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タイム誌「今年の人」はトランプも呪う?

ニューズウィーク日本版 2016年12月8日 16時14分

 今にして思えば、1年前はのんきな時代だった。ドナルド・トランプ米次期大統領は共和党の予備選に出馬した17人の候補者の1人にすぎず、イギリスはまだEU離脱を決めていなかった。米誌タイムが選んだ2015年の「今年の人」はアンゲラ・メルケル独首相だった。

 だが今年タイムは、次期米大統領のドナルド・トランプを2016年の人に選んだ。辞書出版大手メリアム・ウェブスターの「今年の言葉」はファシズムだ。去年とは打って変わって物騒だ。

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 だが、これは必ずしも悪いニュースではないかもしれない。米誌スポーツ・イラストレイテッドの年間最優秀選手に選ばれると翌年は活躍できないというジンクスがあるが、タイムの今年の人にも「呪い」がついてまわると言われているのだ。

 2015年のメルケルも散々だった。難民問題でEUが分裂し、国内では反移民・反イスラムを掲げる極右政党が勢力を拡大。ロシアの脅威も増すなか、孤軍奮闘を迫られた。

 そのような例は歴史的にも枚挙に暇がない。

ヒトラーもスターリンも

 タイムが1937年の人に選んだのは中華民国の最高指導者だった蒋介石だ。この年、日本軍が中国を侵略、蒋介石は8年に及ぶ占領の悪夢と抗日・反共の両面戦争に手こずることになった。1946年には毛沢東率いる共産党と本格的な内戦に突入。この戦いに敗れた蒋介石は1949年、小さな島に逃れて政権を樹立した。その島こそトランプが早々に親密さをアピールした台湾だ。

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 1938年の人はアドルフ・ヒトラー。この年、彼はオーストリアとズデーテン地方をやすやすとドイツに併合した。だが翌年には悪運も尽き、第2次世界大戦に突入。ヒトラー(そして何千万もの人々)の自殺で1945年にようやく戦争は幕を閉じた。

 1939年の人に選ばれたのはヨシフ・スターリンだ。この年、彼はナチス・ドイツと交渉し、外交史上最大級のサプライズとも言うべき独ソ不可侵条約を締結。だが2年後の1941年には、ヒトラーは条約を破ってソ連に侵入、東部戦線では史上最も破壊的な地上戦が繰り広げられた。このときスターリンは「すべて失った。もうダメだ。レーニンが建設した国家をわれわれがつぶしてしまった」と嘆いたという。

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 その翌年、スターリンは再びタイムの今年の人に選ばれたが、その後も3年間むごたらしい戦争が続いた。しかも彼の死後、後継者のニキータ・フルシチョフがスターリン批判をぶち上げ、個人崇拝と独裁の実態を世界に暴いた。



 1940年には、タイムはウィンストン・チャーチルに栄誉を与えた。野に下っていたチャーチルは、この年イギリスの首相に就任。だがその後、ドイツの潜水艦Uボートに手を焼き、イギリス軍はギリシャのクレタ島から撤退、エジプトまで失いそうになった。しかもマレー沖の海戦で日本軍に第一級の戦艦2隻を撃沈された。チャーチルによると、この時が戦争で最悪の時期だったという。ようやく平和が訪れた45年の総選挙では有権者にノーを突きつけられ首相の座を降りた。

 1971年と72年、タイムはリチャード・ニクソンを今年の人に選んだ。その後の2年間、米政界はウォーターゲート事件に揺れ、ニクソンは74年、「任期中に辞任した唯一のアメリカの大統領」という不名誉な記録を残してホワイトハウスを去ることになった。

爆発前の最後の輝き?

 2011年の人は「抗議する人」――「アラブの春」やロシアで束の間盛り上がった反政府デモなど、世界各地で起きた民主化運動の担い手たちだ。ロシアでは翌年大統領に返り咲いたウラジーミル・プーチンが反政府派の息の根を止め、強権支配を固めた。エジプトは軍事独裁政権の支配下に戻り、シリアは長引く内戦で壊滅状態に追い込まれ、チュニジアはテロリストの供給源となり、イエメンは世界から忘れ去られた内戦と飢餓にたたられている。

 こう見てくると、タイムの今年の人が放つオーラは、超新星爆発のようなものらしい。壊滅的な自己破壊に向かう直前の、最後のまばゆい輝きというわけだ。トランプも今が絶頂ということかもしれない。

From Foreign Policy Magazine


エミリー・タムキン

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