いま、アメリカではハンモック界が熱いです。過去15年間ほど通っているORショー(outdoor retailer show)では、2010年代に入ってからしばらく目新しい潮流がなかったのですが、ここ数年でハンモックのブースがじわじわと増えています。バリエーションも豊富で、Hennessy Hammock のような老舗を筆頭に、これまでORには出店していなかった既存のブランドから新興のメーカーのものまで揃っています。
現代のハンモックブームの特徴
しかも、ウルトラライトの黎明期にもあった「こんなつくりで大丈夫なの?」といった驚きを与えてくれるハンモックが続々と登場しているのが興味深いところ。特に最近ではハンモックを木に巻き付けるためのストラップに注目が集まり、いかに素早く無駄なくセッティングできるのかを各ガレージメーカーが競っています。ややマニアックですが、すごくおもしろい世界です。
【参考記事】空中にも地上にも張れるハイブリッドなドーム型テント
こうした草の根的な動きを、大手ブランドがオマージュして製品化する傾向も見られます。NEMO から出ていた Tetrapod というモデルは、Hennessy Hammock と同様にバグネットとタープを付けたシェルターハンモックですが、収納方法やストラップの構造などは現在のハンモックメーカーのトレンドを押さえたものになっています。さらに、 Klymit からハンモック用のマットも発売されるそうです。スリーピングギア全般に定評のある Cascade Designs も、近年はハンモック市場に参戦しています。こうした有名メーカーの動向からも、新しいムーブメントの胎動を感じられます。
Klymitのハンモック用のマット
注目ULモデルに学ぶハンモックの基礎
日本にも新しいハンモックギアが入ってきており、以前ご紹介した Hummingbird Hammocks のラインナップにも、シングル+という新たなサイズが加わりました。ほとんどのハンモックメーカーは、一人用のシングルサイズと二人で入れるダブルサイズを用意しています。そのなかでも、Hummingbird のシングルサイズはわずか145gという驚異的な軽さです。
パラシュートで使われる薄いリップストップ・ナイロンを使っている
パンツのバックポケットに入るコンパクトさ
しかし、そこで注意しなければならないのが横になれる面積の問題です。というのも、本来ハンモックは張った方向にそって水平に寝そべるのではなく、垂直か斜めに入ったほうが快適に過ごせるからです。水平に入ると、ハンモックのたわみと同じ方向に重心がかかって腰が曲がってしまい、揺れやすくなります。一方、垂直か斜めに入ると荷重を分散させて体をフラットに保てるし、横揺れも防げる。中南米で使われているブラジリアンハンモックのように睡眠に特化したものも、やはり縦に入れるように幅が広くとられていますよね。
そう考えると、軽量化を重視したシングルサイズだと、斜めに寝そべるにはちょっと狭いんです。もちろん寝られないわけではないので、それを分かった上で軽いものを選ぶのはありでしょう。ところが、それを理解せずにシングルサイズを使うと「ハンモックってあんまり寝心地がいいものではないんだな......」と誤解してしまう可能性もあります。
このシングル+なら、重量こそ210gになるものの幅が160cmと広くとられているので、寝具として気持よく使えると思います。他にも、寝心地より軽さを優先したいなら幅130cmの eno の Sub7(185g)、さらにもっと小柄で幅が気にならない人だったら幅127cmの Hummingbird のシングルといった選択肢があります。CTタープをはじめとして、組み合わせられるタープにもバリエーションが出てきているので、ぜひご自身にあったスタイルを検討してみてください。
ハンモックの固定観念を再考する
日本でハンモックというと、どうしてもリラックスするための道具と捉えられがちです。アウトドアでも、軽快なハイキングに持っていくというより、オートキャンプやリゾートキャンプに持っていくものといった印象を持っている人が多いのではないでしょうか。でも、実は嗜好品的にハンモックを使っている国は少数派です。アメリカのメーカーはハンモックを実用的な幕営道具として生産しているし、東南アジアや中南米ではもともと生活のなかに溶け込んでいる道具です。軍隊がジャングルでの作戦中に使ってきた歴史もあるので、ベトナム戦争後には放出品が多く出回りました。そうした背景のなかで、ハンモックは自然の中での旅の道具として広く受け入れられているのです。
日本の気候、風土を考えても、ハンモックを旅の道具として見直すことには大きなメリットがあります。アメリカでハンモックがよく使われているのも、気候がよく乾燥した西海岸ではなく、湿度も気温も高い東海岸です。標高が低くて森が多いトレイルが続き、平地が見つけにくく、地面も湿っていて、なおかつダニのような害虫も多い。そんな状況だからこそ、東海岸ではハンモックが重宝されています。整地してテントを立てる場合に比べて地面へのダメージも少ないですし、ストラップを木に巻きつけて荷重をかけても木の幹が傷むこともありません。
もちろんハンモックが万能だというわけではありません。幕営指定地での宿泊が中心の日本では、仕様が制限される状況も少なくないでしょう。しかし、日本の里山や低山といった森林限界内の自然は、本来ハンモックに適したシチュエーションなのです。もっともっと就寝具として活用できる方向を模索していきたいと思います。みなさんもぜひ、ハンモック旅の可能性を体感してみてはいかがでしょうか。
※本稿は土屋智哉(ハイカーズデポ)さんの談話をもとに、ギアード編集部が文章化しています。
