<台湾の優秀製品が並ぶ展示会「台湾エクセレンス」が東京で開催された。高いデザイン性と技術力を備えた製品の数々が並ぶイベントから、台湾の現状と「新味はなくとも着実」という方向性が透けてみえる>
2016年10月7日から9日にかけ、東京駅隣、丸の内のKITTEで「台湾エクセレンス in 東京」 という展示会が開催された。「台湾エクセレンス」とは台湾経済部が認定した優良製品を意味する。いわば台湾版のグッドデザイン賞というところか。1993年から認定が始まり、今年で24回目を数える。
7日には開幕イベントが行われ、藤原紀香さんがトークショーを行ったこともあり、多くのマスコミが集まった。もっとも私をはじめとするガジェット好きは展示された製品に興味津々、トークショーも上の空だった。
さて、台湾の著名ブランドというと、自転車やパソコン、携帯電話などが有名どころだ。この日も10月下旬に発売が決まっているASUSの薄型ノートパソコン「Zenbook3」の試作機、同日から日本発売が始まったスマートフォン「ZenFone3」、大手自転車メーカー「ジャイアント」の各種スポーツサイクルなど有名ブランドが注目を集めていた。だがそれだけではない。デザイン小物から玩具、スマート機器、フローリング材、アイディア・スポーツ用品、アパレル、化粧品などなど、さまざまなジャンルの製品が展示されていた。
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印象的だったのがソラス(般若科技株式有限公司)のブランド「大古鉄器」だ。創業者の林允進氏自らが説明してくれたが、まずその流暢な日本語に驚かされた。それもそのはず、東京大学で博士号を取得した経歴の持ち主だという。1985年に船舶やジェットスキーのスクリュー製造を手がけるソラスを創業。今や大手日本メーカーにも部品を提供する世界的企業へと発展を遂げた。日本でも知る人ぞ知る存在だ。
大古鉄器(撮影:筆者)
「スクリューメーカーがなぜ鉄瓶?」と誰しも不思議に思うだろう。林氏は妻である蔡秋琦さんの健康のため鉄瓶、鉄鍋を使うよう医師に勧められたが、伝統的な鉄器には有害な残留物が残っている可能性があることがわかり、自分で作るしかないと決意した。中国の伝統文化をモチーフとしたクラシカルなデザインと漆を塗った落ち着いた色合いが目につくが、その中身にはスクリュー製造で培った技術が詰まっているという。妻への愛情と最新技術が詰まった製品という開発ストーリーだけでも魅力的な製品だ。
MOSIA(撮影:筆者)
他にも建材メーカーのMOSIAはエコ建材として注目を集める竹のフローリング材を出展していた。気温が高い台湾では竹の成長が早く品質もいいという。「no.30」というブランド名で亜鉛合金製のユニークな灰皿や小物入れを展示していたフリーフォーム(富利豊国際有限公司)は、もともと浴室関係の部品を作るOEM(相手先ブランドによる製造)メーカー。その技術を生かして、デザイン性あふれる小物のブランドに乗りだした。台湾エクセレンスに加え、台湾文化部が主催するクリエイティブ製品の見本市「フレッシュ・タイワン」にも提携メーカーとしても名を連ねている。
no.30(撮影:筆者)
Aidmics Biotechnologyのスマート玩具「μHandy」も注目の製品だ。スマートフォンのカメラに装着できる顕微鏡だが、プレパラートではなく透明なシールを使うことで簡単に保管、観察できる。収集した素材を保存するためのノートもあり、リスの毛などのサンプルまでセットになっている。
μHandy(撮影:筆者)
OEMからオリジナルブランドへ
数々の製品を眺めているだけでも楽しい展示会だったが、加えて全体を通してみると台湾経済の変革が印象的だった。第一にOEMで成長してきた企業が独自ブランドへの転換を図っている点だ。会場の台湾貿易センター・スタッフによると、B2BからB2Cへの転換が台湾全体の課題になっているという。OEMが盛んな台湾ではB2Bが中心となってきたが、中国への製造拠点移転が進むなかで産業空洞化が問題となってきた。高い付加価値を持つオリジナルブランドで製造業復興を図る狙いだ。台湾エクセレンスはその突破口の一つとして位置づけられている。従来は台湾での展示が中心だったが、ここ数年は日本、米国、インドネシア、ベトナム、インドなど海外での展示会が増えている。
