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ビル・ゲイツの鼻をクンクンさせた驚異の「消臭力」とは?

ニューズウィーク日本版 2016年11月24日 15時38分

<マイクロソフトでのビジネスから、慈善活動家へと転身したビル・ゲイツ。彼が今、興味をもっていることの一つは、うんこの匂いだという。一体なぜ!?>

 ビル・ゲイツが自身のブログにアップした写真が話題を呼んでいる。

 ちょっと太めのガラス管に自分の鼻を押し当てているゲイツ。写真が掲載されたブログ記事のタイトルは「うんこのような匂いの香水」。いよいよゲイツも大富豪ならではの珍妙な趣味に走ったか──というとそうではない。実はこれ、発展途上国における伝染病に対する彼のひとつの答えなのだ。

 ゲイツは8年前からマイクロソフトのビジネスから手を引き、妻のメリンダとともに設立したゲイツ財団で慈善活動を行っているが、今回彼がスイスを訪問したのも、ゲイツ財団が行っている慈善事業のためだ。

 ゲイツが嗅いでいるのは実はトイレの匂い。だが、彼は「元はトイレの悪臭だったが、私が鼻を当てているガラス管からは花の香りがした」と明かした。これは今月19日の「世界トイレの日」にスイスで行われたプレゼンテーションの一コマだ。この11月19日「世界トイレの日」(World Toilet Day)は、世界中でいまだに3人に1人がトイレを使えない現実を考えようと、国連が2013年に定めたものだ。2011年11月19日にシンガポールで世界トイレ機関(WTO: WORLD TOILET ORGANIZATION)が設置され、「世界トイレサミット」が開催されたことに由来している。

 トイレがない人たちは、住まいの中でバケツやビニール袋に用を足したり、屋外ですませている。だが、排泄された便には、病気の原因となる細菌が沢山含まれており、トイレ以外での用便は、それらの細菌が手などに付着して体内に侵入するきっかけを作っている。免疫力の弱い子どもは、それが原因で下痢を発症して1日に800人以上が命を落としているという。また女の子などは用を足している姿を見られる不安から、生理中に学校を休んだり、さらにはそのことから授業についていけなくなり退学するという深刻な問題も起きている。





成功の香り 感染症を引き起こすトイレの臭いの問題へのゲイツからの解答  thegatesnotes / Youtube


トイレを作っても使われないという現実

 だがトイレがあれば全てが解決されるわけではないようだ。ゲイツによれば、インドなど世界中でトイレの建設計画が進行中だが、途上国に設置されたトイレ、特にくみ取り式のトイレは、すぐに使われなくなってしまうという。トイレ内はすぐに強烈な匂いが立ちこめるようになり、それまでオープンエアーで用を足していた人びとにとっては、トイレ=不快、野外での排泄=快適となって、利用されなくなってしまうからだ。

 そこでゲイツが目をつけた、いや鼻を効かせたのが、スイスに本社をもつ香料メーカーのフィルメニッヒだった。創業120年のこの会社は、世界で最も有名な香水の一部を作ったり、飲料や食品の風味を高めるための香料を作っている。ビル・ゲイツ財団の支援の下、フィルメニッヒはトイレの匂いをひどくさせている犯人──インドール、p-クレゾール、ジメチルトリスルフィド、酪酸をつきとめた。それをもとに彼らは便や古くなった尿のような匂いを化学的に合成することに成功した。つまり「うんこ香水」である。

 この人工「うんこ香水」をもとにフィルメニッヒの研究者達は、ちょうどヘッドフォンのノイズキャンセリングの仕組みと同じように、悪臭に敏感な嗅覚受容体をブロックするような成分を香りに混ぜ、人間がかいでも臭いと思わなくすることに成功したのだ。フィルメニッヒは、この技術を製品にする際に、粉末にするべきかスプレーにするべきかなどを、インドやアフリカ地域で試験していく予定だという。

 ゲイツはブログの最後を次の言葉で締めくくっている。
「スイスの出来事は私の鼻にとって忙しい1日だったが、一つの香りがいまだに続いている。それは、世界をより良い場所にするために、人びとが才能を寄せあって成し遂げた"成功の香り"だ」

ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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