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モスル奪還作戦、逃げるISISを待ち受けるのは残虐なシーア派民兵

ニューズウィーク日本版 2016年10月26日 15時41分

<イラク軍によるISIS最後の主要拠点モスルの奪還作戦が続くなか、シーア派民兵組織に「ISISがシリアに逃れるのを阻止せよ」との命令が下った。モスル奪還作戦最新レポート>(写真は10月19日、モスル西方でシーア派の旗にキスをする戦闘員)

 イラク北部からISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の戦闘員がシリアへ逃れるのを阻止せよ――25日、イランの支援を受けるシーア派民兵らで構成されたイラクの民兵組織がそう命令を受けた。

 民兵組織は「民衆動員部隊(ハシェド)」と呼ばれる統括的な部隊で、残虐さで知られている。ファルージャやラマディなど、イラク西部でISISが支配していた都市を奪い返す作戦では重要な働きをしたが、北部の大都市モスルの奪還作戦では役割が限定されてきた。

 ISIS支配下にあり現在も100万人以上の住民が残るモスルでは、スンニ派アラブ人が多数を占める。そこへシーア派民兵が進攻すれば、住民たちに報復攻撃を始めかねなかった。

【参考記事】ISIS「人間の盾」より恐ろしい?イラク軍によるモスル住民への報復

 だが今、ハシェドはモスル西方63キロに位置するシーア派の都市タルアファルを解放する任に就いている。彼らのもう1つの任務は、ISISがシリアに逃げるのを阻止し、モスルをシリアから完全に孤立させることだ。

シリアに逃せば再興の恐れ

 フランスのフランソワ・オランド大統領は、モスルから逃げ出すISIS戦闘員がISISの事実上の首都となっているシリアのラッカに集結し、内戦状態にある同国で組織を立て直す危険性を指摘していた。

【参考記事】【マップ】ISIS掃討作戦、ファルージャ奪還後の攻略目標

 モスルはISISのイラク最後の主要拠点だ。アメリカ主導の有志連合が軍事顧問を送り、空爆で援護するなか、約3万人の地上部隊を擁するイラク軍とクルド人部隊による奪還作戦が10月17日に始まった。完了までに数週間はかかるとみられている。

 すでにモスルまで10キロ圏内の地点まで進軍しているが、ISISは狙撃手や自動車を使った自爆テロ、仕掛け爆弾などを使って反撃している。イラク軍はこれまでのところ、モスル周辺の地区からISISを一掃することに集中してきた。今後は都市内部の人口過密地区が戦場となり、激しい戦いが予想される。



 犠牲は既に多数にのぼっている。国連人権高等弁務官事務所のルパート・コルビル報道官は25日、イラク軍による奪還作戦の開始後に、ISISがモスル周辺で数百人を殺害しているようだと発表した。イラク軍もモスル南方の村で住民70人の死体を発見したほか、別のモスル南方の村で15人が殺されて死体が川に投げ込まれていた、モスル郊外にあるビルで元警察官50人が殺害された、などの情報が入っているという。

 追い詰められたISISの最後のあがきかもしれない。果たしてモスル奪還は成功するか。そしてハシェドはISISの退路を断てるのか。

ジャック・ムーア

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