第二に中国以外の市場への傾倒だ。2008年から2016年にかけての馬英九政権で台湾は中国と急接近した。積極的に中国との友好姿勢を打ち出すことで、中国市場成長の恩恵にあずかろうという狙いだ。しかしリーマンショックの影響もあり、経済成長率は以前の4~6%から1~2%台にまで低下している。中国との接近によるバラ色の経済成長という馬英九前総統の公約は結局実現することはなかった。中国政府自身も経済的"恩恵"が台湾の一般市民にまで届いていないことを問題視し、台湾青年の中国本土就業を促進するなど新たな経済的取り込み策を検討していると報じられている。
また中国への依存は政治リスクにもつながる。実際、今春の蔡英文政権発足以来、政府間・企業間・研究者間の交流が制限されるなど、政治的変化がダイレクトに経済関係に悪影響を及ぼしている。こうしたなかで、中国以外の市場を開拓する重要性が再認識されている。
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この変革が成功するかどうかはまだ未知数だ。OEMからオリジナルブランドへという流れにせよ、中国以外の市場開拓という方針にせよ、決して目新しいものではない。例えば蔡英文政権の東南アジア重視政策は「新南向政策」と名付けられている。陳水扁総統時代の"旧"南向政策の焼き直しというわけだ。新味がないと言ってしまえばそれまでだが、一発逆転ホームランを約束した馬英九前政権と違って、蔡英文政権は空手形を切らずに着実な政策を選択したとも言える。困難な目標だが、台湾エクセレンス in 東京で展示された魅力的な製品の数々は台湾の未来を変えることができるのだろうか。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
2016年10月7日から9日にかけ、東京駅隣、丸の内のKITTEで「台湾エクセレンス in 東京」 という展示会が開催された。「台湾エクセレンス」とは台湾経済部が認定した優良製品を意味する。いわば台湾版のグッドデザイン賞というところか。1993年から認定が始まり、今年で24回目を数える。
7日には開幕イベントが行われ、藤原紀香さんがトークショーを行ったこともあり、多くのマスコミが集まった。もっとも私をはじめとするガジェット好きは展示された製品に興味津々、トークショーも上の空だった。
さて、台湾の著名ブランドというと、自転車やパソコン、携帯電話などが有名どころだ。この日も10月下旬に発売が決まっているASUSの薄型ノートパソコン「Zenbook3」の試作機、同日から日本発売が始まったスマートフォン「ZenFone3」、大手自転車メーカー「ジャイアント」の各種スポーツサイクルなど有名ブランドが注目を集めていた。だがそれだけではない。デザイン小物から玩具、スマート機器、フローリング材、アイディア・スポーツ用品、アパレル、化粧品などなど、さまざまなジャンルの製品が展示されていた。
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印象的だったのがソラス(般若科技株式有限公司)のブランド「大古鉄器」だ。創業者の林允進氏自らが説明してくれたが、まずその流暢な日本語に驚かされた。それもそのはず、東京大学で博士号を取得した経歴の持ち主だという。1985年に船舶やジェットスキーのスクリュー製造を手がけるソラスを創業。今や大手日本メーカーにも部品を提供する世界的企業へと発展を遂げた。日本でも知る人ぞ知る存在だ。
大古鉄器(撮影:筆者)
