<蓮舫民進党代表、小池百合子都知事、稲田朋美防衛相と、政治の世界で相次いで女性が重要ポストに就任。男性社会の日本に少しずつ実のある変化が起こり始めている>
一昔前、台湾人の父と日本人の母を持ち、中国風のファーストネームだけで活動する女性が日本の最大野党の党首になると言えば、鼻で笑われただろう。
しかし先月、民進党の代表選で圧勝した蓮舫(村田蓮舫)は、まさにそういう人物だった。前身の民主党の時代を含めて、女性が党首になるのも、外国に部分的なルーツを持つ人物が党首になるのも初めてのことだ。
蓮舫だけではない。この夏、小池百合子が女性初の東京都知事になり、稲田朋美が女性で史上2人目の防衛相に就任した。
いわゆる「ハーフ」の日本人に関しても目覚ましい出来事があった。先月、インド人の父を持つ吉川プリアンカがミス・ワールド日本代表に輝いたのだ。1年前には、アフリカ系アメリカ人の父を持つ宮本エリアナがミス・ユニバース日本代表に選ばれている。多くの日本人は、ハーフの女性を日本の顔として受け入れ始めているようだ。
【参考記事】「妊娠するためのサポート」が企業に求められる時代
この20年間の経済停滞期に、日本の社会では静かに実のある変化が起きたのかもしれない。日本人は好むと好まざるとにかかわらず、民族やジェンダーなどについての概念を見直さざるを得なくなっている。
現状では、女性が衆院議員に占める割合は9.5%(参院は20.7%)、企業の取締役に占める割合は2.1%にすぎない。OECD(経済協力開発機構)によれば女性取締役の割合はフランスでは約30%、カナダとアメリカでは約20%に達している。
日本では男女の賃金格差も27%に上り(中央値の比較)、結婚後の女性がキャリアを追求する妨げになっている。一方、労働力に占める外国人の割合は2%に満たない。この割合は欧州諸国では平均10%、アメリカでは16%だ。
経済停滞の思わぬ恩恵
しかし日本にとって、女性と移民の労働市場参加は避けて通れない問題だ。デフレ、低成長、世界最大の公的債務(16年度末の公債発行残高は838兆円に達する見通し)という3つの大問題は、安倍晋三首相のアベノミクスによっても大きく改善していない。
その上、1人の女性が生涯に産む子供の数は平均1.5人を下回り、平均寿命は世界最長の83.7歳だ。少子化と高齢化により、勤労世代の人口が減る一方、年金生活を送る高齢者の人口がますます増えていく。
Masterpress/GETTY IMAGES
ところがOECDによれば、第1子出産後も仕事を続ける日本の女性は38%止まり。母親が家で子育てを担うことを求める社会的重圧が強いことと、保育所の不足が大きな原因だ。
この問題は、日本社会がアウトサイダーの受け入れに消極的なこととも関係している。人件費の高い日本では、多くの家庭にとってベビーシッターは手が出ない。日本が一部の地域で、低賃金の保育サービスの担い手にもなるフィリピン人家事労働者の派遣事業を解禁したのは、最近になってからだ。
双子を育てながら、政治家としてのキャリアの階段を上ってきた蓮舫は、ほとんどの日本女性にとって真のロールモデルというより、夢物語の中のまぶしい存在でしかない。
それでも、日本社会に(ささやかとはいえ)真の変化が訪れたことは確かだ。「失われた20年」に、日本は静かな成熟を遂げた。高度経済成長時代の傲慢さを脱却し、グローバルな感覚を強め、人種的多様性をより受け入れ、家父長主義的価値観に縛られなくなったのだ。
【参考記事】性別と家事分担の根深い刷り込み
日本はよりよく、よりかっこよく、より寛容な、そしてより自信に満ちた国になったように見える。80年代には虚勢を張ることによって、外の世界に対する深い不安を覆い隠していた。当時はハーフは過剰にもてはやされるか、陰湿ないじめに遭うかのどちらかだったが、最近はかなり普通の日本人として扱われるようになった。
国籍をめぐる問題が蓮舫の民進党代表選で命取りにならなかった背景には、こうした社会の変化もあるのだろう。共同通信の世論調査によると、約3分の2の人が蓮舫の国籍問題を「問題ではない」と答えている。
