<これで5月のオバマ広島訪問に対する相互性が確保され、戦後を総括する「相互献花外交」が実現する>(写真:オバマは今年5月、現職大統領として初めて広島を訪問した)
色々な要素がからむ中で、ようやく実現することになりました。深い感慨を覚えます。この真珠湾訪問の評価を箇条書きで整理してみることにしましょう。
(1)とにかく、外交の大原則である相互性が確保される、つまりオバマ大統領の広島訪問に対して、キチンと筋を通すことができます。まさに「相互献花外交」の完結です。
(2)その点で言えば、5月27日のオバマ大統領が広島に来た日は、広島にとっては「普通の日」で、これに対して例えば「現地の12月7日」つまり真珠湾攻撃の「記念日」ではなく、12月26・27日という「普通の日」が選択されたのは、刺激的な印象をあたえるのを避ける意味で適切だと思います。
(3)一方で、今年2016年は真珠湾の「75周年」つまり「3四半世紀目の記念」になります。その年に訪問するのは、「普通の年」に比較して遥かに効果的だと思います。こうなると、「終戦70周年」の年ではなく「71年目」の今年に大統領が広島に来たのも、「遅れた」のではなく「真珠湾の75周年」に合わせたという考え方もでき、すべてが綺麗に完結することになります。
【参考記事】安倍トランプ会談、トランプは本当に「信頼できる指導者」か
(4)発表のタイミングも絶妙でした。その「75周年の記念日」にあたる12月7日(現地時間)の2日前にあたる、現地の5日早朝というタイミングでしたから、アメリカの5日の朝のニュースには間に合いませんでしたが、5日夕から6日にかけては、ニュースが浸透し、7日の「75周年という厳粛な日」の前には情報が行き渡っているという状態になります。「7日当日」の発表では礼節を欠くという面もあり、良かったと思います。
(5)最大の懸念は、「退任しつつある大統領」と一緒に献花することで、さらに「オバマのレガシー」を作ることになり、結果的に「次期大統領のメンツを潰す」という危険性です。最悪の場合、新政権を「反日」に押しやる危険もありました。ですが、この点に関しては既に11月17日に、安倍首相はトランプ氏に会っているので、その既成事実が意味を持っています。会談の際にトランプ氏に根回しをしたかどうかは不明ですが、あの会談があったことで、その後にオバマと真珠湾に行くのはグッと自然になったと思います。
(6)できれば、12月15日に予定されているトランプ次期大統領の記者会見で「安倍首相の真珠湾献花を評価」するような一言が引き出せればベストです。
(7)一方のオバマ大統領としても、クリスマス後の休暇を自分の故郷であるハワイで過ごすというのは、一家の慣習になっているわけで、その延長上での真珠湾献花というのは、まったく不自然なところがありません。
(8)結果的にオバマ大統領のレガシーになるわけですが、例えばベトナムへ行ったり、キューバと復交したりしたことも含めて、「オバマという人はアメリカの謝罪行脚ばかりやっている」と、保守派の不興を買っている面があります。中でも、広島訪問に関しては保守派の中で「深く静かに不快感」が浸透しているわけで、そこで安倍首相が真珠湾に行って相互性を確保し、それに大統領が同行するというのは、任期の幕切れにあたって「誰も批判できない」効果的なレガシー作りになるわけです。
(9)保守派の「広島訪問批判」の中には、原爆投下を正当化し、昭和天皇の評価を毀損する意図で書かれたビル・オライリーの『ライジング・サンを殺せ』(今年9月発刊)のようなプロパガンダ本などもあり、かなり気になっていました。それと、トランプ氏の「安保条約は不公平」とか「日本に雇用を奪われている」という「レトロ調のアジテーション」がシンクロする危険もあったわけです。今回の「相互・共同献花外交」は、そうした懸念を払拭する大きな効果が期待できます。
【参考記事】トランプ・安倍会談で初めて試される次期大統領の本気度
(10)天皇皇后両陛下の「アシスト」もあると思います。両陛下は、新婚時代に成婚記念の植樹をされていたり、ハワイへのご訪問を繰り返しておられます。その際には必ず、真珠湾を見下ろす国立太平洋記念墓地(パンチボウルの丘)で献花されて来ました。直近のものとしては2009年にも行かれていますが、この時も含めて真珠湾での献花は控えてこられました。それは「憲法の精神からは民意によって選ばれた首相が行くべき」という点を考慮されてのことだったと思います。両陛下の自制が、これで生きることになりますし、今後は天皇皇后両陛下の真珠湾献花も可能になると思います。
