Infoseek 楽天

トランプ政権の国防を担うクールな荒くれ者

ニューズウィーク日本版 2016年12月9日 10時45分

<海兵隊きっての知将は冷静な現実主義者。「暴言王」トランプの舵取り役もお手のもの?>(写真:オバマがクビにした「荒くれ者」マティスだが、兵士からの人気は高い)

 トランプ次期米大統領は先週、国防長官にジェームズ・マティス元米中央軍司令官を起用すると表明した。マティスは海兵隊の退役大将で「マッドドッグ」(編集部注:「狂犬」より「荒くれ者」に近いニュアンス)の異名を持つ。

 13年にマティスがオバマ政権によって中央軍司令官を解任された際にも書いたが、彼は「感情に流されない現実主義者」。イラク駐留の海兵隊員には「礼儀正しく、プロフェッショナルたれ。ただし出会った相手は誰であろうと殺せるよう準備しておけ」と指示した。

 そのマティスが次期政権の国防長官候補に浮上したのは先月下旬のこと。トランプは自身のツイートで国防長官にマティスの起用を検討していることを明かし、「昨日会って実に感銘を受けた。彼は大将の中の大将だ!」と絶賛した。

 マティスが舵取り役になったら国防政策はどう変わるのか。

【参考記事】トランプ政権で、対シリア政策はどうなるのか

 まず、マティスとトランプは極めて対照的な人物だ。マティスは思ったことを口にするが、トランプは大衆受けする言葉を口にする。この違いは大きい。さらに悪いことに、トランプは厳然たる事実よりも絶対的な忠誠を重視するようだ。

 違いはそれだけにとどまらない。マティスは読書家で、04年にはイラクに派遣される将校のために推薦図書リストを用意した。孤立主義には反対し、「アメリカは今後も世界に関わっていくべき」で「歩み寄りは民主主義政府の根幹を成すもの」とも考えている(ちなみにパワーポイントは「人間を愚かにする」として嫌っている)。

 マティスは財政面でも保守派的で、そういう人物が国防総省のトップになるのは悪くない。減税しながら国防費は増額、インフラ整備を含む公共投資も拡大するといったトランプの公約のいくつかに、マティスは懐疑的になるだろう。

 最大の違いはマティスが熟慮するタイプだということか。陸軍砲兵大隊の指揮官が尋問中にイラク人抑留者の耳元で拳銃を発砲した事件について、マティスは「道徳的バランスを失っていたか、ハリウッド映画の見過ぎだ」と書いている。



キャリア組に慰留効果も

 文民統制の原則からすれば、退役将校の国防長官就任には制約がある。ジョージ・C・マーシャルの前例はあるが、マーシャルの場合は実戦で目立った軍功はなく、第二次大戦での参謀総長としての手腕が買われた。

 それでもあえて元将校から選ぶとしたら、マティスの起用はいい選択だ。彼ほど純粋に戦略的に考え、自分にも他人にも知的成長を求める人物はめったにいない。もっとも、それが常に歓迎されるとは限らないが。

 現在、統合参謀本部議長は海兵隊大将だ。その上マティスが国防長官に就任すれば、統合参謀本部内での海兵隊の立場はかつてなく強固になるだろう。陸軍関係者は、今後数年は逆風を覚悟したほうが良さそうだ。

【参考記事】ロシア「アメリカは事実上のテロ支援国家」

 マティスは兵士に非常に人気がある。彼の起用は、トランプ政権下では働きたくないという国防総省のキャリア組を慰留する効果も期待できる。

 オバマ政権の国防総省に対する仕打ちはひどかった。特にマティスの解任劇はあまりに屈辱的だった。こんな大逆転が待っていようとは、クビにされた当人も思っていなかったはずだ。

 同じ憂き目を見たデービッド・ペトレアス元陸軍大将も次期国務長官候補に浮上している。将軍たちの返り咲きが、トランプ劇場第2幕の幕開けを飾ることになりそうだ。

From Foreign Policy Magazine

[2016.12.13号掲載]
トーマス・リックス(軍事ジャーナリスト)

この記事の関連ニュース