日本人の大多数は今も移民の受け入れに不安を抱いているが、容認論も強まりつつあるようだ。WINとギャラップの共同世論調査では、移民労働者の受け入れを良いと考える人は22%で、悪いと考える15%を上回っている(分からない、もしくは答えたくないとの回答は63%)。
日本が世界を驚かす日
「社会に劇的な変化が起きている」と、政治学者の中野晃一はフォーリン・ポリシー誌に語っている。女性や外国系日本人に対する否定的な態度は「だいぶ鳴りを潜めた」という。
法務省によると、在留外国人の数は昨年、過去最多の223万人に達した。日本の人口1億2700万人のわずか1.8%だが、20年前に比べれば72%も増えている。
Issei Kato-REUTERS
女性の経済参加拡大を目指す安倍首相の「ウーマノミクス」は期待ほどの成果を上げていないかもしれないが、保育所の増設といった措置が実を結び始めていることも事実だ。OECDによると、政府による保育施設の増設計画が功を奏し、12年後半以降で女性の就労率は約4%増加している。
「一夜ですべてが変わるわけではないが、変化が起きていることは確かだ」と、コンサルティング会社ユーロテクノロジー・ジャパン(東京)のゲルハルト・ファーソル社長は言う。
ファーソルは14年以降、日本のテクノロジー企業の社外取締役を務めている。日本の企業で取締役を務める外国人はまだ少ないが、なれ合い体質の不透明な企業経営に目を光らせるために外国人が登用され始めたのは、画期的な変化だ。
民進党の蓮舫代表、小池東京都知事、稲田防衛相と、政治の世界で要職に就く女性が続いたとはいえ、日本の政治と社会を動かしているのが圧倒的に男性であることに変わりはない。
それでも、この3人の女性リーダーは単なるお飾りではない。彼女たちは、日本の社会が着実に大きく変貌しつつあることの象徴だ。その変化の先には、高齢化が進むなかでも多様性のある明るい未来を実現し、世界を驚かせる日本の姿があるかもしれない。
From Foreign Policy Magazine
[2016.10.25号掲載]
ジョウジ・サクライ(ジャーナリスト)
一昔前、台湾人の父と日本人の母を持ち、中国風のファーストネームだけで活動する女性が日本の最大野党の党首になると言えば、鼻で笑われただろう。
しかし先月、民進党の代表選で圧勝した蓮舫(村田蓮舫)は、まさにそういう人物だった。前身の民主党の時代を含めて、女性が党首になるのも、外国に部分的なルーツを持つ人物が党首になるのも初めてのことだ。
蓮舫だけではない。この夏、小池百合子が女性初の東京都知事になり、稲田朋美が女性で史上2人目の防衛相に就任した。
いわゆる「ハーフ」の日本人に関しても目覚ましい出来事があった。先月、インド人の父を持つ吉川プリアンカがミス・ワールド日本代表に輝いたのだ。1年前には、アフリカ系アメリカ人の父を持つ宮本エリアナがミス・ユニバース日本代表に選ばれている。多くの日本人は、ハーフの女性を日本の顔として受け入れ始めているようだ。
【参考記事】「妊娠するためのサポート」が企業に求められる時代
この20年間の経済停滞期に、日本の社会では静かに実のある変化が起きたのかもしれない。日本人は好むと好まざるとにかかわらず、民族やジェンダーなどについての概念を見直さざるを得なくなっている。
現状では、女性が衆院議員に占める割合は9.5%(参院は20.7%)、企業の取締役に占める割合は2.1%にすぎない。OECD(経済協力開発機構)によれば女性取締役の割合はフランスでは約30%、カナダとアメリカでは約20%に達している。
日本では男女の賃金格差も27%に上り(中央値の比較)、結婚後の女性がキャリアを追求する妨げになっている。一方、労働力に占める外国人の割合は2%に満たない。この割合は欧州諸国では平均10%、アメリカでは16%だ。
経済停滞の思わぬ恩恵
しかし日本にとって、女性と移民の労働市場参加は避けて通れない問題だ。デフレ、低成長、世界最大の公的債務(16年度末の公債発行残高は838兆円に達する見通し)という3つの大問題は、安倍晋三首相のアベノミクスによっても大きく改善していない。
