<自分の過去の決断を責め、ただ反省すればいいのではない――。不安定でストレスの多い時代を生き抜くための「打たれ強さ」の身につけ方(2)>
ここ数年、ビジネスの世界で関心を集めている概念がある。「resilience(レジリエンス)」だ。日本語では「復活力」や「逆境力」、あるいは「折れない心」などと訳されるが、そのままカタカナで「レジリエンス」と表記されることも多い。
困難な状況を上手に切り抜けるだけでなく、力強く成長する。それがレジリエンスであり、その過程では当然、失敗も経験する。例えば、あれほどスキャンダルにまみれながらも失脚せず、今なお高い人気を誇るビル・クリントン元米大統領や、時代の寵児から一転、証券取引法違反により有罪になった後も、実業家・著述家として活躍する堀江貴文氏といった人物を思い浮かべてみるといい。
彼らのようにレジリエンスを身につけるには、失敗を糧に前進することが不可欠だ。とはいえ、ただ反省すればいいのではない。イギリスのキャリア・ストラテジストであるジョン・リーズによれば、失敗から何も学ばないことはもちろんだが、何度も繰り返し過去の失敗を見つめ直して自分を責めるのも、同じくらいに問題だ。
リーズはこのたび、レジリエンスを習得・開発・強化する方法を伝えるべく、『何があっても打たれ強い自分をつくる 逆境力の秘密50』(関根光宏訳、CCCメディアハウス)を上梓した。50の項目にまとめられた実践的な1冊だ。
ここでは本書から一部を抜粋し、4回に分けて掲載する。第2回は「2 失敗を糧に前進し、後退しない」より。失敗から学び、打たれ強い人間になるには、一体どうすればいいのか。
『何があっても打たれ強い自分をつくる
逆境力の秘密50』
ジョン・リーズ 著
関根光宏 訳
CCCメディアハウス
※シリーズ第1回:レジリエンス(逆境力)は半世紀以上前から注目されてきた
◇ ◇ ◇
失敗とは何だろう? 大富豪の多くは、過去に何度かビジネスで失敗した経験がある。いつまでもくよくよと後悔し、自分の過去の決断を責めることもできる。だが、過去にとらわれず、同じ過ちを繰り返さないよう、失敗を糧にして「前進する」ことに意識を集中することもできる。学べるだけのことを学んだら先へ進むのだ。
【参考記事】一文無しも経験したから言える「起業=投資論」
情報過多の世界では、すばやい情報処理が必要なので、グレーよりも白か黒かで簡単に決着させようとする。そんななかで生まれた新たな基準が、完璧か否かだ。「よき」パートナー、両親、同僚、管理職となるために、多くの人が毎日途方もない重圧のもとで常に100%を達成しようとしている。成功でなければ、失敗なのだ。
自分に対する批判は厳しく極端になりやすいため、多くの物事が、全面的な成功か屈辱的な失敗かの観点から判断されてしまう。だが、それでは人は学ぶことができない。私たちは、毎日自分に向かって「よくできた、完璧だ」と自画自賛することによって成長するのではない。失敗によって成長するのだ。自分の失敗を許すには、ある程度のリスク、確信のなさ、弱さを受け入れる必要がある。
「失敗を糧に前進する」という考え方は、十分に反省すれば、次の段階に進んでもいいと励ましてくれる点で有益だ。何がうまくいき、何がうまくいかなかったのかを見つめ直すのだ。客観的な目で、もっとうまくできたかもしれないことを検討する。だが、反省のプロセスで立ち止まってしまってはいけない。過去はさまざまなことを教えてくれるが、いとも簡単に抜け出せなくなってしまう。
振り返るのは短時間で切りあげる
レジリエンスを身につけるには、自分が失敗だと考えていることに向き合わなければいけないが、必要以上の注意を向けてはならない。失敗について考え直すとは、健全な反省が自責の念に変わるポイントを認識する行為だ。どこで反省が自己非難に変わるのかを見極めよう。だが一度だけ、それも短時間で切りあげよう。その場に立ち会っていた人がつき合ってくれれば理想的だ。そして、もし同じ状況に陥ったら今度はどうするかを3つだけ書く。実行できないことを延々とリストアップしても意味がない。
次に仕事で失敗したときも、その状況を見つめ直そう。自分を非難する感情は無視する。もっと入念に準備しようと思えばできたのは当然だ。だが成功した場合も、それは同じだ。なぜ目的を達成できなかったのか、何を改善できるのか、次はどんなアプローチを試すべきか。少し時間をとって、それらを手早く書き留めよう。そして、また前進しよう。
【参考記事】能力が低いから昇進できない、という人はめったにいない
自分が変えられることに意識を集中する