(11)衆院議長当時の河野洋平氏が先例をつけた事実もあります。2008年に現職の衆院議長として、真珠湾献花をしていますが、この年にG8下院議長会議が広島で行われた際にナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が広島での献花をしていることに対して、相互献花を行ったものです。
(12)直近のものでは、安倍昭恵夫人が今年8月22日に真珠湾献花をしています。これには「原発や沖縄」のように、「夫妻で政治的ポジションの左右に対して別々に支持を拡大」する一種の作戦ではないか、という「うがった見方」もありましたが、今となっては重要な伏線となりました。
このように様々な要素を検討した中での慎重な判断だったと思います。最後に残る課題は、スピーチです。もちろん、2015年4月の米上下両院合同会議でのスピーチや、オバマ大統領の広島でのスピーチの流れの延長でいいと思いますが、できれば中国に対して「中華人民共和国は第二次大戦の相手国ではないけれども日中の30年戦争に関しては、今回の相互献花外交と同様の和解をしっかりやりたい」というメッセージを発してもらいたいと思います。
それとセットで、「真珠湾で両国犠牲者を悼むことは、太平洋の平和を守るという強い意志の表明で、これに対する撹乱や挑戦は許さない」というメッセージも加え、硬軟一体となった主張として完結性を持たせることがあってもいいでしょう。
【参考記事】TPPを潰すアメリカをアジアはもう信じない
思えば、真珠湾に始まる第二次大戦の太平洋での戦闘は、アメリカにとって「太平洋の平和」ということが重要な「国のかたち」の一部であるということを、知らしめたのだと思います。孤立を脱して国際連合に加盟したのも、日本との講和や戦後復興に努力したのもその反映で、結果的に日米関係というのは、戦後のアメリカの「国のかたち」の大きな部分に関係しています。
今回の相互献花外交は、それを再確認する意味、そして、その一方的な変更を許さないという意味で、まさにベストのタイミングになると思います。
色々な要素がからむ中で、ようやく実現することになりました。深い感慨を覚えます。この真珠湾訪問の評価を箇条書きで整理してみることにしましょう。
(1)とにかく、外交の大原則である相互性が確保される、つまりオバマ大統領の広島訪問に対して、キチンと筋を通すことができます。まさに「相互献花外交」の完結です。
(2)その点で言えば、5月27日のオバマ大統領が広島に来た日は、広島にとっては「普通の日」で、これに対して例えば「現地の12月7日」つまり真珠湾攻撃の「記念日」ではなく、12月26・27日という「普通の日」が選択されたのは、刺激的な印象をあたえるのを避ける意味で適切だと思います。
(3)一方で、今年2016年は真珠湾の「75周年」つまり「3四半世紀目の記念」になります。その年に訪問するのは、「普通の年」に比較して遥かに効果的だと思います。こうなると、「終戦70周年」の年ではなく「71年目」の今年に大統領が広島に来たのも、「遅れた」のではなく「真珠湾の75周年」に合わせたという考え方もでき、すべてが綺麗に完結することになります。
【参考記事】安倍トランプ会談、トランプは本当に「信頼できる指導者」か
(4)発表のタイミングも絶妙でした。その「75周年の記念日」にあたる12月7日(現地時間)の2日前にあたる、現地の5日早朝というタイミングでしたから、アメリカの5日の朝のニュースには間に合いませんでしたが、5日夕から6日にかけては、ニュースが浸透し、7日の「75周年という厳粛な日」の前には情報が行き渡っているという状態になります。「7日当日」の発表では礼節を欠くという面もあり、良かったと思います。
(5)最大の懸念は、「退任しつつある大統領」と一緒に献花することで、さらに「オバマのレガシー」を作ることになり、結果的に「次期大統領のメンツを潰す」という危険性です。最悪の場合、新政権を「反日」に押しやる危険もありました。ですが、この点に関しては既に11月17日に、安倍首相はトランプ氏に会っているので、その既成事実が意味を持っています。会談の際にトランプ氏に根回しをしたかどうかは不明ですが、あの会談があったことで、その後にオバマと真珠湾に行くのはグッと自然になったと思います。