執筆:Geared(Facebookページ)
○関連記事(ギアード)
カラビナも金具も使わない「アナログなハイテク」がすごいHummingbird Hammocks
土屋智哉(ハイカーズデポ)、ギアード
現代のハンモックブームの特徴
しかも、ウルトラライトの黎明期にもあった「こんなつくりで大丈夫なの?」といった驚きを与えてくれるハンモックが続々と登場しているのが興味深いところ。特に最近ではハンモックを木に巻き付けるためのストラップに注目が集まり、いかに素早く無駄なくセッティングできるのかを各ガレージメーカーが競っています。ややマニアックですが、すごくおもしろい世界です。
【参考記事】空中にも地上にも張れるハイブリッドなドーム型テント
こうした草の根的な動きを、大手ブランドがオマージュして製品化する傾向も見られます。NEMO から出ていた Tetrapod というモデルは、Hennessy Hammock と同様にバグネットとタープを付けたシェルターハンモックですが、収納方法やストラップの構造などは現在のハンモックメーカーのトレンドを押さえたものになっています。さらに、 Klymit からハンモック用のマットも発売されるそうです。スリーピングギア全般に定評のある Cascade Designs も、近年はハンモック市場に参戦しています。こうした有名メーカーの動向からも、新しいムーブメントの胎動を感じられます。
Klymitのハンモック用のマット
注目ULモデルに学ぶハンモックの基礎
日本にも新しいハンモックギアが入ってきており、以前ご紹介した Hummingbird Hammocks のラインナップにも、シングル+という新たなサイズが加わりました。ほとんどのハンモックメーカーは、一人用のシングルサイズと二人で入れるダブルサイズを用意しています。そのなかでも、Hummingbird のシングルサイズはわずか145gという驚異的な軽さです。
パラシュートで使われる薄いリップストップ・ナイロンを使っている
パンツのバックポケットに入るコンパクトさ
しかし、そこで注意しなければならないのが横になれる面積の問題です。というのも、本来ハンモックは張った方向にそって水平に寝そべるのではなく、垂直か斜めに入ったほうが快適に過ごせるからです。水平に入ると、ハンモックのたわみと同じ方向に重心がかかって腰が曲がってしまい、揺れやすくなります。一方、垂直か斜めに入ると荷重を分散させて体をフラットに保てるし、横揺れも防げる。中南米で使われているブラジリアンハンモックのように睡眠に特化したものも、やはり縦に入れるように幅が広くとられていますよね。
そう考えると、軽量化を重視したシングルサイズだと、斜めに寝そべるにはちょっと狭いんです。もちろん寝られないわけではないので、それを分かった上で軽いものを選ぶのはありでしょう。ところが、それを理解せずにシングルサイズを使うと「ハンモックってあんまり寝心地がいいものではないんだな......」と誤解してしまう可能性もあります。
このシングル+なら、重量こそ210gになるものの幅が160cmと広くとられているので、寝具として気持よく使えると思います。他にも、寝心地より軽さを優先したいなら幅130cmの eno の Sub7(185g)、さらにもっと小柄で幅が気にならない人だったら幅127cmの Hummingbird のシングルといった選択肢があります。CTタープをはじめとして、組み合わせられるタープにもバリエーションが出てきているので、ぜひご自身にあったスタイルを検討してみてください。
ハンモックの固定観念を再考する
日本でハンモックというと、どうしてもリラックスするための道具と捉えられがちです。アウトドアでも、軽快なハイキングに持っていくというより、オートキャンプやリゾートキャンプに持っていくものといった印象を持っている人が多いのではないでしょうか。でも、実は嗜好品的にハンモックを使っている国は少数派です。アメリカのメーカーはハンモックを実用的な幕営道具として生産しているし、東南アジアや中南米ではもともと生活のなかに溶け込んでいる道具です。軍隊がジャングルでの作戦中に使ってきた歴史もあるので、ベトナム戦争後には放出品が多く出回りました。そうした背景のなかで、ハンモックは自然の中での旅の道具として広く受け入れられているのです。
日本の気候、風土を考えても、ハンモックを旅の道具として見直すことには大きなメリットがあります。アメリカでハンモックがよく使われているのも、気候がよく乾燥した西海岸ではなく、湿度も気温も高い東海岸です。標高が低くて森が多いトレイルが続き、平地が見つけにくく、地面も湿っていて、なおかつダニのような害虫も多い。そんな状況だからこそ、東海岸ではハンモックが重宝されています。整地してテントを立てる場合に比べて地面へのダメージも少ないですし、ストラップを木に巻きつけて荷重をかけても木の幹が傷むこともありません。
もちろんハンモックが万能だというわけではありません。幕営指定地での宿泊が中心の日本では、仕様が制限される状況も少なくないでしょう。しかし、日本の里山や低山といった森林限界内の自然は、本来ハンモックに適したシチュエーションなのです。もっともっと就寝具として活用できる方向を模索していきたいと思います。みなさんもぜひ、ハンモック旅の可能性を体感してみてはいかがでしょうか。
※本稿は土屋智哉(ハイカーズデポ)さんの談話をもとに、ギアード編集部が文章化しています。
執筆:Geared(Facebookページ)
○関連記事(ギアード)
カラビナも金具も使わない「アナログなハイテク」がすごいHummingbird Hammocks
土屋智哉(ハイカーズデポ)、ギアード