<最も体にいいのは「昭和の食生活」。しかも、安くて美味く、調理も簡単だ。和食を知り尽くした食文化史研究家の永山久夫氏(85歳)が、自らの若く貧しい時代を支えた「食の知恵」を初公開>
東北大学大学院農学研究科の都筑穀准教授によると、昭和50(1975)年ごろ、日本の一般家庭で採られていた食事が最も健康的だという。1960年、1975年、1990年、2005年の食事メニューを再現し、比較実験した研究から得られた結論だ。
あらゆる種類のダイエット法が登場しては消えていく中で、この研究は話題となった。「やはり和食が一番」という通説を裏付けるものでもあった。
【参考記事】NY著名フレンチシェフが休業、日本に和食を学びに来る!
【参考記事】和食ブームだけじゃない、日本の料理教室がアジアで快進撃の理由
そんな「昭和の食生活」を自ら実践し、"生き抜いてきた"1人に、食文化史研究家の永山久夫氏がいる。昭和7(1932)年、福島県生まれ。漫画家を目指して上京し、結婚、一児を授かるが、妻が病死。以来、貧乏暮らしをしながら仕事と子育てを続けた。まさに昭和50年のその年、『納豆沿革史』を上梓した永山氏は、以後、食文化史研究家として活躍するようになる。
和食を知り尽くした永山氏が、自らの貧しかった時代を支えた「食の知恵」を初公開したのが新刊『ひと月1万円!体にやさしい 昭和のシンプル食生活』だ。当時の食生活を振り返るエッセイを織り交ぜながら、基本食材と121のレシピを紹介している。
「長い人生にはいろいろありますが、私の場合、芽の出ない人生が長過ぎました。そんな暮らしの中で身についたのが、安く手に入る、体にいい物を食べるということでした。......85歳まで元気にこられたのは、ビンボーから培った生活の知恵、永山式・昭和の食生活のお陰だと思っています」と、永山氏は「はじめに」に書く。
ここでは本書から一部を抜粋し、5回に分けて掲載する。第1回は「3章 安い、かんたん、体にいい! 永山流食生活のルール」より。
『ひと月1万円!体にやさしい
昭和のシンプル食生活』
永山久夫 著
CCCメディアハウス
◇ ◇ ◇
⑨ ご飯を最後に食べる「会席料理式ダイエット」のすすめ
ここ数年、私は食事を「会席料理式」で食べています。
会席料理......そうです。まずおかずを食べ、最後にご飯をいただく、あの独特の食事作法ですね。
ご存じのように、会席料理では先に料理を食べ、最後にご飯を頂戴します。料理は前菜、そして吸い物や煮物などの椀物。次に刺身や膾(なます)などの向付。鉢肴の焼き物と焼き魚。炊き合わせ。酢の物か和え物と続き、それを全部食べ終わったらご飯となって、そのご飯もお椀にほんの軽く一膳。上品そのものです。しかし、この上品な食べ順が体にやさしい。
タンパク質や食物繊維などのおかずを何品も先に食べるので、おかずコースが終わる頃には満腹。最後のご飯は自然に少量になります。当然、炭水化物は少なくてすみ、結果としてダイエットにつながる。
最近、炭水化物を食べない「糖質制限ダイエット」という方法が流行しています。しかし、3食完全に炭水化物をぬいたら、脳の機能が低下したり、血管がボロボロになったりしてしまうでしょう。そこで専門医が推奨しているのが、ゆるやかな糖質制限です。
この方法は炭水化物系を少し減らすやりかたで、うまくいくと認知症や寝たきりの予防にも役立ちます。
比較的やりやすいのが、3食食べていた炭水化物を2食にする方法です。ご飯やめん類、パンなどを1食分減らします。この方法なら、ご飯の代わりに肉や魚などを多めに食べればいいので、挑戦しやすい。
ということで、私としてはかんたんで長続きする「会席料理式ダイエット」「炭水化物2食ダイエット」をおすすめします。
そして、口に入れたものはよく嚙む。嚙むことによって脳の食欲中枢が満たされ、早く満腹を感じるので、食事の量も減り、ダイエットにもなるからです。よく嚙むことで顔中の筋肉が動き、表情もイキイキとしてきて若返ります。
また、嚙むことで唾液が大量に出ますが、この唾液の働きがすばらしい。唾液の中には老化防止のパロチンというホルモンと消化酵素があるので、ダイエットに加え、アンチエイジングにも役立つからです。
「世界一健康にいい食文化」と賞賛される和食の最大の特徴は、素材が持っている本来の味を損なうことなく、生かして食べるところにあります。このような食べ方をすれば、食材に含まれている栄養成分もそっくりいただくことになり、健康効果も高い。調味料は最小限しか使いません。和食の素材主義の食べ方は、減塩にもつながり、高血圧の予防効果も高くなるのです。
たとえば、繊細な日本食文化の華、刺身。旬の肴を食べやすく切って盛りつけるだけの料理・刺身は、和食の象徴です。切るだけなので、5分もかかりません。刺身は醬油とわさびの薬味だけで食べる食文化で、これが一番おいしく、体にもいい。和食グルメの真髄といってもいいでしょう。
調味料を減らして、素材本来の味を楽しむ。みそ汁でも、煮物、炒め物でも、味つけは最小限にして、それでうまみを感じられる豊かな感性を育てる。後半のレシピ篇で、この趣旨に添ったかぼちゃの水煮を紹介していますから(221頁参照)、ぜひ試してください。かぼちゃ本来の素朴な甘さに感動し、調味料の使い過ぎに気づくはずです。
※シリーズ第2回:高野豆腐......凍り豆腐(高野豆腐)は植物性タンパク質の王様
『ひと月1万円!体にやさしい
昭和のシンプル食生活』
永山久夫 著
CCCメディアハウス
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
東北大学大学院農学研究科の都筑穀准教授によると、昭和50(1975)年ごろ、日本の一般家庭で採られていた食事が最も健康的だという。1960年、1975年、1990年、2005年の食事メニューを再現し、比較実験した研究から得られた結論だ。
あらゆる種類のダイエット法が登場しては消えていく中で、この研究は話題となった。「やはり和食が一番」という通説を裏付けるものでもあった。
【参考記事】NY著名フレンチシェフが休業、日本に和食を学びに来る!