「スクリューメーカーがなぜ鉄瓶?」と誰しも不思議に思うだろう。林氏は妻である蔡秋琦さんの健康のため鉄瓶、鉄鍋を使うよう医師に勧められたが、伝統的な鉄器には有害な残留物が残っている可能性があることがわかり、自分で作るしかないと決意した。中国の伝統文化をモチーフとしたクラシカルなデザインと漆を塗った落ち着いた色合いが目につくが、その中身にはスクリュー製造で培った技術が詰まっているという。妻への愛情と最新技術が詰まった製品という開発ストーリーだけでも魅力的な製品だ。
MOSIA(撮影:筆者)
他にも建材メーカーのMOSIAはエコ建材として注目を集める竹のフローリング材を出展していた。気温が高い台湾では竹の成長が早く品質もいいという。「no.30」というブランド名で亜鉛合金製のユニークな灰皿や小物入れを展示していたフリーフォーム(富利豊国際有限公司)は、もともと浴室関係の部品を作るOEM(相手先ブランドによる製造)メーカー。その技術を生かして、デザイン性あふれる小物のブランドに乗りだした。台湾エクセレンスに加え、台湾文化部が主催するクリエイティブ製品の見本市「フレッシュ・タイワン」にも提携メーカーとしても名を連ねている。
no.30(撮影:筆者)
Aidmics Biotechnologyのスマート玩具「μHandy」も注目の製品だ。スマートフォンのカメラに装着できる顕微鏡だが、プレパラートではなく透明なシールを使うことで簡単に保管、観察できる。収集した素材を保存するためのノートもあり、リスの毛などのサンプルまでセットになっている。
μHandy(撮影:筆者)
OEMからオリジナルブランドへ
数々の製品を眺めているだけでも楽しい展示会だったが、加えて全体を通してみると台湾経済の変革が印象的だった。第一にOEMで成長してきた企業が独自ブランドへの転換を図っている点だ。会場の台湾貿易センター・スタッフによると、B2BからB2Cへの転換が台湾全体の課題になっているという。OEMが盛んな台湾ではB2Bが中心となってきたが、中国への製造拠点移転が進むなかで産業空洞化が問題となってきた。高い付加価値を持つオリジナルブランドで製造業復興を図る狙いだ。台湾エクセレンスはその突破口の一つとして位置づけられている。従来は台湾での展示が中心だったが、ここ数年は日本、米国、インドネシア、ベトナム、インドなど海外での展示会が増えている。
第二に中国以外の市場への傾倒だ。2008年から2016年にかけての馬英九政権で台湾は中国と急接近した。積極的に中国との友好姿勢を打ち出すことで、中国市場成長の恩恵にあずかろうという狙いだ。しかしリーマンショックの影響もあり、経済成長率は以前の4~6%から1~2%台にまで低下している。中国との接近によるバラ色の経済成長という馬英九前総統の公約は結局実現することはなかった。中国政府自身も経済的"恩恵"が台湾の一般市民にまで届いていないことを問題視し、台湾青年の中国本土就業を促進するなど新たな経済的取り込み策を検討していると報じられている。
また中国への依存は政治リスクにもつながる。実際、今春の蔡英文政権発足以来、政府間・企業間・研究者間の交流が制限されるなど、政治的変化がダイレクトに経済関係に悪影響を及ぼしている。こうしたなかで、中国以外の市場を開拓する重要性が再認識されている。
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この変革が成功するかどうかはまだ未知数だ。OEMからオリジナルブランドへという流れにせよ、中国以外の市場開拓という方針にせよ、決して目新しいものではない。例えば蔡英文政権の東南アジア重視政策は「新南向政策」と名付けられている。陳水扁総統時代の"旧"南向政策の焼き直しというわけだ。新味がないと言ってしまえばそれまでだが、一発逆転ホームランを約束した馬英九前政権と違って、蔡英文政権は空手形を切らずに着実な政策を選択したとも言える。困難な目標だが、台湾エクセレンス in 東京で展示された魅力的な製品の数々は台湾の未来を変えることができるのだろうか。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)