過去の行動を見つめ直すときは、失敗を糧に前進することに常に意識を集中してほしい。自分が変えられることは何かという観点だけで出来事を見つめ直すのだ。会議がうまくいかず、誰かを怒らせてしまったなら、できることはたくさんある。反対に、失敗して後退するとは、過去の選択と行動に執着することだ。過去に執着すると客観的になるのは難しいし、どれほど執着しようが、過去から現在に意識を切り替えるべきときはくる。
また、失敗を謝ることは、相手に対する共感と責任感を示すうえで重要な方法だが、何から何まで常に謝っていると御しやすい相手だと思われてしまう。会議での決断について自分と同僚がまったく異なる受け取り方をしていた場合、「すまない、誤解していたようだ」と言うのを怖がることはないが、あまりに深刻にとらえてはいけない。大切なのは、何かし忘れたことがなかったか、そして、同じことが起きたらまた同じ行動をとれるかどうかだ。どちらの問いに対しても答えが「ノー」なら前進しよう。意識を集中すべきは次の段階であって、謝罪ではない。
さまざまなことを試す
実験精神をもとう。「何事も実験だ」と考えるのは、人生に対する偉大なアプローチだ。実験しなければ、発見もない。実験とは、創造的に思考することでもあるが、なんといっても開かれた精神をもつということだ。偏見をもったり、何がうまくいくか、いかないかを決めつけたりしてはいけない。仕事で実験するときはほどほどにリスクをとり、出だしでつまずいたり失敗したりしても、それものちのち何かの役に立つと考えて歓迎しよう。
失敗(周囲の人の失敗も含めて)によって価値あることを学んだら、その失敗を大切にしよう。うまくいかなくても、ネガティブな考え方をしてはいけない。実験と失敗で「過ちを犯す」のは創造的思考に不可欠だ。新しいアイデアの背後には必ず、成果が出なかった挑戦の長いリストが存在する。失敗に意識を集中するなら、それを学びの経験として活用するのだ。だが、旅を台無しにしてはいけない。製品を市場に出して成功させるには、惜しくも不発に終わった何千もの製品を出した経験が必要だ。どんどん実験しよう。
※シリーズ第3回:管理職が陥る「自分なんて大したことない」症候群
『何があっても打たれ強い自分をつくる
逆境力の秘密50』
ジョン・リーズ 著
関根光宏 訳
CCCメディアハウス
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
ここ数年、ビジネスの世界で関心を集めている概念がある。「resilience(レジリエンス)」だ。日本語では「復活力」や「逆境力」、あるいは「折れない心」などと訳されるが、そのままカタカナで「レジリエンス」と表記されることも多い。
困難な状況を上手に切り抜けるだけでなく、力強く成長する。それがレジリエンスであり、その過程では当然、失敗も経験する。例えば、あれほどスキャンダルにまみれながらも失脚せず、今なお高い人気を誇るビル・クリントン元米大統領や、時代の寵児から一転、証券取引法違反により有罪になった後も、実業家・著述家として活躍する堀江貴文氏といった人物を思い浮かべてみるといい。
彼らのようにレジリエンスを身につけるには、失敗を糧に前進することが不可欠だ。とはいえ、ただ反省すればいいのではない。イギリスのキャリア・ストラテジストであるジョン・リーズによれば、失敗から何も学ばないことはもちろんだが、何度も繰り返し過去の失敗を見つめ直して自分を責めるのも、同じくらいに問題だ。
リーズはこのたび、レジリエンスを習得・開発・強化する方法を伝えるべく、『何があっても打たれ強い自分をつくる 逆境力の秘密50』(関根光宏訳、CCCメディアハウス)を上梓した。50の項目にまとめられた実践的な1冊だ。
ここでは本書から一部を抜粋し、4回に分けて掲載する。第2回は「2 失敗を糧に前進し、後退しない」より。失敗から学び、打たれ強い人間になるには、一体どうすればいいのか。
『何があっても打たれ強い自分をつくる
逆境力の秘密50』
ジョン・リーズ 著
関根光宏 訳
CCCメディアハウス
※シリーズ第1回:レジリエンス(逆境力)は半世紀以上前から注目されてきた
◇ ◇ ◇
失敗とは何だろう? 大富豪の多くは、過去に何度かビジネスで失敗した経験がある。いつまでもくよくよと後悔し、自分の過去の決断を責めることもできる。だが、過去にとらわれず、同じ過ちを繰り返さないよう、失敗を糧にして「前進する」ことに意識を集中することもできる。学べるだけのことを学んだら先へ進むのだ。
【参考記事】一文無しも経験したから言える「起業=投資論」