【参考記事】和食ブームだけじゃない、日本の料理教室がアジアで快進撃の理由
そんな「昭和の食生活」を自ら実践し、"生き抜いてきた"1人に、食文化史研究家の永山久夫氏がいる。昭和7(1932)年、福島県生まれ。漫画家を目指して上京し、結婚、一児を授かるが、妻が病死。以来、貧乏暮らしをしながら仕事と子育てを続けた。まさに昭和50年のその年、『納豆沿革史』を上梓した永山氏は、以後、食文化史研究家として活躍するようになる。
和食を知り尽くした永山氏が、自らの貧しかった時代を支えた「食の知恵」を初公開したのが新刊『ひと月1万円!体にやさしい 昭和のシンプル食生活』だ。当時の食生活を振り返るエッセイを織り交ぜながら、基本食材と121のレシピを紹介している。
「長い人生にはいろいろありますが、私の場合、芽の出ない人生が長過ぎました。そんな暮らしの中で身についたのが、安く手に入る、体にいい物を食べるということでした。......85歳まで元気にこられたのは、ビンボーから培った生活の知恵、永山式・昭和の食生活のお陰だと思っています」と、永山氏は「はじめに」に書く。
ここでは本書から一部を抜粋し、5回に分けて掲載する。第1回は「3章 安い、かんたん、体にいい! 永山流食生活のルール」より。
『ひと月1万円!体にやさしい
昭和のシンプル食生活』
永山久夫 著
CCCメディアハウス
◇ ◇ ◇
⑨ ご飯を最後に食べる「会席料理式ダイエット」のすすめ
ここ数年、私は食事を「会席料理式」で食べています。
会席料理......そうです。まずおかずを食べ、最後にご飯をいただく、あの独特の食事作法ですね。
ご存じのように、会席料理では先に料理を食べ、最後にご飯を頂戴します。料理は前菜、そして吸い物や煮物などの椀物。次に刺身や膾(なます)などの向付。鉢肴の焼き物と焼き魚。炊き合わせ。酢の物か和え物と続き、それを全部食べ終わったらご飯となって、そのご飯もお椀にほんの軽く一膳。上品そのものです。しかし、この上品な食べ順が体にやさしい。
タンパク質や食物繊維などのおかずを何品も先に食べるので、おかずコースが終わる頃には満腹。最後のご飯は自然に少量になります。当然、炭水化物は少なくてすみ、結果としてダイエットにつながる。
最近、炭水化物を食べない「糖質制限ダイエット」という方法が流行しています。しかし、3食完全に炭水化物をぬいたら、脳の機能が低下したり、血管がボロボロになったりしてしまうでしょう。そこで専門医が推奨しているのが、ゆるやかな糖質制限です。
この方法は炭水化物系を少し減らすやりかたで、うまくいくと認知症や寝たきりの予防にも役立ちます。
比較的やりやすいのが、3食食べていた炭水化物を2食にする方法です。ご飯やめん類、パンなどを1食分減らします。この方法なら、ご飯の代わりに肉や魚などを多めに食べればいいので、挑戦しやすい。
ということで、私としてはかんたんで長続きする「会席料理式ダイエット」「炭水化物2食ダイエット」をおすすめします。
そして、口に入れたものはよく嚙む。嚙むことによって脳の食欲中枢が満たされ、早く満腹を感じるので、食事の量も減り、ダイエットにもなるからです。よく嚙むことで顔中の筋肉が動き、表情もイキイキとしてきて若返ります。
また、嚙むことで唾液が大量に出ますが、この唾液の働きがすばらしい。唾液の中には老化防止のパロチンというホルモンと消化酵素があるので、ダイエットに加え、アンチエイジングにも役立つからです。
「世界一健康にいい食文化」と賞賛される和食の最大の特徴は、素材が持っている本来の味を損なうことなく、生かして食べるところにあります。このような食べ方をすれば、食材に含まれている栄養成分もそっくりいただくことになり、健康効果も高い。調味料は最小限しか使いません。和食の素材主義の食べ方は、減塩にもつながり、高血圧の予防効果も高くなるのです。
たとえば、繊細な日本食文化の華、刺身。旬の肴を食べやすく切って盛りつけるだけの料理・刺身は、和食の象徴です。切るだけなので、5分もかかりません。刺身は醬油とわさびの薬味だけで食べる食文化で、これが一番おいしく、体にもいい。和食グルメの真髄といってもいいでしょう。
調味料を減らして、素材本来の味を楽しむ。みそ汁でも、煮物、炒め物でも、味つけは最小限にして、それでうまみを感じられる豊かな感性を育てる。後半のレシピ篇で、この趣旨に添ったかぼちゃの水煮を紹介していますから(221頁参照)、ぜひ試してください。かぼちゃ本来の素朴な甘さに感動し、調味料の使い過ぎに気づくはずです。
※シリーズ第2回:高野豆腐......凍り豆腐(高野豆腐)は植物性タンパク質の王様
『ひと月1万円!体にやさしい
昭和のシンプル食生活』
永山久夫 著
CCCメディアハウス
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部