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ISIS指導部「最後の1人になっても死ぬまで抵抗せよ」

ニューズウィーク日本版 2016年11月5日 11時0分

<徹底抗戦を命じるISIS指導部の手紙を本誌が独占入手。モスルの攻防ではどこまで粘り強さを見せるのか>(写真:クルド人部隊に投降するISISの戦闘員〔北部キルクーク〕)

 テロ組織ISIS(自称イスラム国)の上層部が戦場の司令官に下す残酷な命令の数々――8月にシリア北部のマンビジでISISが包囲された際に送られた手紙を、本誌は独占入手した。専門家によればこれを元に、イラク北部のモスルで抵抗を続けるISIS司令官に下される命令も推測できるという。

 マンビジのISIS軍がクルドとアラブの合同部隊「シリア民主軍」に包囲されると、現地の最高司令官アブ・ヤーヤ・アル・シャーミ宛てに3枚にわたる書簡が送られた。送り主は、ISISが「首都」とするシリア北部のラッカにいるISIS指導部の司令官。脱走兵の処刑と、部隊内の異論の封じ込めを命じる内容だった。

 手紙の日付は8月8日で、マンビジがシリア民主軍に奪還されるわずか4日前。アラビア語で手書きされた手紙は、挑発的で残酷な指示を容赦なく伝えている。最後まで戦え、逃亡兵を殺せ、敵軍の協力者は皆殺しだ、と。「包囲された同志全員に告ぐ。最後の1人になっても抵抗せよ」

【参考記事】モスル奪還に成功してもISISとの戦いは終わらない

 この手紙からは、逃亡兵だけでなく、敵軍に投降したい兵士の存在もISIS指導部が認識していたことが分かる。米軍主導の掃討作戦を受けて、ISISの兵士たちの士気が低下していた証しだ。

 そうした兵士たちを司令官は「背教者」と呼び、処刑せよと命令。敵軍に協力する住民たちもまた背教者だから殺してしまえと命じている。

「敵か味方かの二分法は、最近のISISの動向とほぼ一致する」と、英シンクタンクの過激化研究国際センター(ICSR)の上級研究員チャーリー・ウィンターは言う。「モスル攻防戦でもこうした指示が出ているだろう」

撤退準備は始まっている

 自軍の戦闘員を容赦なく殺すISISの残忍さはモスルにも及んでいるようだ。この数カ月、スパイを公開処刑する残酷な動画が流出している。幹部を中心にした反乱が起き、58人が溺死させられたのもモスルだ。



 8月の手紙では鼓舞の仕方も独特だ。司令官は自分がイラク中部の要衝ファルージャで守勢に立たされたときの「最悪の経験」について触れている。「同志の頭から漏れ出た脳」を目の当たりにした恐怖をつづり、「水も食料も薬もないなかで75日間耐え抜いた」と書く。

 この手紙に関して重要なのは、「死ぬか、神が勝利を与えるまで戦え」という命令が結局は無視されたことだろう。8月12日にシリア民主軍がマンビジを奪還した際、残っていたISIS兵は街を捨てて逃げたのだ。

「問題はモスルでも同じことが起きるかどうかだ」と、米プリンストン大学の研究者コール・ブンゼルは言う。「拠点としてはモスルのほうが重要だから、彼らはマンビジのときよりもずっと粘り強く戦うと思う。でも結局は撤退するかもしれない」

【参考記事】ISISのプロパガンダと外国戦闘員が急減、軍事作戦効果

 撤退準備は既に始まっている。イラクとアメリカの高官らによれば、ISISはモスルの地下に逃亡用の抜け穴を掘りながら、敵軍の侵攻を遅らせるために爆弾を仕掛けているという。

 それでもモスル奪還はそう簡単ではないだろう。司令官の手紙の冒頭に引用されているコーランの一節は、モスルでイラク軍が直面するISISの激しい抵抗を予感させるものだ。

 モスルの秋は美しいことで知られるが、今年はこれまでに見たこともないような凄惨な秋になるかもしれない。

[2016.11. 1号掲載]
ジャック・ムーア、リーナ・ネトジェス

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