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フランスに極右政権誕生!を防ぐのはこの男?

ニューズウィーク日本版 2016年11月22日 17時40分

<米大統領選も終わり、ヨーロッパが次に最も注目するのが来年春のフランス選挙。週末に行われた共和党など中道右派の予備選で首位に急浮上したフィヨン元首相にはとりわけ熱い視線が注がれる。大統領の座を目指す極右の極右・国民戦線党首ルペンと、対決することになる可能性が高いからだ>

 長身・黒髪のフランス人男性がヨーロッパ全土を震撼させた。

 11月20日、フランスの元首相で経済的自由主義者のフランソワ・フィヨンが、共和党などの中道右派陣営が大統領予備選挙の第1回投票でアラン・ジュペ元首相とニコラ・サルコジ前大統領を追い上げ、首位を獲得したのだ。これによりフィヨンは、第2回投票で本命と目されてきたボルドー市長のジュペと対峙することになる。

 フィヨンは一体なぜ、噂の的になっているのか? その主な理由は、フランス極右・国民戦線党首のマリーヌ・ルペンと、ロシア大統領のウラジーミル・プーチンとフィヨンの関係だろう。いずれもヨーロッパにおいて重大な政治的関心を集める人物だ。

 まずフィヨンは、2017年春の大統領選をルペンと争うことになる可能性が高い。移民排斥やイスラム過激派の脅威などを訴えるルペンが本当にフランスの大統領になるのか否かを、フランスの政治エリートとヨーロッパ全土の穏健派は真剣な眼差しで見つめている。カリスマ性を備え、規律を重んじるルペンは、何年もの時間を費やして極右・国民戦線のイメージを改善し、地方選挙で勝利をおさめ、大統領の座を狙う準備を進めてきた。

【参考記事】テロ後のフランスで最も危険な極右党首ルペン

 フィヨンは、フランスの政界においてはまれな経済的自由主義者だ。イギリス人ならサッチャー支持者と呼ぶであろうフィヨンは、労働組合との対決を望み(フランスでは労働組合がいまだに大きな力を持っている)、厳しく統制されてたフランス労働市場の規制を大幅に減らしたいと考えている。彼の掲げる政策には、週35時間という労働時間制限を廃止することや、公共部門の人員を削減して民間部門の減税に資金を回すことなどがある。

【参考記事】オランダ極右自由党ウィルダー党首、EU離脱の国民投票を呼び掛け

 こうした政策があったからこそ、フィヨンは、予備選挙で保守派の有権者たちから好意的に受け入れられたのかもしれない。だが、ルペンが取り込もうとしている白人労働者階級の有権者にはウケないだろう。フィヨンが最終投票で50パーセント以上を獲得して大統領になるために必要な左派の支持を得るのも難しい。何しろフランスは、社会党のフランソワ・オランド大統領の比較的穏健な労働市場改革でさえ、労働組合と学生の抗議と怒りに火をつける国だ。

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 もっとも今のところ、世論調査はフィヨンがルペンに勝つと示している。



 一方のプーチンは、フランスの有権者たちにとっては遠方の危険だが、ヨーロッパ政界のエリートたちにとっては差し迫った危険だ。イギリスのブレグジット(EU離脱)、ならびにアメリカにおけるドナルド・トランプ台頭という追い風に乗って、プーチンは西ヨーロッパの政治家たちを震え上がらせてきた。シリア内戦に介入したプーチンの自信と東欧への勢力拡大の試みが、ヨーロッパの反ロシアムードを煽っている。

「強いリーダーシップ」が魅力の一つであるルペンは、プーチンに平然と共感を寄せる。それはヨーロッパの右派ポピュリストにはよくあることだが、驚くのは、フィヨンがプーチン寄りであることだ。

 L'Express(レエクスプレス)誌によるとプーチンは、ニコラ・サルコジが2012年の大統領選でオランドに敗れると、その翌日に、サルコジ大統領のもとで当時首相を務めていたフィヨンに電話を入れたという。最近では、ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)と戦うべく、フィヨンがプーチンに連携を呼びかけている。つまり、フィヨンとルペンの決選投票が実現すれば、いずれが勝利をおさめようとも、親クレムリンの大統領が誕生することになる。

 もしフィヨンがルペンを勝ために必要な資質を持っているなら、彼はフランスの進歩主義者と外国の指導者たちから感謝されるだろう。それまでは、フィヨンは不確実な時代における未知数の存在だ。ヨーロッパはしばらくの間、フランスの動向を息を殺して見守ることになるだろう。


ジョシュ・ロウ

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