニューヨーク・タイムズの記事が出たところで、関係者も読者も「これは大ニュースだ。ようやくトランプの凋落が始まるぞ」と思ったのは間違いありません。というのも、アメリカは「納税義務」には大変に敏感な国だからです。ですから、大統領候補が長い間、連邦所得税を払っていないらしいというのは、通常の選挙であれば、超弩級のスキャンダルになります。
ところが、ここで再びミステリアスな流れが生まれます。トランプの「納税ゼロ」が暴露されたにも関わらず、トランプ支持派を中心に「税制を熟知していて究極の節税をしているトランプは天才だ」という擁護論が出てきているのです。
【参考記事】トランプ、キューバ禁輸違反が発覚=カジノ建設を検討
そのロジックは何とも奇妙です。「トランプは確かに税金を払っていない」とした上で、そのトランプが「これではいけない」と言って「富裕層の租税回避ルール」を改革すると言っている「その主張は見事」だという理屈なのです。
一見、屁理屈のように見えますが、これを大真面目に言い続けると、それなりの効果があるようで、週明けの時点では「納税ゼロ問題」については、それほどのダメージになっていないようです。
ヒラリーは、「そもそも一年で9億ドルの損失を出す人間が、どうしてビジネスの天才なのか?」と言って批判しており、それは確かにそうなのですが、当初考えていた「トランプが納税していないことがバレたら命取り」という目論見は、まんまと外れてしまった格好です。
このエピソードについて、各メディアは面白おかしく伝えています。ですが、前述の通り、アメリカという国の基本的な価値、つまり「納税の義務」に根本的に挑戦してきたような人物が、そのことも含めて人気を集め、大統領に就任する可能性を残している現在の状態は異常です。
国の基本的な価値が揺らいでいると言っても過言ではなく、こうなると候補本人だけでなく、視聴率稼ぎのために選挙報道を「エンタメ化」しているアメリカの各メディアにも大きな責任があると言えるでしょう。