<来年の解散総選挙後はいよいよ改憲の季節か? 「国の形」づくりに必要なのは野党より若者の声>(写真:日本国憲法の公布から70年の間に世界も社会も激変した)
11月3日は戦前の明治節、つまり明治天皇の誕生日。今は戦前の記憶を塗り消すべく、「文化の日」となった。そしてもう意識されることも少なくなったが、70年前に日本国憲法が公布された日でもある(施行は半年後の5月3日)。
今、自民党は先月下旬に行われた2つの衆議院議員補欠選挙で勝利し、民進党は腰が定まらない。となると、1月には解散総選挙という掛け声がいよいよ現実味を帯びる。その後は改憲か? ここで、憲法改正問題を手あかの付いた議論から解放し、広い文脈で考え直してみたい。
今の日本が直面する課題は、大きく言って2つある。1つはすべての基礎となる日本経済の活力回復。次に、大きく変動してきた日本社会と世界環境に合わせて、国の形(物事の決め方、対米・対中関係の在り方など)を変えていくことだ。
「物事の決め方」とは、自分たちの代表を選んで国会に送り、彼らに法案を審議・採択してもらい、彼らが選んだ首相がそれを実行するという代議制民主主義のことだ。ソーシャルメディアで直接的なコミュニケーションに慣れた若い世代には、この仕組みが何とも古めかしい、嘘っぽいものに見えてしまう。さりとてアメリカのように大統領を直接選ぼうとすると、ムードに流されやすい。
【参考記事】皇室は安倍政権の憲法改正を止められるか
では、これからどういう仕組みで皆の参加意識を満足させ、かつムードに流されないようにするかが問われる。
仕組みを変えるには、国の枠組みである憲法も修正しないといけない。日本では、「憲法修正」と一言でも口にすると、野党が飛び付き、「憲法改正は悪。徴兵制につながる」というスローガンで政府を攻撃する。
だが世界には、ここまで憲法を神格視する国はない。イギリスのように、憲法なしでやっている先進国もある。米憲法には、その228年の歴史の間に27条の修正条項が加えられている。
武装解除ではいられない
最大の争点とされる戦争放棄条項9条は、マッカーサーの意向を強く反映し、敗戦国日本を未来永劫にわたって武装解除する効果を持つ。日本にとって自虐的で、国際的には異例なものだ。日本のエスタブリッシュメントにとっては、日本の自立性をおとしめる元凶だが、国民にとっては嫌な戦争に引きずり出されないための守り札になっている。
今の国際環境は冷戦後の第2局面にある。ソ連崩壊後、一極支配を謳歌したアメリカは、傲慢に溺れて失敗した。「中東を改造し民主化」すると称して始めたイラク戦争は民主化どころか、中東諸国で塩漬けにされてきた諸勢力間の対立を明るみに出し、ミニ大戦の様相を呈した。
戦費の垂れ流しによる財政危機にリーマン・ショックが追い打ちをかけ、米国内を含めて世界的に格差を大きく広げた。そうやって、アメリカは内外でその指導力を低下させた。
その中で、日本は武装解除状態のままでいることはもうできない。米軍は抑止力として相変わらず不可欠の存在だが、尖閣諸島くらいは日本自身の力で守れなければなるまい。そのためには、個別・集団的自衛権の存在と自衛隊は憲法でしっかりと規定されねばならない。
【参考記事】日本と中東の男女格差はどちらが深刻か
憲法ももう70歳。世代交代の時期だ。改憲の問題は、アメリカに対する敗戦の恨みを忘れないウルトラ保守、あるいはソ連や中国の共産主義への幻想を持つ革新勢力に独占されてきた。両者の対立をメディアが現実離れしたドラマに仕立てて商売の手段としてきた感がある。
憲法は日本人の安全と職と権利を守る枠組みを提供し、社会や世界の変化に追い付いたものにしなければならない。怨念、情念、イデオロギーや政治的打算から離れ、普通の人たちによる議論を改憲に反映してほしい。
保守・革新よりも、これから何十年も難しい世界の中で生きていかねばならない後進の世代の声こそ、きちっと反映されるべきだ。そうなれば、野党の改憲反対運動も気が抜けたものとなるだろう。
