<『ハリー・ポッター』シリーズのきっかけを作り、新シリーズ『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』のプロデューサーも務めるデービッド・ヘイマンが語る、映画とレッドメインの魅力>(映画:撮影現場でのヘイマン(左)とニュートを演じたエディ・レッドメイン)
『ハリー・ポッター』の新シリーズ第1作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』が日本公開中だ。デービッド・イエーツ監督に続き、『ハリー・ポッター』シリーズからプロデューサーを務めるデービッド・ヘイマンに話を聞いた。
***
――新シリーズ始動のきっかけは? J・K・ローリングから提案があったのか。
ジョー(ローリングの愛称)はものすごく忙しい。作家として活躍し、自身の慈善団体ルーモスをはじめさまざまな慈善活動もしている。家族もいる。本来なら、新シリーズを始める必要はないだろう。でも彼女には伝えたい物語があった。
映画『ハリー・ポッター』シリーズの終了から少したった頃、ワーナー・ブラザースのライオネル・ウィグラム――私がハリー・ポッターの原作本を最初に持っていった人物だ――と、魔法の世界でまた何かできないかという話をしていた。『ハリー・ポッター』シリーズがすごく楽しかったからね。ライオネルが考えていたのは、疑似ドキュメンタリー映画を作るというアイデア。魔法動物学者ニュート・スキャマンダーが世界中を回って、魔法動物を保護するドキュメンタリーだ。
このことをジョーに話したら、「それは不思議。私もニュート・スキャマンダーのことを考えていた。彼のことを書きたかったのよ」と言うんだ。彼女のアイデアを聞いたら、私たちのアイデアよりずっと面白かった。それがすべての始まりだった。
ニュートは、ホグワーツ魔法魔術学校で使われていた教科書を書いた人。ジョーは慈善団体コミック・リリーフのために『幻の動物とその生息地』(著者はニュート・スキャマンダーという設定)という本を09年に出版していて、ニュートがどういう人物なのか知り尽くしている。
【参考記事】『ファンタスティック・ビースト』で帰って来たハリポタの魔法の世界
――新シリーズを始めるのは大変なことだと思うが、何をいちばん大切にしている?
『ハリー・ポッター』のときもそうだったが、最も重要なのは、彼女の作品の精神をしっかりとらえること。彼女が書くものはどれも登場人物の描写が生き生きとしていて、素晴らしい。それが物語の土台になっている。ハリーとハーマイオニー、ニュートとティナ、クイニー、ジェイコブはみんなアウトサイダーだけど、私たちの周りにもいて、私たち自身も投影できる。そんな人たちだと思う。ジョーが作り上げたわくわくするようなキャラクターに、命を吹き込むことができなければ映画はうまくいかない。
『ファンタスティック・ビースト』はファンタジーだが、それは外側から見た飾りにすぎない。核にあるのは感動的なストーリーで、私たちの世界を映し出す物語だ。だから子供も大人も見て楽しめる。愉快で、悲しくて、冒険に満ち、スリルも満点で、怖いところもある。そして私たちについて描かれている。
違う人を受け入れることや寛容さも、中心テーマの1つだと思う。魔法使いと人間が実際はよく分かっていないのに、互いにレッテルを張って怖がったりしている。ちょっと変わっているとダメな人だと決めつけてしまう、今の世界と似ているかもしれない。
「エディ・レッドメインはとても英国的で、どんな役柄でも人間味を出せる俳優」とヘイマンは言う © 2016 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED. HARRY POTTER AND FANTASTIC BEASTS PUBLISHING RIGHTS © JKR
――シリーズ第1冊目の『ハリー・ポッターと賢者の石』の出版から約20年。初めて読んだときの感触を覚えているか。
昨日のことのように覚えている。まだ出版されていない段階のものを読んだ。3人しかいない小さな私のオフィス(映画製作会社)では、映画化できそうな本を優先度が「高」「中」「低」の順に積んであって、『ハリー・ポッターと賢者の石』はそのいちばん低いところにあった。
私の秘書が週末に家に持ち帰り、月曜朝に「何かいいものを読んだか」という話になったとき、「この本を読んだ」と。作品名を聞いたら、『ハリー・ポッターと賢者の石』と言うので、「ひどいタイトルだね」と私は返した。でも少年が魔法学校に通う話と聞いて、ちょっと興味を持ったから自宅に持って帰った。ページを開くと、読み終わるまで閉じることができなかったよ。恋に落ちたみたいだった。
私が子供の頃に読んだ本を思わせるけど、同時にすごく新鮮だった。登場人物たちに会ったことがある気がしたし、魔法学校ではないけどホグワーツみたいな学校に自分も通っていた。これは私の話だって思った。ただしそのとき考えていたのは、小規模なイギリス映画になるかな、ということ。20年後に日本に来て、9作目の映画の話をするようになるとは思いもしなかった。
【参考記事】『ファンタスティック・ビースト』で始まる新たな魔法の冒険
――ニュートは世界中を旅しているが、これからの『ファンタスティック・ビースト』作品で日本が舞台になる可能性はあるだろうか。
日本といえば、実は今回の作品に河童が出てくるという構想はあった(『幻の動物とその生息地』の本には掲載されている)。物語は第2次大戦くらいまで続くけど、パリの次の舞台がどこになるかは私にも分からない。
――エディのニュート役についてはどう?
