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5割の社員がオフィスにこない、働き方満足度No.1企業

ニューズウィーク日本版 2016年11月18日 17時12分

通信大手の社屋で展開されるフレキシブルな働き方[Telus]


[課題]  ビジネスのスピードを加速させたい
[施策]  自律的かつ創造的な働き方の実践、ハブの構築
[成果]  ミレニアル世代以降の優秀な人材が集まる基礎が出来上がる


 カナダの通信大手TELUS(テラス)の新社屋「テラスガーデン」は、オフィス棟とレジデンス棟の2つで構成される都市型複合ビル。同社の本社ほかamazonカナダ等有名企業が入居しており、バンクーバー市街でも一際目をひく存在感だ。

 1階部分には飲食店とテラスのアンテナショップが。屋上はすべて緑化されている。同社Chief Communications & Sustainability Officerのアンドレア・ゲーツ氏によれば「メンバーのためだけではなく、街のデザインやサステナビリティのアイコンにもなるビルを作りたかったのです。街の景観をよくし、バンクーバーにやってくる人々が訪れたいと思う場所に、と」。

 テラスは、この区画全体の土地を所有しており、6年前からゼロベースで街づくりを計画した。同社では、オフィスは自分たちが何者であるか、どうなりたいかを反映するものだ、と考えている。オフィスが街やコミュニティと刺激し合いながら共存する様は、まさに新しい働き方を体現する。

出社した人が刺激を受けられるよう、オフィスに様々な工夫を施す

「テラスには『ワークスタイル(Work Style)』というモバイルワークの指針があり、オフィスにどのくらいいたかではなく、何を会社にもたらしたか、で評価されます。ミレニアル世代など若い社員たちの多くが、このフレキシブルな働き方を支持していることがわかりました」(ゲーツ氏)。

 テクノロジーチームなど専門の部署を除き、多くの社員は、オフィスに縛られることなく、家、ホテル、コーヒーショップなどで移動的に仕事できることを望んでいた。そうなると、オフィスに求められる機能は、個人の執務スペースではなく、コラボレーションのできる場所となる。

 実際、新しいオフィスでは、エグゼクティブ層をのぞいてほぼすべてのデスクが固定されておらず、また常に全ワーカーの5割が自宅勤務を選択する。デスクの数そのものが限られているため、出社時は予約が必要になるが、そうした運用面の細かな部分も、最初に全社会議でディスカッションした。

【参考記事】光と優秀な人材を取り込む「松かさ」型ラボ

(左)テラスの本社が入居する「テラスガーデン」。手前にせり出しているキャンチレバー部分でテラス社員が働く。後方右側は建設中のレジデンス。(右)キャンチレバーの先端部分にある「フローティング・ミーティングルーム」。会議室が宙に浮かんでいるような構造になっており、来訪者を驚かせる。

個人のワーキングスペース。デスク数を社員数より少なくしているため、出社するときは予約を行う。

主に大規模なテレフォン・カンファレンスを目的にした会議室。カナダ各地のオフィスとはここでつながる。

各フロアにはカフェテリア、キッチンが備えられており、ランチ時に簡単な料理をするメンバーも多いという。

低いほうのビルにもルーフトップガーデン。もちろんミーティングエリアとしても活用できる。チームメンバーが野菜を栽培して販売、売り上げをチャリティーに寄付しているという。



(左)ビル1Fのカフェ。屋根にはクジラの背骨を思わせるオブジェが。(右)社員の健康を意識し、デスクワークをしながら運動ができるウォーキングデスクも設置される。

エントランス。木材がふんだんに用いられ、温かい雰囲気。

レセプションフロアにあるイノベーションセンター。テラス社の新テクノロジーが展示され、ゲストとのコラボレーションも期待されている。

イノベーションセンター内にある「未来の介護」をディスカッションするスペース。各種社会課題の解決について外部の人間と意見交換する。スタートアップや学生がやってきてテラスと一緒にプロジェクトに取り組むことも。

【参考記事】生活ありきの仕事環境がクリエイティブ・カルチャーを生む

「『ワークスタイル』は誰にでも、どのチームにも合うわけではない。さまざまな利害がからむ中で、移行の仕方についてバランスをとることが重要でした」(ゲーツ氏)。新オフィスには出社した人が刺激を受けられる工夫が詰まっている。

テクノロジーを駆使しながら、時代にあった働き方を促進していく

「イノベーションセンター」はテラス外部からの来訪者にも開かれたスペース。テラスの新しい製品やテクノロジーを公開するほか「社会をよりよくするには」等広く意見交換を行う。

 この日はアルツハイマー病の患者が抱える問題をテクノロジーで解決する方法が議論されていた。流木を素材にしたクジラの骨格標本など、イマジネーションを刺激するアート作品も多く展示。ルーフトップガーデンではワーカーが野菜を栽培し、それを販売したお金をチャリティーに寄付しているという。各フロアには共同キッチンを設置。ワーカーが食材を持ち寄り、調理するところから食事を共にする。

 エーオン・ヒューイット社による働き方満足度調査において、テラスは「世界で一番満足度の高い会社である」と評価された。項目はワーク・ライフ・バランス、リーダーシップ、レコグニッション(自分が認められているという認識)など。結果はチームごとにフィードバックされる。

「今後はより今の働き方が促進されていくでしょう。災害が起きたときにもフレキシブルに働く環境があることは重要です。一方で、人間のつながり、顔を見ることの大切さは変わらない。100%がモバイルワークになるとは思いませんが、テクノロジーを駆使してその方向に進むはず。経費削減や生産性、忠誠心、環境的観点など利点が多い。なにより若い世代がこうした働き方に慣れていますから」(ゲーツ氏)。

創業:1999年
売上高:約125億カナダドル(2015年)
純利益:約18億5000万カナダドル(2015年)
従業員数:約4万7700人(2015年)
http://www.telus.com

コンサルティング(ワークスタイル):自社
インテリア設計:OMB
建築設計:Henriquez Partners Architects

WORKSIGHT 09(2016.4)より

text: Yusuke Higashi
photo: Kazuhiro Shiraishi

ビルの最上階にあるエグゼクティブフロアのさらに上階にあるイベントスペースにつながる螺旋階段。地元の木材をふんだんに活用している。螺旋階段の天井から下がるのは地元アーティストのコミッションアート。

イベントスペース。エグゼクティブフロア上階にあり、テラスが主催するイベントを行う。社会貢献に関するファンドレイジング(チャリティーへの寄付集め)イベントが多いという。

エグゼクティブフロア上階には3つのルーフトップガーデンがある。主に来客をもてなしたり、地域コミュニティのイベントに使われる。

テラス社のサービスや製品が並ぶアンテナショップ。

Chief Communications & Sustainability Officer アンドレア・ゲーツ

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です






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