<トランプが次期大統領に決まって多くのアメリカ人がパニックに陥っている。その一人である筆者が自分自身に言い聞かせている「それでもアメリカは大丈夫」の根拠>
ドナルド・トランプが次期大統領に決まっても私は取り乱したりしていない──というのは嘘。内心は完全にパニック状態だ。それでも万事大丈夫だと自分自身に言い聞かせている。その根拠は以下の通りだ。
●ドナルド・トランプはセールスマン
トランプはモノを作るのではなく、「売る」側の人間だ。今年はメキシコとの国境に壁を造ったりイスラム教徒を入国禁止にするといったアイデアだった。彼の主張にはぎょっとするが、どうせはったりだ。支持者も話半分に聞いているようだし、トランプ自身がそれを見越している。選挙後、トランプ陣営の公式ウェブサイトから「イスラム教徒の包括的入国禁止」の記述が削除されたのが良い例だ。
●トランプにはイデオロギーがない
トランプは主張をコロコロ変える。妊娠中絶であれ、イラク問題であれ、トランプが一つのことを言った矢先に正反対のことを言った例はいくらでもある。道徳的な拠り所がないのは危ういことだが、それが好材料でもある。トランプは地球温暖化対策には「政治的に」反対の立場かもしれないが、あらゆる太陽光パネルがアメリカの理想を脅かすと主張する狂信者とは違う。
【参考記事】トランプファミリーの異常な「セレブ」生活
●トランプの権力は限定的
トランプは「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」と唱えて抗議する群衆を非難することはできても、アメリカの国内法に従う数千の法執行機関に対して彼が行使できる権力は厳しく制限されている。トランプは大統領の任期中、最大で3名の米連邦最高裁判事を新たに任命する。だが今夏の時点で、バラク・オバマ大統領は終身制の連邦裁判官の3分の1に上る329名を任命したばかり。また、トランプは連邦政府機関のトップの人事に多大な影響力をもつとはいえ、司法省の市民権局をはじめとする連邦機関は大統領職よりも権威の高い「法律」に従うことに、いずれ気付かされるはずだ。
●共和党は上院の勢力が微妙
大統領選と同時に行なわれた連邦議会選挙で、共和党は上院・下院とも過半数を確保した。だが上院では共和党51議席、民主党48議席と、両党の差はごくわずかだ。オハイオ州選出の上院議員ロブ・ポートマンなど一部の共和党議員は、かねてからトランプへの不支持を表明していたことから、上院での採決で民主党にたなびく可能性もある。トランプと最後まで共和党大統領候補指名を戦ったテキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員も、ティーパーティーのような極右の保守主義の後押しを受けてトランプに対抗し得る。
【参考記事】クリントン当選を予想していた世論調査は何を間違えたのか
●報道の自由は健在
いくらトランプが法廷で争うと脅しをかけても、この国の報道機関は黙っていない。大統領候補のうちは自身が経営する会社の不明瞭な取引を隠すこともできたが、大統領になれば覆いはすっかり剥がれる。知人のジャーナリストはトランプの勝利にショックを受ける一方、今後はトランプ政権の全容を丸裸にすると決心している。
●アメリカは過去、トランプ以下の大統領の下でも生き残った
トランプの勝利が明らかになった水曜日の朝、パニック状態になった友人に読むのを勧めたのが、08年に出版されたアメリカの歴史学者リック・パールスタインによる『ニクソンランド(Nixonland)』だった。これは50~60年代にかけて優勢だった元米大統領のリチャード・ニクソンが、70年代に失脚するまでの過程を描いたノンフィクションだ。これを読めば、万一の事故に備えて旅客機に安全装置が備えられているのと同じように、アメリカの民主主義にも安全装置が備わっていることに気づくはずだ。
アレクサンダー・ナザライアン
ドナルド・トランプが次期大統領に決まっても私は取り乱したりしていない──というのは嘘。内心は完全にパニック状態だ。それでも万事大丈夫だと自分自身に言い聞かせている。その根拠は以下の通りだ。
●ドナルド・トランプはセールスマン
トランプはモノを作るのではなく、「売る」側の人間だ。今年はメキシコとの国境に壁を造ったりイスラム教徒を入国禁止にするといったアイデアだった。彼の主張にはぎょっとするが、どうせはったりだ。支持者も話半分に聞いているようだし、トランプ自身がそれを見越している。選挙後、トランプ陣営の公式ウェブサイトから「イスラム教徒の包括的入国禁止」の記述が削除されたのが良い例だ。
●トランプにはイデオロギーがない
トランプは主張をコロコロ変える。妊娠中絶であれ、イラク問題であれ、トランプが一つのことを言った矢先に正反対のことを言った例はいくらでもある。道徳的な拠り所がないのは危ういことだが、それが好材料でもある。トランプは地球温暖化対策には「政治的に」反対の立場かもしれないが、あらゆる太陽光パネルがアメリカの理想を脅かすと主張する狂信者とは違う。
【参考記事】トランプファミリーの異常な「セレブ」生活
●トランプの権力は限定的
トランプは「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」と唱えて抗議する群衆を非難することはできても、アメリカの国内法に従う数千の法執行機関に対して彼が行使できる権力は厳しく制限されている。トランプは大統領の任期中、最大で3名の米連邦最高裁判事を新たに任命する。だが今夏の時点で、バラク・オバマ大統領は終身制の連邦裁判官の3分の1に上る329名を任命したばかり。また、トランプは連邦政府機関のトップの人事に多大な影響力をもつとはいえ、司法省の市民権局をはじめとする連邦機関は大統領職よりも権威の高い「法律」に従うことに、いずれ気付かされるはずだ。
●共和党は上院の勢力が微妙
大統領選と同時に行なわれた連邦議会選挙で、共和党は上院・下院とも過半数を確保した。だが上院では共和党51議席、民主党48議席と、両党の差はごくわずかだ。オハイオ州選出の上院議員ロブ・ポートマンなど一部の共和党議員は、かねてからトランプへの不支持を表明していたことから、上院での採決で民主党にたなびく可能性もある。トランプと最後まで共和党大統領候補指名を戦ったテキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員も、ティーパーティーのような極右の保守主義の後押しを受けてトランプに対抗し得る。
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●報道の自由は健在
いくらトランプが法廷で争うと脅しをかけても、この国の報道機関は黙っていない。大統領候補のうちは自身が経営する会社の不明瞭な取引を隠すこともできたが、大統領になれば覆いはすっかり剥がれる。知人のジャーナリストはトランプの勝利にショックを受ける一方、今後はトランプ政権の全容を丸裸にすると決心している。
●アメリカは過去、トランプ以下の大統領の下でも生き残った
トランプの勝利が明らかになった水曜日の朝、パニック状態になった友人に読むのを勧めたのが、08年に出版されたアメリカの歴史学者リック・パールスタインによる『ニクソンランド(Nixonland)』だった。これは50~60年代にかけて優勢だった元米大統領のリチャード・ニクソンが、70年代に失脚するまでの過程を描いたノンフィクションだ。これを読めば、万一の事故に備えて旅客機に安全装置が備えられているのと同じように、アメリカの民主主義にも安全装置が備わっていることに気づくはずだ。
アレクサンダー・ナザライアン