私たちが彼を主演に選んだのは、すごく英国的な人だから。時代を選ばない、つまり2016年でも1926年でも違和感のない俳優であるのもいい。アウトサイダーを演じられるし、どんな役柄でもきちんと人間味を出せる。
ちょっとぎこちないけど、温かい心の持ち主であるニュートを演じるにはエディみたない人でないと。力のある俳優は、難しい演技を軽々とやってみせる。あまり簡単にやってしまうから、エディがどれほどのことをしたのか、あまり分からないかもしれないが。
ニュートは型破りのヒーロー。強いヒーローではないが、でも私たちは大好きになってしまう。そんな人物をジョーが書いたのはすごく勇敢なことだったし、エディも思い切って演技してくれた。監督はエディのシルエットが好きだと言っている。ちょっとバスター・キートンのようなところがある。チャプリンみたいな歩き方とか、当時のサイレント映画の俳優のような雰囲気がある。
――好きな場面を挙げるとしたら?
数えきれないけど、最後の方のべーカーリーの場面とか、ティナがちょっとスキップする場面とか。すごく細かいディテールだけど、すごく美しいと感じた。これが私にとって特別なのは、デービッド・イエーツがハッピーなときにはよくセットでスキップするから。それを思い出すんだ。彼がキャサリンにアドバイスしたのか、それとも彼女が無意識にやったのかは分からないが、ものすごくいい演技だった。
――イエーツ監督がスキップするのは想像できる。彼にも話を聞いたが、すごく優しくてかわいらしい感じがする人だ。
そう、彼は信じられないくらい穏やかな人。でもものすごく頑固で、押しが強いところもある。15回テイクくらい撮るけど、とても優しくうまくやるんだ(笑)。演出の仕方も、「これをやって」とは言わない。その瞬間の感情のエッセンスを俳優たちから上手に引き出してくれる。
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『ハリー・ポッター』魔法と冒険の20年
CCCメディアハウス
大橋 希(本誌記者)
『ハリー・ポッター』の新シリーズ第1作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』が日本公開中だ。デービッド・イエーツ監督に続き、『ハリー・ポッター』シリーズからプロデューサーを務めるデービッド・ヘイマンに話を聞いた。
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――新シリーズ始動のきっかけは? J・K・ローリングから提案があったのか。
ジョー(ローリングの愛称)はものすごく忙しい。作家として活躍し、自身の慈善団体ルーモスをはじめさまざまな慈善活動もしている。家族もいる。本来なら、新シリーズを始める必要はないだろう。でも彼女には伝えたい物語があった。
映画『ハリー・ポッター』シリーズの終了から少したった頃、ワーナー・ブラザースのライオネル・ウィグラム――私がハリー・ポッターの原作本を最初に持っていった人物だ――と、魔法の世界でまた何かできないかという話をしていた。『ハリー・ポッター』シリーズがすごく楽しかったからね。ライオネルが考えていたのは、疑似ドキュメンタリー映画を作るというアイデア。魔法動物学者ニュート・スキャマンダーが世界中を回って、魔法動物を保護するドキュメンタリーだ。
このことをジョーに話したら、「それは不思議。私もニュート・スキャマンダーのことを考えていた。彼のことを書きたかったのよ」と言うんだ。彼女のアイデアを聞いたら、私たちのアイデアよりずっと面白かった。それがすべての始まりだった。
ニュートは、ホグワーツ魔法魔術学校で使われていた教科書を書いた人。ジョーは慈善団体コミック・リリーフのために『幻の動物とその生息地』(著者はニュート・スキャマンダーという設定)という本を09年に出版していて、ニュートがどういう人物なのか知り尽くしている。
【参考記事】『ファンタスティック・ビースト』で帰って来たハリポタの魔法の世界
――新シリーズを始めるのは大変なことだと思うが、何をいちばん大切にしている?
