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いまワイン好きがソノマを訪れるべき理由

ニューズウィーク日本版 2016年10月22日 9時0分

<ホテル付きワイナリーからプチ醸造所まで、カリフォルニアが生んだ極上ワインを探そう>(写真:年間15万人が訪れるフランシス・フォード・コッポラ・ワイナリー)

 アメリカ屈指のワイン産地であるカリフォルニア州ソノマ郡。その中心に程近いブエナ・ビスタ・ワイナリーは、カリフォルニア最古の商業ワイン醸造所で、アメリカの近代ワイン産業の発祥の地として知られている。

 歴史的なワイナリーの見学(とワインの試飲)にワクワクしながら建物に足を踏み入れると、フロックコートにトップハット姿の男性が現れた。「ようこそ。私はオーゴストン・ハラスティー伯爵です」

 筆者のうさんくさそうな視線を無視して、「伯爵」は話し続ける。「ここでは食事に合うワイン造りを心掛けています。エレガントなワインですね。ブドウの成分を抽出し過ぎたり、オークの香りが強過ぎたり、アルコール度数が高過ぎてはいけません。特別なワインには家族の名前を付けることもあります。エレノラ・シャルドネは私の妻の名前から付けました」

 ハンガリーから移住してきたハラスティー伯爵が、ソノマに石造りのワイナリーを造ったのは1857年のこと。翌年には『カリフォルニアのブドウとワインに関する報告書』を執筆して、カリフォルニアにおけるブドウ栽培とワイン造りの実践的なアドバイスを記録。この事業を州全体に広げるべきだと提言した。

 それから150年以上たった今、伯爵の提言は見事に生かされている。今やカリフォルニアは世界最大のワイン産地の1つであり、生産量は年間30億本に達する。一番有名なのは隣のナパバレーだが、ソノマも上質なワインを送り出している。

 さらにここ10年ほどは、観光地としてもソノマの人気は急上昇中だ。もともとサンフランシスコから車で1時間ほどと交通の便がいいことに加えて、試飲室やレストランを設け、直販に応じるワイナリーが増えたことが大きな魅力となっている。

【参考記事】イベリア半島にたたずむ家族経営の隠れ家ホテル

州外では買えない極上品

 ブエナ・ビスタにも立派な見学ルートがあったが、次に訪問したフランシス・フォード・コッポラ・ワイナリーはもっとすごかった。映画監督のコッポラが所有するこのワイナリーにはレストランや試飲室はもとより、博物館やプール付きのホテルまであり、年間15万人が訪れるという。

 筆者も試飲室に入る前に、コッポラ作品の思い出の品に見入ってしまった。『ゴッドファーザー』で使われたドン・コルレオーネのデスクや、『ドラキュラ』でドラキュラ伯爵が着ていた甲冑(かっちゅう)などだ(下の写真)。

George Rose/GETTY IMAGES



George Rose/GETTY IMAGES

 コッポラの会社はナパバレーにも大きなブドウ園を持っていて、年間100万ケースものワインを生産している。ブエナ・ビスタは10万ケース。それ以外のソノマのワイナリーは、年間5000~1万ケース程度の生産がほとんどだ。会員や見学者への直販しかしない所も多い。

「おいしいカリフォルニアワインに出会いたいなら、直接ソノマに来たほうがいい」と、地元でワイン店を経営するグレン・シーゲルは語る。「州外のレストランや小売店には出ていないワインが多いからね」

 しかもシーゲルが言うように、ソノマでは極上のピノ・ノワール(赤ワイン)とシャルドネ(白ワイン)が造られている。世界的に有名なワイン批評家のロバート・パーカーは、ソノマの多くのピノ・ノワールとシャルドネに100点満点中で90点以上を与えている。

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家族経営の醸造所の魅力

 大型ワイナリーを2つ見学した後は、プチワイナリーを2つ訪問してみることにした。まず、ロシアン・リバー・バレーと呼ばれる地区にあるバチガルピ・ビニヤード。この辺りは赤ワイン用のブドウのシラー種に必要な温かさと、シャルドネ種とピノ・ノワール種に必要な冷涼さの両方に恵まれた気候が特徴だ。

 オーナーのバチガルピ家は、1872年頃にイタリア北部からこの地へやって来た。1950年代に歯科医だったチャールズと妻ヘレンが土地を購入して、上質なシャルドネと官能的なピノ・ノワールを造り始めた。

 現在、陣頭指揮を執るのはチャールズの孫娘ニコラで、単一種のワインを年間300ケースほど造っている。確実に手に入れたいなら、ここでニコラの話を聞きながら試飲させてもらい、ケースで買うのが一番だ。

 もう1つのフォート・ロス・ビニヤードは、海岸沿いの丘の上にある。なだらかな起伏のブドウ園から望む太平洋はまさに絶景だ。ここの所有者もイタリア系で、レスターとリンダのシュワーツ夫妻は70年代半ばに南アフリカから引っ越してきた。

 ここで隠遁生活を送るつもりだったが、「懐かしくて」南アフリカ生まれのブドウ種ピノタージュを植えたのが、ワイナリーを始めるきっかけとなった。今は涼しい海岸の気候に合わせてピノ・ノワール種とシャルドネ種が大半を占める。

 ピノ・ノワールとシャルドネ、ピノタージュの単一種ワインを試飲させてもらったが、パーカーの評価どおり文句なしの極上だった。ハラスティー伯爵も太鼓判を押したに違いない。

[2016.10.18号掲載]
グレアム・ボイントン

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