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【写真特集】究極の選択をするアメリカの本音

ニューズウィーク日本版 2016年11月1日 20時12分

<今年の米大統領選は「嫌われ者」同士の対決。有権者はどのような理由で誰に投票するのか。ドナルド・トランプの「地元」であり、ヒラリー・クリントンの政治基盤でもあるニューヨーク州で、両候補支持者の声を聞いた>

 今年の米大統領選は、言わば「嫌われ者」同士の対決だ。共和党のドナルド・トランプと民主党のヒラリー・クリントンは、「アメリカ史上最も不人気なライバル候補」とされている。8月末の時点で、有権者の不支持率は両者とも約60%に上った。

 それでもアメリカはどちらかをホワイトハウスの長に選ばなければならない。どちらも支持しない人でも、より嫌いな候補の当選を阻止するために、もう一方に投票せざるを得ない「究極の選択」を迫られている。

 本誌は10月上旬、ニューヨーク州でトランプ支持者とクリントン支持者の声を聞くべく、一般人への取材、撮影を行った。同州はトランプの出身地でビジネス基盤でもある「地元」。対するクリントンにとっても大事な政治基盤だ。彼女は01年から8年間、ニューヨーク州選出の上院議員を務めた。

 ところが実際は、政治的な場以外で2人の熱心な支持者を見つけることは容易ではなかった。世論調査によれば、同州での支持率はクリントンが約50%、トランプが約30%。これには候補者本人ではなく民主党や共和党を支持している場合も含まれる。

 多様な人種が集まるニューヨークはリベラル色が強く、大統領選では88年以降、民主党候補の勝利が続いてきた。だがファーストレディー時代から政界にどっぷり漬かり、特にウォール街との関係で黒い疑惑も絶えない「政治屋」クリントンを信用できないとする声は根強い。それでもクリントンに投票するのは、「トランプという最悪の選択肢よりはましだから」という本音も聞こえてくる。

 トランプへの熱心な支持を公言する人を見つけるのは、クリントン以上に難しかった。特に高学歴の共和党員はトランプが候補であることを恥じている様子で、トランプを支持はしないが党の理念存続のために「仕方なく」投票すると、小さな声で答える印象だった。

 先週時点までの世論調査どおりなら、大統領選ではクリントンが手堅い勝利を収めることになる。気になるのは、表に出てこない「隠れトランプ支持者」の動向だ。クリントン勝利の予想に安心した浮動票層が投票に行かなくなれば、「クリントン阻止」の票が逆に上回る可能性もゼロではない。

 11月8日、アメリカはどのような選択をするのだろうか。

小暮聡子(ニューヨーク支局)

【参考記事】<ニューストピックス>決戦 2016米大統領選

ケイティー・ファーメフレッツォ(18)
高校生
マンハッタン近郊スタッテン島のアイスクリーム店のアルバイト店員。大統領選は18歳から投票権が認められているが、投票するかどうかは分からない。だが、もし投票するならトランプだ。理由は「ヒラリーは主張がころころ変わるし、政治的に腐敗していて嘘つきだから」。1つの家族から2人の大統領が出るのも良くないと考えている


オマール・サンチェス(30)
洗濯サービス業
メキシコからの移民だが、現在はアメリカ市民。「自分は合法的にアメリカにやって来た。不法入国する連中は嫌いだ。だからトランプの移民政策を支持している。彼が好きだし、彼に投票するつもりだ」と語る。トランプはこれまでメキシコからの移民を「レイプ犯」と呼び、国境沿いに壁を築き不法移民は強制送還させるなどと発言している


マイク・ファイン(35)
コメディアン/ライター
ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ち。民主党に党員登録しているが、今回はトランプに投票する。理由は、クリントンのような腐敗した「政治屋」は権力を乱用するから。トランプも嫌いだが、「ビジネスマンだからいろいろな人との交渉の仕方を知っている」。全米ライフル協会(NRA)の会員であり、クリントンの銃規制も懸念材料だ




ジョン・ビュッテンミューラー(84)
年金生活者
マンハッタン郊外のロングアイランドで息子夫婦と孫と暮らす。「ヒラリーは女性の代表でも何でもないし、腐敗している。トランプなら現状を変えられる。ビジネスにとっても詳しいし......。だから私はトランプに投票する」。史上初の女性大統領を目指すクリントンだが、白人女性からの支持集めには苦戦してきた


メルバ・ウィルソン(40代)
レストラン経営
ハーレムの人気レストランのオーナーで、クリントン支持者。「ヒラリーは小規模ビジネスや非白人を支援しているが、トランプは人種や宗教で人をステレオタイプ化する。ヒラリーには希望を感じるけど、トランプが世界を良くするとはまったく思えない」。トランプはかつて、オバマ大統領の米国籍を疑問視する「バーサー運動」を展開した


【参考記事】レストラン経営者「私はヒラリーの大ファンだ」

アンドルー・セラーロ(62)
弁護士
マンハッタンの個人事務所で移民関連の案件を専門とする弁護士。メキシコ国境に壁を築くというトランプの移民政策を最も懸念している。「アメリカとメキシコだけでなく、他の国々との関係も悪化させることになる。ヒラリーも好きではないが、トランプよりは責任感を持って(大統領職を)務めるだろう。だから私はヒラリーに投票する」


ピーター・ラール(77)
元大手銀行重役
ニューヨーク郊外の邸宅で妻と暮らすラールは、夫婦そろって共和党員。亡き父デービッドはマッカーサー元帥の直属の部下だった。「トランプは嫌いだが、残念なことに彼に投票せざるを得ない。最高裁判事の顔触れが民主党寄りになることだけは阻止しなければ」。教養のある共和党員の間で、最高裁を重要事項に挙げる声は少なくない


【参考記事】元大手銀行重役「それでも私はトランプに投票する」

ネロリ・ビュッテンミューラー(17)
高校生
民主党予備選から撤退したバーニー・サンダースの熱心な支持者。「バーニーなら私たち若者の未来を良くしてくれる。(17歳の)私には投票権はないし、バーニーは撤退した。でも変革の動きを止めてはいけない」。ミレニアル世代からの支持集めに苦心するクリントンとは対照的に、学費無料などを掲げて若者を熱狂させたサンダースの人気は今も根強い


ダニカ・アンダーヒル(39)
クリエイティブ・ディレクター
夫と娘、2匹の猫と暮らす彼女はクリントン支持者。女性は今も男性と対等に扱われていないと考えている。「ヒラリーは教育や賃金面で女性にも男性と同等の権利を主張し、人工妊娠中絶を支持している。彼女は人生を懸けて懸命に働いてきたし、政治の現実を分かっている。彼女のほうが、アメリカだけでなく世界にとってもいいはず」


サビール・サラン(43)
シェフ
マンハッタンでレストランを経営するインド人シェフ。93年にアメリカに来て永住権を取得したが、米市民権がないため大統領選では投票できない。それでも熱心なクリントン支持者で、特に教育政策や医療保険問題への取り組みを支持している。「扇動家、日和見主義、人種差別主義者」のトランプを大勢の人が支持している状況こそ、心配だと語る



撮影: Q.サカマキ
80年代はニューヨークの社会問題を、90年以降は世界の紛争地に生きる人々をテーマに活動。写真集『戦争──WAR DNA』『Tompkins Square Park』などがある。本誌ウェブサイトで「Imstagramフォトグラファーズ」連載中

Photographs by Q. Sakamaki for Newsweek Japan

<本誌2016年11月1日号掲載>

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Photographs by Q. Sakamaki

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