[2016.11. 8号掲載]
河東哲夫(本誌コラムニスト)
11月3日は戦前の明治節、つまり明治天皇の誕生日。今は戦前の記憶を塗り消すべく、「文化の日」となった。そしてもう意識されることも少なくなったが、70年前に日本国憲法が公布された日でもある(施行は半年後の5月3日)。
今、自民党は先月下旬に行われた2つの衆議院議員補欠選挙で勝利し、民進党は腰が定まらない。となると、1月には解散総選挙という掛け声がいよいよ現実味を帯びる。その後は改憲か? ここで、憲法改正問題を手あかの付いた議論から解放し、広い文脈で考え直してみたい。
今の日本が直面する課題は、大きく言って2つある。1つはすべての基礎となる日本経済の活力回復。次に、大きく変動してきた日本社会と世界環境に合わせて、国の形(物事の決め方、対米・対中関係の在り方など)を変えていくことだ。
「物事の決め方」とは、自分たちの代表を選んで国会に送り、彼らに法案を審議・採択してもらい、彼らが選んだ首相がそれを実行するという代議制民主主義のことだ。ソーシャルメディアで直接的なコミュニケーションに慣れた若い世代には、この仕組みが何とも古めかしい、嘘っぽいものに見えてしまう。さりとてアメリカのように大統領を直接選ぼうとすると、ムードに流されやすい。
【参考記事】皇室は安倍政権の憲法改正を止められるか
では、これからどういう仕組みで皆の参加意識を満足させ、かつムードに流されないようにするかが問われる。
仕組みを変えるには、国の枠組みである憲法も修正しないといけない。日本では、「憲法修正」と一言でも口にすると、野党が飛び付き、「憲法改正は悪。徴兵制につながる」というスローガンで政府を攻撃する。
だが世界には、ここまで憲法を神格視する国はない。イギリスのように、憲法なしでやっている先進国もある。米憲法には、その228年の歴史の間に27条の修正条項が加えられている。
武装解除ではいられない
最大の争点とされる戦争放棄条項9条は、マッカーサーの意向を強く反映し、敗戦国日本を未来永劫にわたって武装解除する効果を持つ。日本にとって自虐的で、国際的には異例なものだ。日本のエスタブリッシュメントにとっては、日本の自立性をおとしめる元凶だが、国民にとっては嫌な戦争に引きずり出されないための守り札になっている。
今の国際環境は冷戦後の第2局面にある。ソ連崩壊後、一極支配を謳歌したアメリカは、傲慢に溺れて失敗した。「中東を改造し民主化」すると称して始めたイラク戦争は民主化どころか、中東諸国で塩漬けにされてきた諸勢力間の対立を明るみに出し、ミニ大戦の様相を呈した。
戦費の垂れ流しによる財政危機にリーマン・ショックが追い打ちをかけ、米国内を含めて世界的に格差を大きく広げた。そうやって、アメリカは内外でその指導力を低下させた。
その中で、日本は武装解除状態のままでいることはもうできない。米軍は抑止力として相変わらず不可欠の存在だが、尖閣諸島くらいは日本自身の力で守れなければなるまい。そのためには、個別・集団的自衛権の存在と自衛隊は憲法でしっかりと規定されねばならない。
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憲法ももう70歳。世代交代の時期だ。改憲の問題は、アメリカに対する敗戦の恨みを忘れないウルトラ保守、あるいはソ連や中国の共産主義への幻想を持つ革新勢力に独占されてきた。両者の対立をメディアが現実離れしたドラマに仕立てて商売の手段としてきた感がある。
憲法は日本人の安全と職と権利を守る枠組みを提供し、社会や世界の変化に追い付いたものにしなければならない。怨念、情念、イデオロギーや政治的打算から離れ、普通の人たちによる議論を改憲に反映してほしい。
保守・革新よりも、これから何十年も難しい世界の中で生きていかねばならない後進の世代の声こそ、きちっと反映されるべきだ。そうなれば、野党の改憲反対運動も気が抜けたものとなるだろう。
[2016.11. 8号掲載]
河東哲夫(本誌コラムニスト)