Infoseek 楽天

アイスランド総選挙、海賊党が躍進 

ニューズウィーク日本版 2016年10月31日 16時30分

<アイスランドで29日、「パナマ文書」で名前が挙がったグンロイグソン前首相の辞任に伴う議会総選挙の投票が行われ、ネットによる直接民主主義の導入などを主張する海賊党が躍進した>

 アイスランドの政治が激動のときをむかえている。

 ウィキリークスの元活動家が党首で、直接選挙、政府の透明性、市民の情報のアクセスなどをマニフェストとして掲げる海賊党が総選挙で14.5%の支持率を獲得し63議席中10議席(これまで3議席)を得て、大躍進を果たしたのだ。海賊党はほかの3野党や新興政党である改革党との5党連立を検討しているという。

デジタル時代の市民権

 海賊党は、「デジタル時代の市民権」―プライバシーの保護、著作権の緩化、政治の透明性と市民の情報のアクセスなど―を求めた人々によってスウェーデンで最初に立ち上げられ、インターネットを通じてヨーロッパじゅうに広まった。そんな海賊党の流れをくみ、アイスランド海賊党は2012年に設立。同年の選挙では5.1%の投票率を得て国会で3議席を獲得した。

 そんなアイスランド海賊党の躍進のきっかけは、今年4月にリークされた「パナマ事件」だった。パナマ事件によって、アイスランドの政治家の多くがオフショアのタックス・ヘイブンをつかって税金逃れをしていたことが明るみに出、これを受けて、シグムンドゥル・グンラウグソンアイスランド首相は辞任。このスキャンダルは政治腐敗・政治の透明性への問題に光を当てることになり、「政治腐敗の一掃」「オープンガバナンス」を掲げるアイスランド海賊党の人気は急上昇した。

【参考記事】パナマ文書に激怒するアイスランド国民の希望? アイスランド海賊党とは

 そんなアイスランド海賊党の政策方針は、従来型の政党のものとは一線を画す。まず、彼らは政策をエビデンス・ベースで決定すること―つまり、「政策の是非に関係なく(偏見なく)集められたデータと知識をもとに政策を決定すること」を掲げる。これはアイスランド海賊党のコア・ポリシーの第一条にも明記されており、そのあとに「市民権」、「プライバシー権」、「政治の透明性」などが続く。
(コア・ポリシー全訳)

 そんなアイスランド海賊党が掲げる政策も、テクノロジーオリエンテッドかつ進歩主義的だ。オンラインプラットフォームをつかった直接投票による政策決定、クラウドソーシングによる憲法改正、ビットコインなどの仮想通貨を法定貨幣にすること、アメリカ政府による市民の大量監視を告発し国を追われたエドワード・スノーデンの亡命受け入れ、そしてベーシック・インカムの導入 ̄その多くは、デジタルテクノロジーを駆使した市民権の保護や格差の是正といった彼らのコア・ポリシーにつながっている。



 筆者が3月にアイスランドで取材をした際、ある海賊党員からこんなことを言われた。
「アイスランド海賊党のコア・イシューは著作権問題でも直接民主制の実現でもない。アイスランド海賊党が目指しているのは、『権力を持つひととそうでない人の、力の差を是正すること』だ。だからこそ、個人を権力の濫用から守るためにプライバシーの保護が必要だし、権力をひとびとと同じレベルに下げるために、政治の透明性が必要なんだ」

 また、アイスランド海賊党員で現国会議員のエスタ・ヘルガドッター議員もこう語っている。
「海賊党は、権力を握るための政党ではない。私たちは権力をひとびとに与えるために活動している。私たちは、民主主義のロビン・フッドになりたいのです」。

 近年のオキュパイ運動やイタリアの五つ星運動、さらには格差是正を掲げて大統領選に出馬したバーニー・サンダースが絶大な支持を得た「サンダース現象」にも通じる、今回の「海賊党現象」。いままでの類似した市民運動との大きな違いは、ついにここで彼らが行政府に参画することになった、という点だ。この選挙結果によって、アイスランドの政治はどのように変わるのだろうか。


Rio Nishiyama

この記事の関連ニュース