情報過多の世界では、すばやい情報処理が必要なので、グレーよりも白か黒かで簡単に決着させようとする。そんななかで生まれた新たな基準が、完璧か否かだ。「よき」パートナー、両親、同僚、管理職となるために、多くの人が毎日途方もない重圧のもとで常に100%を達成しようとしている。成功でなければ、失敗なのだ。
自分に対する批判は厳しく極端になりやすいため、多くの物事が、全面的な成功か屈辱的な失敗かの観点から判断されてしまう。だが、それでは人は学ぶことができない。私たちは、毎日自分に向かって「よくできた、完璧だ」と自画自賛することによって成長するのではない。失敗によって成長するのだ。自分の失敗を許すには、ある程度のリスク、確信のなさ、弱さを受け入れる必要がある。
「失敗を糧に前進する」という考え方は、十分に反省すれば、次の段階に進んでもいいと励ましてくれる点で有益だ。何がうまくいき、何がうまくいかなかったのかを見つめ直すのだ。客観的な目で、もっとうまくできたかもしれないことを検討する。だが、反省のプロセスで立ち止まってしまってはいけない。過去はさまざまなことを教えてくれるが、いとも簡単に抜け出せなくなってしまう。
振り返るのは短時間で切りあげる
レジリエンスを身につけるには、自分が失敗だと考えていることに向き合わなければいけないが、必要以上の注意を向けてはならない。失敗について考え直すとは、健全な反省が自責の念に変わるポイントを認識する行為だ。どこで反省が自己非難に変わるのかを見極めよう。だが一度だけ、それも短時間で切りあげよう。その場に立ち会っていた人がつき合ってくれれば理想的だ。そして、もし同じ状況に陥ったら今度はどうするかを3つだけ書く。実行できないことを延々とリストアップしても意味がない。
次に仕事で失敗したときも、その状況を見つめ直そう。自分を非難する感情は無視する。もっと入念に準備しようと思えばできたのは当然だ。だが成功した場合も、それは同じだ。なぜ目的を達成できなかったのか、何を改善できるのか、次はどんなアプローチを試すべきか。少し時間をとって、それらを手早く書き留めよう。そして、また前進しよう。
【参考記事】能力が低いから昇進できない、という人はめったにいない
自分が変えられることに意識を集中する
過去の行動を見つめ直すときは、失敗を糧に前進することに常に意識を集中してほしい。自分が変えられることは何かという観点だけで出来事を見つめ直すのだ。会議がうまくいかず、誰かを怒らせてしまったなら、できることはたくさんある。反対に、失敗して後退するとは、過去の選択と行動に執着することだ。過去に執着すると客観的になるのは難しいし、どれほど執着しようが、過去から現在に意識を切り替えるべきときはくる。
また、失敗を謝ることは、相手に対する共感と責任感を示すうえで重要な方法だが、何から何まで常に謝っていると御しやすい相手だと思われてしまう。会議での決断について自分と同僚がまったく異なる受け取り方をしていた場合、「すまない、誤解していたようだ」と言うのを怖がることはないが、あまりに深刻にとらえてはいけない。大切なのは、何かし忘れたことがなかったか、そして、同じことが起きたらまた同じ行動をとれるかどうかだ。どちらの問いに対しても答えが「ノー」なら前進しよう。意識を集中すべきは次の段階であって、謝罪ではない。
さまざまなことを試す
実験精神をもとう。「何事も実験だ」と考えるのは、人生に対する偉大なアプローチだ。実験しなければ、発見もない。実験とは、創造的に思考することでもあるが、なんといっても開かれた精神をもつということだ。偏見をもったり、何がうまくいくか、いかないかを決めつけたりしてはいけない。仕事で実験するときはほどほどにリスクをとり、出だしでつまずいたり失敗したりしても、それものちのち何かの役に立つと考えて歓迎しよう。
失敗(周囲の人の失敗も含めて)によって価値あることを学んだら、その失敗を大切にしよう。うまくいかなくても、ネガティブな考え方をしてはいけない。実験と失敗で「過ちを犯す」のは創造的思考に不可欠だ。新しいアイデアの背後には必ず、成果が出なかった挑戦の長いリストが存在する。失敗に意識を集中するなら、それを学びの経験として活用するのだ。だが、旅を台無しにしてはいけない。製品を市場に出して成功させるには、惜しくも不発に終わった何千もの製品を出した経験が必要だ。どんどん実験しよう。
※シリーズ第3回:管理職が陥る「自分なんて大したことない」症候群
『何があっても打たれ強い自分をつくる
逆境力の秘密50』
ジョン・リーズ 著
関根光宏 訳
CCCメディアハウス
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部