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南スーダンの国連部隊は住民の命を守れ

ニューズウィーク日本版 2016年10月13日 17時0分

<暴力が再燃した南スーダンでいざというときに出動せず、住民の期待を裏切ってきた国連PKO。汚名をそそぐため4000人を増派し、武力行使の権限も拡大。住民に危害が及びそうな場合は速やかに応戦する> (写真は、南スーダンのマラカルにある国連基地にかくまわれた国内避難民の少女、2014年)

 昨年夏の停戦合意から1年が経っても、南スーダンの民族対立と政治の分断は終わらないままだ。南スーダンは2011年にスーダンから分離独立を果たした世界一若い国だが、2013年にサルバ・キール大統領が敵対するリヤク・マシャール副大統領(当時)を政権転覆の疑いで解任すると、大規模な衝突に発展。それ以来、停戦の試みはことごとく失敗し、戦闘や治安の悪化が続いている。

 どんな内戦でも、暴力の矢面に立たされるのは市民だ。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の推計によると、戦闘が再燃した2013年以降ですでに数万人の死者が出て、国内外で200万人以上の難民が発生した。

【参考記事】南スーダンで狙われる国連や援助職員

 こうした数字は衝撃的だ。南スーダンには、まさにそうした事態を防ぐ目的で国連の部隊が派遣されているからだ。

 国連南スーダン派遣団(UNMISS)は「文民保護」を使命として活動し、そのためには武力を行使する権限も与えられている。ところが彼らの実績は「期待外れ」としか言いようがない。

 UNMISSの部隊は2016年2月、国連が設置したマラカル文民保護区(PoC)で武力衝突が発生すると、そそくさと基地内へ撤収した。結局、3時間以上続いた戦闘で、123人の負傷者と30人の死者が出た。当時、現場から逃げ出した援助団体の職員がUNMISSに通報したが、年間10億ポンド(約1280億円)の費用をかけて1万2000人の隊員を率いる部隊はついに出動しなかった。

 市民が巻き添えになる暴力はその後も後を絶たない。国連の報告によれば7月8日~25日には、首都ジュバだけで217件のレイプ事件があった。ジュバのPoCにいた援助職員も襲われた。

【参考記事】住民に催涙弾、敵前逃亡、レイプ傍観──国連の失態相次ぐ南スーダン
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 UNMISSは総じて南スーダン市民の期待を裏切ることが多かった。だがここにきて、事態が改善する兆しが見えてきた。

本腰を入れ始めた国連

 7月の失態が明るみになって以来、国連はUNMISSの権限を見直し、拡大した。国連安保理が問題に対処しようとしている証拠だ。8月には、南スーダンに駐留する国連平和維持活動(PKO)部隊の人数を現在の1万2000人から1万7000人規模に増やした。うち4000人は、「地域保護部隊」として活動する。

 南スーダンの「地域保護部隊」は、コンゴ(旧ザイール)の「武力介入部隊」ともまた違う。コンゴの部隊は軍事「介入」のための部隊であるのに対し、「地域防衛部隊」は南スーダン政府と協力して「文民の保護」にあたるのが使命だ。さらに「国連施設や市民が攻撃されそうな場合」には、速やかに応戦するよう命じられている。

 市民を標的にした攻撃に対しては、相手が誰であろうと武力行使に踏み切る権限が与えられたのだ。

 普段は優柔不断な安保理も、この点には珍しくこだわり、任務を妨害する者は許さないという立場を鮮明にした。外国の介入を嫌う南スーダン政府は、UNMISSへの妨害行為を続けている。それが地域保護部隊の展開に同意したのは、安保理の脅しに一定の効果があった証だ。

 小さな一歩だが、進歩の兆しだ。たとえ政治的な見せかけだとしても、市民に対する暴力は許さないという国連の意気込みがみえる。

目立つ中露の譲歩

 とりわけ際立つのは、安保理常任理事国のうち頑なに国家主権の尊重と不介入主義を主張し続けたロシアと中国も、南スーダンへの増派には拒否権を行使しなかった点だ。民間人に対して犯罪行為が行われている場合には、主権の尊重にも限度があることを中ロも認めざるを得なかったということか。

 国連は今も地域保護部隊が最大限に活動できるよう南スーダン政府と協議を進めている。安保理にとって本来の目的は南スーダン政府が許容できる合意内容を見つけることだ。もしそれが叶わなかった場合はどうするのか。アメリカのサマンサ・パワー国連大使は次のように述べた。

 国連決議は南スーダン政府と合意に至れなかった場合の代替策を明確に示している。制裁や武器禁輸措置など、決議に盛り込んだ手段を考慮することになる。

 国連は文民の保護という使命を真摯に受け止めているようだ。怠け者の役立たず、という汚名をそそぐためにも。



Emily Helms, PhD candidate in Government, University of Essex

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.


エミリー・ヘルムズ(英エセックス大学博士課程)

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