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給料が安いと感じているあなたは、おそらく影響力が足りない

ニューズウィーク日本版 2016年11月29日 10時42分

<人を動かす力である「影響力」は、何も有名人や政治家だけが持つのではない。個々のビジネスパーソンにとっても大切な影響力の"神話"そして"戦略"とは?>

 アップルCEOのティム・クックに前衛芸術家の草間彌生、俳優のシャーリーズ・セロン、次期米大統領のドナルド・トランプ、そしてフランシスコ・ローマ法王......。米タイム誌の今年の「世界で最も影響力がある100人」に選ばれた面々だ。

 彼らに大きな影響力があることに異論はないだろう。ただ、そもそも影響力とは何かと問われれば、答えに窮する人も多いかもしれない。「他に働きかけ、考えや動きを変えさせるような力」(デジタル大辞泉より)――確かにそうなのだが、実感しづらく、縁遠いものに感じる人もいるかもしれない。

 しかし、影響力は何も、有名人や芸術家だけに備わっているものではないし、政治家や経営者だけが行使できるものでもない。実際、ビジネスコンサルタントのスティーブン・ピアスによれば、仕事でふさわしい給与をもらえるかどうか、会議での発言がまともに取り上げられるかどうかも、すべて影響力次第なのだ。

「影響力は魔法の力。物事を成し遂げ、目指す場所へ連れて行ってくれる」と、ピアスは言う。彼は世界各地の有力者に取材し、新刊『ここぞというとき人を動かす自分を手に入れる 影響力の秘密50』(服部真琴訳、CCCメディアハウス)で、影響力を獲得するノウハウを惜しげもなく披露している。

 ここでは本書から一部を抜粋し、4回に分けて掲載する。第1回は「はじめに」を全文抜粋。影響力には4つの"神話"すなわち誤解があり、影響力のある人になるための戦略は5つに分類できるという。


『ここぞというとき人を動かす自分を手に入れる
 影響力の秘密50』
 スティーブン・ピアス 著
 服部真琴 訳
 CCCメディアハウス


◇ ◇ ◇

はじめに

●あなたの給与はあなたにふさわしい額か?
●あなたの会議での発言はまともに取り上げられているか?
●あなたのフォロワーはあなたが求める人か?
●あなたは「内部事情」に詳しく、「内輪グループ」に属する「中心人物」か?

 答えがひとつでもノーなら、あなたにはおそらく影響力が足りない。影響力は魔法の力。物事を成し遂げ、目指す場所へ連れて行ってくれる。影響力のない人生はシシュフォスが受けた罰と同じ――どれほど努力して山頂へ岩を押し上げても、山頂に達したとたん、岩は再び転げ落ちる。人生を支配し、求める結果を手にするには? この本はそのための戦略を、影響力獲得の秘訣を提供する。いいものも、悪いものも、時に「汚い」ものも。

 本書に詰まっているのは、ビジネスコンサルタントとしての10年以上の経験の成果だ。私は世界中の有力者と間近に接する機会に恵まれている。私が教える戦略のほとんどは自分の目で観察したものだが、なかには親切なクライアントから伝授されたものもある。取材に当たって、彼らの多くは匿名を条件にしたが――有力な立場の人間が、自分の「手口」を明かすことの意味を自覚している証拠だ――影響力を勝ち取り、磨き、効果的に使用する方法についてのその発言は、ほぼ言葉どおりに引用している。

【参考記事】日本人の「自信がない」は嘘、原因は「感染」にあり!?

 本書は影響力をめぐる4つの神話を追放する。

 第一の神話は「影響力とは、スピーチやフルート演奏と同じ」。つまりテクニックを習得すれば、どんな状況でも応用できる。影響力は誰かに働きかけるプロセスだ、上司と30分話す時間をくれたら、催眠術のように「影響を与えて」考えを変えてみせる――ばかなことを。30分間の会話で上司を動かせるとしたら、それはおそらく「信頼できる部下」という評価をすでに確立していたから。その場の思いつきで口にした言葉のおかげではない。影響力獲得は、時間をかけて徐々に信頼を積み上げていくプロセスだ。それは戦略であって、スキルではない。



 第二の神話は「影響力を望む者は現代のマキャヴェリになれ」。すなわち、目的達成のためならなんでもする、邪悪で狡猾な人間になれということだ。ぞっとする事件を描いて、時にベストセラーになるノンフィクション作品も、この「いかにも」な人物像を強調する。だが、真実はもっと平凡だ。確かに、影響力を固めるには冷酷になるべきときもある。敵を飼い馴らすことも必要になる。それでも影響力を手にするには、よい資質を発揮したほうがずっと効果的だ――たとえば豊かな想像力、厳しい職業倫理、協調性を。策略という「黒魔術」に頼っても、結果に失望するのがおちだろう。

