Infoseek 楽天

インターポールも陥落、国際機関を囲い込む中国の思惑

ニューズウィーク日本版 2016年12月6日 10時40分

<内向きになるアメリカの隙を突いて伸長する中ロ両国、台頭する保護主義と強権主義にどう抗すべきか>(写真:中ロ両国はブロック経済の主導権を握りつつある)

 11月10日、国際刑事警察機構(インターポール)はインドネシアでの総会で、新総裁に中国公安省の孟宏偉次官を選出した。さらに副総裁の1人として、ロシア内務省のアレクサンドル・プロコプチュク警察少将が選ばれた。

 中国とロシアからインターポールの要職が選出されたのは初めてだ。インターポールは190の国・地域が加盟する警察間の連絡機関のようなもの。国際指名手配はするものの、逮捕・送還の権限は持たない。

 例えば中国がインターポールを通じて、国外に逃亡した汚職官僚やウイグル系独立運動家を国際指名手配しても、彼らが逃げ込んだ国が中国と引き渡し協定を結んでいなければ、何も強制できない。それでもインターポールという国際機関のお墨付きがあれば、容疑者の拘束と引き渡しを他国に求める中国の立場は大いに強まる。

 欧米の人権保護団体は今回の選出を強く批判しているが、強権主義の国がインターポールを利用したり率いたりしてはいけない決まりはない。ロシアはマフィアやテロリストを、インターポールを使って何度も国際指名手配している。

【参考記事】トランプ-蔡英文電話会談ショック「戦争はこうして始まる」

 今回、中国はなぜトップの地位を狙ったのか。それには面白い経緯がある。14年2月、スペインの裁判所が、江沢民元国家主席など中国の政権元幹部5人を、在任中にチベットでの大量虐殺に関与したとしてインターポールを通じて国際指名手配したことがある。

 この裁判所の判断は中国にとっては驚天動地、さぞかし多数の当局関係者のクビが飛んだことだろう。その頃から中国はインターポールを牛耳ることを狙い定めたようだ。来年は中国で年次総会を主宰することになっている。

 トランプ次期政権誕生でアメリカが内向きになる隙を突いて、中ロを旗頭に経済では保護主義、政治では強権主義の国々が逆襲する気配がある。中国はカネの力で途上国の票を動員し、国際機関の幹部ポストを次々と手中に収めていくだろう。

 それが一概に悪いわけではないが、中国がトップを握ると困る組織については日本は対策を考える必要がある。



 11月19日、ペルーでの中ロ首脳会談で習近平国家主席は、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を共に先頭に立って推進しようと、プーチン大統領に呼び掛けた。

 FTAAPはもともとASEAN(東南アジア諸国連合)諸国が掲げていながら、環太平洋諸国の貿易協定TPPに先行されて実現できなかった。これを中ロが換骨奪胎し、自分たちが主導する貿易ブロックにすり替えようというのだ。

強がるだけのアメリカに

 中国やロシアが主導する国際組織は、西側が主導した場合に比べて政治優先で経済的な中身はおざなりになりがち。日本の政治的・経済的利益に合わない場合が多い。米主導の場合、いくら締め付けがきつくても、日本が法治・アカウンタビリティーの原則を前面に立てると引き下がる。

【参考記事】プーチン年次教書「世界の中心で影響力」を発揮する

 トランプ次期米大統領はTPP反対の立場を崩していないが、TPPができなければ、中国はFTAAPでアジア太平洋を囲い込んでしまうだろう。アメリカは輸出の25%近く 、輸入の35%余りをアジアに依存している。このままでは、トランプの目標とする「強いアメリカ」は「強がるだけのアメリカ」になってしまう。

 日本にとって人権、民主主義、自由貿易は不可欠だ。トランプが考え直すまで、志を同じくする国々と一緒に耐えるべきだ。ASEANが主導する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)のようなアメリカ抜きの場では、自由化度の深化に努める。中国と対抗する必要はなく、日本の利益にかなう方向で協力していけばいい。

 FTAAPやRCEPが十分な内容を備えたものになれば、トランプのアメリカもそのうち保護主義から覚め、加盟を申請してくるだろう。

[2016.12. 6号掲載]
河東哲夫(本誌コラムニスト)

この記事の関連ニュース