その上、1人の女性が生涯に産む子供の数は平均1.5人を下回り、平均寿命は世界最長の83.7歳だ。少子化と高齢化により、勤労世代の人口が減る一方、年金生活を送る高齢者の人口がますます増えていく。
Masterpress/GETTY IMAGES
ところがOECDによれば、第1子出産後も仕事を続ける日本の女性は38%止まり。母親が家で子育てを担うことを求める社会的重圧が強いことと、保育所の不足が大きな原因だ。
この問題は、日本社会がアウトサイダーの受け入れに消極的なこととも関係している。人件費の高い日本では、多くの家庭にとってベビーシッターは手が出ない。日本が一部の地域で、低賃金の保育サービスの担い手にもなるフィリピン人家事労働者の派遣事業を解禁したのは、最近になってからだ。
双子を育てながら、政治家としてのキャリアの階段を上ってきた蓮舫は、ほとんどの日本女性にとって真のロールモデルというより、夢物語の中のまぶしい存在でしかない。
それでも、日本社会に(ささやかとはいえ)真の変化が訪れたことは確かだ。「失われた20年」に、日本は静かな成熟を遂げた。高度経済成長時代の傲慢さを脱却し、グローバルな感覚を強め、人種的多様性をより受け入れ、家父長主義的価値観に縛られなくなったのだ。
【参考記事】性別と家事分担の根深い刷り込み
日本はよりよく、よりかっこよく、より寛容な、そしてより自信に満ちた国になったように見える。80年代には虚勢を張ることによって、外の世界に対する深い不安を覆い隠していた。当時はハーフは過剰にもてはやされるか、陰湿ないじめに遭うかのどちらかだったが、最近はかなり普通の日本人として扱われるようになった。
国籍をめぐる問題が蓮舫の民進党代表選で命取りにならなかった背景には、こうした社会の変化もあるのだろう。共同通信の世論調査によると、約3分の2の人が蓮舫の国籍問題を「問題ではない」と答えている。
日本人の大多数は今も移民の受け入れに不安を抱いているが、容認論も強まりつつあるようだ。WINとギャラップの共同世論調査では、移民労働者の受け入れを良いと考える人は22%で、悪いと考える15%を上回っている(分からない、もしくは答えたくないとの回答は63%)。
日本が世界を驚かす日
「社会に劇的な変化が起きている」と、政治学者の中野晃一はフォーリン・ポリシー誌に語っている。女性や外国系日本人に対する否定的な態度は「だいぶ鳴りを潜めた」という。
法務省によると、在留外国人の数は昨年、過去最多の223万人に達した。日本の人口1億2700万人のわずか1.8%だが、20年前に比べれば72%も増えている。
Issei Kato-REUTERS
女性の経済参加拡大を目指す安倍首相の「ウーマノミクス」は期待ほどの成果を上げていないかもしれないが、保育所の増設といった措置が実を結び始めていることも事実だ。OECDによると、政府による保育施設の増設計画が功を奏し、12年後半以降で女性の就労率は約4%増加している。
「一夜ですべてが変わるわけではないが、変化が起きていることは確かだ」と、コンサルティング会社ユーロテクノロジー・ジャパン(東京)のゲルハルト・ファーソル社長は言う。
ファーソルは14年以降、日本のテクノロジー企業の社外取締役を務めている。日本の企業で取締役を務める外国人はまだ少ないが、なれ合い体質の不透明な企業経営に目を光らせるために外国人が登用され始めたのは、画期的な変化だ。
民進党の蓮舫代表、小池東京都知事、稲田防衛相と、政治の世界で要職に就く女性が続いたとはいえ、日本の政治と社会を動かしているのが圧倒的に男性であることに変わりはない。
それでも、この3人の女性リーダーは単なるお飾りではない。彼女たちは、日本の社会が着実に大きく変貌しつつあることの象徴だ。その変化の先には、高齢化が進むなかでも多様性のある明るい未来を実現し、世界を驚かせる日本の姿があるかもしれない。
From Foreign Policy Magazine
[2016.10.25号掲載]
ジョウジ・サクライ(ジャーナリスト)