『ハリー・ポッター』のときもそうだったが、最も重要なのは、彼女の作品の精神をしっかりとらえること。彼女が書くものはどれも登場人物の描写が生き生きとしていて、素晴らしい。それが物語の土台になっている。ハリーとハーマイオニー、ニュートとティナ、クイニー、ジェイコブはみんなアウトサイダーだけど、私たちの周りにもいて、私たち自身も投影できる。そんな人たちだと思う。ジョーが作り上げたわくわくするようなキャラクターに、命を吹き込むことができなければ映画はうまくいかない。
『ファンタスティック・ビースト』はファンタジーだが、それは外側から見た飾りにすぎない。核にあるのは感動的なストーリーで、私たちの世界を映し出す物語だ。だから子供も大人も見て楽しめる。愉快で、悲しくて、冒険に満ち、スリルも満点で、怖いところもある。そして私たちについて描かれている。
違う人を受け入れることや寛容さも、中心テーマの1つだと思う。魔法使いと人間が実際はよく分かっていないのに、互いにレッテルを張って怖がったりしている。ちょっと変わっているとダメな人だと決めつけてしまう、今の世界と似ているかもしれない。
「エディ・レッドメインはとても英国的で、どんな役柄でも人間味を出せる俳優」とヘイマンは言う © 2016 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED. HARRY POTTER AND FANTASTIC BEASTS PUBLISHING RIGHTS © JKR
――シリーズ第1冊目の『ハリー・ポッターと賢者の石』の出版から約20年。初めて読んだときの感触を覚えているか。
昨日のことのように覚えている。まだ出版されていない段階のものを読んだ。3人しかいない小さな私のオフィス(映画製作会社)では、映画化できそうな本を優先度が「高」「中」「低」の順に積んであって、『ハリー・ポッターと賢者の石』はそのいちばん低いところにあった。
私の秘書が週末に家に持ち帰り、月曜朝に「何かいいものを読んだか」という話になったとき、「この本を読んだ」と。作品名を聞いたら、『ハリー・ポッターと賢者の石』と言うので、「ひどいタイトルだね」と私は返した。でも少年が魔法学校に通う話と聞いて、ちょっと興味を持ったから自宅に持って帰った。ページを開くと、読み終わるまで閉じることができなかったよ。恋に落ちたみたいだった。
私が子供の頃に読んだ本を思わせるけど、同時にすごく新鮮だった。登場人物たちに会ったことがある気がしたし、魔法学校ではないけどホグワーツみたいな学校に自分も通っていた。これは私の話だって思った。ただしそのとき考えていたのは、小規模なイギリス映画になるかな、ということ。20年後に日本に来て、9作目の映画の話をするようになるとは思いもしなかった。
【参考記事】『ファンタスティック・ビースト』で始まる新たな魔法の冒険
――ニュートは世界中を旅しているが、これからの『ファンタスティック・ビースト』作品で日本が舞台になる可能性はあるだろうか。
日本といえば、実は今回の作品に河童が出てくるという構想はあった(『幻の動物とその生息地』の本には掲載されている)。物語は第2次大戦くらいまで続くけど、パリの次の舞台がどこになるかは私にも分からない。
――エディのニュート役についてはどう?
私たちが彼を主演に選んだのは、すごく英国的な人だから。時代を選ばない、つまり2016年でも1926年でも違和感のない俳優であるのもいい。アウトサイダーを演じられるし、どんな役柄でもきちんと人間味を出せる。
ちょっとぎこちないけど、温かい心の持ち主であるニュートを演じるにはエディみたない人でないと。力のある俳優は、難しい演技を軽々とやってみせる。あまり簡単にやってしまうから、エディがどれほどのことをしたのか、あまり分からないかもしれないが。
ニュートは型破りのヒーロー。強いヒーローではないが、でも私たちは大好きになってしまう。そんな人物をジョーが書いたのはすごく勇敢なことだったし、エディも思い切って演技してくれた。監督はエディのシルエットが好きだと言っている。ちょっとバスター・キートンのようなところがある。チャプリンみたいな歩き方とか、当時のサイレント映画の俳優のような雰囲気がある。
――好きな場面を挙げるとしたら?
数えきれないけど、最後の方のべーカーリーの場面とか、ティナがちょっとスキップする場面とか。すごく細かいディテールだけど、すごく美しいと感じた。これが私にとって特別なのは、デービッド・イエーツがハッピーなときにはよくセットでスキップするから。それを思い出すんだ。彼がキャサリンにアドバイスしたのか、それとも彼女が無意識にやったのかは分からないが、ものすごくいい演技だった。
――イエーツ監督がスキップするのは想像できる。彼にも話を聞いたが、すごく優しくてかわいらしい感じがする人だ。
そう、彼は信じられないくらい穏やかな人。でもものすごく頑固で、押しが強いところもある。15回テイクくらい撮るけど、とても優しくうまくやるんだ(笑)。演出の仕方も、「これをやって」とは言わない。その瞬間の感情のエッセンスを俳優たちから上手に引き出してくれる。
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『ハリー・ポッター』魔法と冒険の20年
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大橋 希(本誌記者)