(6)できれば、12月15日に予定されているトランプ次期大統領の記者会見で「安倍首相の真珠湾献花を評価」するような一言が引き出せればベストです。
(7)一方のオバマ大統領としても、クリスマス後の休暇を自分の故郷であるハワイで過ごすというのは、一家の慣習になっているわけで、その延長上での真珠湾献花というのは、まったく不自然なところがありません。
(8)結果的にオバマ大統領のレガシーになるわけですが、例えばベトナムへ行ったり、キューバと復交したりしたことも含めて、「オバマという人はアメリカの謝罪行脚ばかりやっている」と、保守派の不興を買っている面があります。中でも、広島訪問に関しては保守派の中で「深く静かに不快感」が浸透しているわけで、そこで安倍首相が真珠湾に行って相互性を確保し、それに大統領が同行するというのは、任期の幕切れにあたって「誰も批判できない」効果的なレガシー作りになるわけです。
(9)保守派の「広島訪問批判」の中には、原爆投下を正当化し、昭和天皇の評価を毀損する意図で書かれたビル・オライリーの『ライジング・サンを殺せ』(今年9月発刊)のようなプロパガンダ本などもあり、かなり気になっていました。それと、トランプ氏の「安保条約は不公平」とか「日本に雇用を奪われている」という「レトロ調のアジテーション」がシンクロする危険もあったわけです。今回の「相互・共同献花外交」は、そうした懸念を払拭する大きな効果が期待できます。
【参考記事】トランプ・安倍会談で初めて試される次期大統領の本気度
(10)天皇皇后両陛下の「アシスト」もあると思います。両陛下は、新婚時代に成婚記念の植樹をされていたり、ハワイへのご訪問を繰り返しておられます。その際には必ず、真珠湾を見下ろす国立太平洋記念墓地(パンチボウルの丘)で献花されて来ました。直近のものとしては2009年にも行かれていますが、この時も含めて真珠湾での献花は控えてこられました。それは「憲法の精神からは民意によって選ばれた首相が行くべき」という点を考慮されてのことだったと思います。両陛下の自制が、これで生きることになりますし、今後は天皇皇后両陛下の真珠湾献花も可能になると思います。
(11)衆院議長当時の河野洋平氏が先例をつけた事実もあります。2008年に現職の衆院議長として、真珠湾献花をしていますが、この年にG8下院議長会議が広島で行われた際にナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が広島での献花をしていることに対して、相互献花を行ったものです。
(12)直近のものでは、安倍昭恵夫人が今年8月22日に真珠湾献花をしています。これには「原発や沖縄」のように、「夫妻で政治的ポジションの左右に対して別々に支持を拡大」する一種の作戦ではないか、という「うがった見方」もありましたが、今となっては重要な伏線となりました。
このように様々な要素を検討した中での慎重な判断だったと思います。最後に残る課題は、スピーチです。もちろん、2015年4月の米上下両院合同会議でのスピーチや、オバマ大統領の広島でのスピーチの流れの延長でいいと思いますが、できれば中国に対して「中華人民共和国は第二次大戦の相手国ではないけれども日中の30年戦争に関しては、今回の相互献花外交と同様の和解をしっかりやりたい」というメッセージを発してもらいたいと思います。
それとセットで、「真珠湾で両国犠牲者を悼むことは、太平洋の平和を守るという強い意志の表明で、これに対する撹乱や挑戦は許さない」というメッセージも加え、硬軟一体となった主張として完結性を持たせることがあってもいいでしょう。
【参考記事】TPPを潰すアメリカをアジアはもう信じない
思えば、真珠湾に始まる第二次大戦の太平洋での戦闘は、アメリカにとって「太平洋の平和」ということが重要な「国のかたち」の一部であるということを、知らしめたのだと思います。孤立を脱して国際連合に加盟したのも、日本との講和や戦後復興に努力したのもその反映で、結果的に日米関係というのは、戦後のアメリカの「国のかたち」の大きな部分に関係しています。
今回の相互献花外交は、それを再確認する意味、そして、その一方的な変更を許さないという意味で、まさにベストのタイミングになると思います。