【参考記事】部下の話を聞かない人は本当のリーダーではない

 第三の神話は「影響力はハードワークと誠実な努力のたまもの」。この神話はたぶん、普及度がより高い。時間を費やし、正しいことをし、ささやかな実績を積み上げれば、必然的に影響力を手にするという考え方だ。これは希望的観測にすぎない。本書のために話を聞いた人々のほとんどは、次の2つのカテゴリーに当てはまる。何かに秀でた人物――専門家や専門職の従事者――か、人や状況をうまく動かして目的を達成できる人物だ。ものを言うのは計画や才能。時間を費やせばオーケーではない。

 第四の神話は「影響力を得るには、知名度を上げなくてはならない」。だが現代のセレブカルチャーが何を言おうと、有名にならなくても影響力は手に入る。私が取材した人々は誰も世間の注目の的ではない。それでも彼らは自分が属する組織のなかで、欲しいものを手にしている。

 影響力ある人になるために必要なことを語る前に、影響力獲得の現状について考えてみよう。しばらく前まで、影響力は他者の協力なしには得られなかった。小説家には出版社、ジャーナリストにはエディター、政治家には所属する政党、ビジネスパーソンには経営陣や株主の承認が欠かせなかった。アイデアや才能だけでは不十分。広い層に働きかけるには、誰かに助けてもらうことが必要だった。言い換えれば、重要なのは創造的スキルだけでなくソーシャルスキル――人を味方につけ、チームの一員になり、組織を動かし、ルールを守ることが、アイデアやイノベーションの質と同じくらい大切だった。

 インターネットがすべてを変えた。今や影響力は他者のサポートなしで手に入る。現代のオピニオンリーダーは大統領やCEOに限らない。片田舎に住むブロガーも流行を作る。「勝者とは、普及したアイデアのこと」。マーケティングの大家で、新時代の影響力のあり方を体現するセス・ゴーディンはそう言っている。オンラインの世界で影響力を持ちたいなら、斬新でクリエイティブなアイデアを生み出せるかどうかがすべてだ。

 一方、組織のなかで仕事をする場合、アイデアだけでは勝負できない。重要なのは、いかにうまく組織を動かすか。この本はそのヒントも教える。



 さあ、どうやって影響力のある人になる? カギは5つの要素のコンビネーション――「何を知っているか」「誰を知っているか」「何をするか」「あなたは何者か」「どう動くか」だ。本書は50の戦略を、この5つのカテゴリーに分類している。あなたはどの分野で、影響力を手にできるだろう?

1 何を考えるか――アイデアによる影響力

 アイデアがものをいう時代、アイデアがある人は強い。この分野に当てはまるのはイノベーターやクリエイター、常識を破る人間だ。あなたは人と違う考え方をする。斬新なアイデアをパワフルに表現する。組織なしでも影響力を手にできる人、つまり「ソロプレナー」には大きなチャンスがある。想像力あふれる抜群のアイデアだけを武器に、多くの人に働きかけられる。例:マルコム・グラッドウェル(ジャーナリスト)

2 誰を知っているか――関係による影響力

 あなたの出世の手段は(いい意味で)他者だ。あなたは味方を作ること、人をまとめること、彼らから最大限の能力を引き出すことがとてもうまい。あなたが率いるチームは、パーツの寄せ集めを超えた力を発揮する。例:アレックス・ファーガソン(サッカー指導者)

3 何をするか――生産性による影響力

 あなたが磨き上げた生産効率はライバルの羨望の的。誰よりも優れた生産性の持ち主だ。積み上げてきた実績こそが、あなたに影響力をもたらす。例:ロジャー・フェデラー(プロテニス選手)

4 あなたは何者か――存在感による影響力

 あなたは出会う人すべてに強い印象を与える。長所を自覚し、能力に自信を持っている。際立った個性を持ち、ほかの人々は自然と従いたくなる。あなたは「この分野の人」と決めつけられることを好まない。幅広い領域で活躍できる才能を持っているからだ。例:スティーブ・ジョブズ(アップル共同創業者)

5 どこまで巧みに動けるか――「政治」による影響力

 あなたは優れた政治的能力で微妙なパワーバランスを読み解き、支持者を獲得し、敵を抑え込む。権力を巧みに操り、権力のためなら冷酷になることもできる。例:リンドン・B・ジョンソン(第36代アメリカ大統領)

 本物の影響力の持ち主はこの5つのうち、1つ以上の要素を持っているはず。とはいえすべてを兼ね備えなければと思う必要はない。本書が教える秘訣のなかには、ほかの項目と矛盾するものもある。だが、目的達成の方法はひとつではない。すべての戦略は試してみるためにある。あなたにとって使えるヒント、期待を超える成果を手にするテクニックを見つけてほしい。

※シリーズ第2回:影響力を身につけるには有名人に「便乗」すればいい


『ここぞというとき人を動かす自分を手に入れる
 影響力の秘密50』
 スティーブン・ピアス 著
 服部真琴 訳
 CCCメディアハウス



ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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