<『〈インターネット〉の次に来るもの――未来を決める12の法則』の著者ケヴィン・ケリー氏は、AIは空気のような存在になるが、AIが無限大の知能を持つという見立てには否定的だ。ただし、人間とマシンが複雑な相互依存を形成する、違う種類のシンギュラリティはあるかもしれない>
※インタビュー前編:今がベストなタイミング、AIは電気と同じような存在になる
2016年7月、電通デザイントークにて『〈インターネット〉の次に来るもの――未来を決める12の法則』を執筆したケヴィン・ケリー氏の出版記念講演会が開催された。(主催:電通デザイントーク、企画協力:COTAS)
ケリー氏の講演内容を前編で、その後の質疑応答を後編(本編)で紹介する。
【参考記事】ケビン・ケリーが考えるテクノロジーの進化/Figure out(解明する)
◇ ◇ ◇
――AIが人間の知能を超える「シンギュラリティ」(技術的特異点)について、一般に「弱いシンギュラリティ」と「強いシンギュラリティ」が知られていますが、本書でケリーさんは「弱いシンギュラリティの方があり得る」と指摘していますね。なぜ強いシンギュラリティが起こらず、弱いシンギュラリティしか起こらないのでしょうか。
ケリー: シンギュラリティは複雑な概念です。もともとは物理学の用語で、そこから先は未知の世界が広がって予測が不可能という、その境界を表す言葉です。賢いAIを作って、それが自分より賢いAIを作り、それがさらに賢いAIを作るという具合にAI自身による自作を連鎖させれば、知能の爆発的な進化を引き起こすことができるのではないかと研究者が考えたわけです。
これについてレイ・カーツワイル* は独自の考察を示しました。AIの進化が増幅していく状態が100年も繰り返されると指数関数的な成長が起き、ある時点でそのキャパシティが人間の知能を上回り、AIが無限大の知能を持つと。それはすなわち医学的な問題を含めた全ての問題を解決することになるので、人間は不死になると言ったわけです。これが強いシンギュラリティで、2044年頃に起こるだろうとされています。
AIが無限大の知能を持って人間を凌駕するという見立てについて、私は共感しかねます。実現するには条件があまりにも複雑だからです。
人の知能は多数の思考、複数の次元からなるものです。一方、エンジニアリング上の制約でAIは全ての機能を最大化することはできません。従って、人間を上回る知性を持ったAIは実現しないと私は考えています。
ただし、違う種類のシンギュラリティはあるかもしれません。シンギュラリティにはさまざまなシナリオがあると思いますが、私が考えるより可能性の高いシナリオは地球規模のコンピュータを作るということです。全ての人類と全てのコンピュータをつないで、人間とマシンが複雑な相互依存を形成する。非常に大規模な1つのコンピュータとして振る舞うのです。そういった種類のシンギュラリティが一番可能性が高いのではないかと思います。
これはあなたの未来で、そこから逃れることはできない
――本書で説明されている不可避の未来をもたらす12のトレンドは全て動詞で示されています。あえて形容詞や副詞をつけるとしたら、どんなものがありますか。
ケリー: 有名な広告キャンペーンがあります。1990年代のAT&Tのものです。将来について語ったテレビコマーシャルです。彼らの加えた言葉は2つでしたが、その言葉は私の本のセンスに近いです。それは"You will"です。あなたはそうするんだということです。
あなたは将来、地図なしで国を横断すると彼らは言った。GPSのことですね。あるいは海岸にいて誰かにメッセージを送っている。あるいは台所で質問すると答えが出てくる。そういう風景に対して"You will"という言葉が添えられるのです。
これが私が提案する価値です。"You will"です。不可避のテクノロジーに私なら副詞でなく代名詞を加えると思います。基本的には"You will"です。あなたはフィルターする、あなたは認知化する、あなたはアクセスする、あなたはリミックスする――。あなたはこの不可避の流れに関わってくるんです。これはあなたの将来で、そこから逃れることはできないということです。
この質疑応答は、聞き手を廣田周作氏(電通ビジネスクリエイションセンター、COTAS編集長/写真左)、司会を松島倫明氏(NHK出版編集長)が務めた。
生産的な問いができるかどうかでクリエイターの価値が決まる
――あなたがそうするんだという、受け手に対する問いかけがコミュニケーションとして重要ということですね。一方で、テクノロジーは人間とは何かという再定義を迫るものだという主張が本の中で随所になされています。効率が重視される仕事をテクノロジーが肩代わりしていく中で、クリエイターのミッションはどのように再定義されるでしょうか。
ケリー: 将来におけるクリエイティビティは驚くべきものになるでしょう。人間特有の能力ではなくなると思います。
アルファ碁が韓国のプロ囲碁棋士であるイ・セドルと対戦したとき、人間を上回るクリエイティブな手を打って世間を驚かせました。トレーニングすることでコンピュータにクリエイティビティを発揮させるのは可能なのです。また、新しいシステムを作ってより高次のクリエイティビティを持たせることもできます。音楽やアートなどではすでに行っていますが、自律的に創作活動するようにプログラミングするのです。モーツァルトのスタイルで作曲するコンピュータの作った楽曲は、専門家もそれと区別できないレベルです。
多くのクリエイターはガーデナーのような存在になるかもしれません。まずプロセスを作り、それから生成していく。直接クリエイトするのではなくて、ものを作るシステムを構築することで間接的にクリエイティブに関わるということです。
となると、我々人間に残されるクリエイティブなこととは何か。それは質問することです。クリエイティブの基礎にあるのは、これはできるのか、やったらどうなるかというような探索的なスキルです。決まった答えがあるときは機械に聞けばいい。人が得意とするのは、自由回答の形で好奇心からするような質問です。考えても答えが分からない、迷っているような領域を探求することです。
質問することの方が答えを出すより価値があるのです。答えはAIがくれますからね。今後、クリエイティブの仕事は生産的な質問ができるかどうかが問われてくると思います。
進化したAIと共存する未来では、人間のアイデンティティが揺らいでいく
――AIが電気のように世の中に普及していくということは目新しいものでなくなるということ。人間とAIが協働する未来は、あまりワクワクするようなものではないのでしょうか。
ケリー: その通りです。未来のテクノロジーは退屈でつまらないものになるかもしれません。それについてもう意識をしないということは成功しているということです。
第一次産業革命では、工場で使われているような巨大なモーターが小型化して家庭用に普及していきました。今はいくつもの小さなモーターが家庭のあちこちの家電に埋め込まれ、我々はその存在を全く意識していません。AIも同じで、見えなくなることが成功の証です。意識しない存在になる可能性が高いでしょう。
もう1つ言えることとしては、AIと共存する社会になると人間のアイデンティティが変わってくると思います。先ほどのクリエイティブの話のように、人間こそクリエイティブだと思っていたのに、マシンの方がクリエイティブだとしたら、我々のクリエイティビティが問い直されることになるわけです。テクノロジーの進化は、我々は何か、何のためにここにいるのかを考え直すことを迫るのです。
それは人間にとって不安な状況です。その不安感を和らげるためのテクノロジーが重要ですし、またこうした消費者のマインドの変化は広告の大きなニーズになると思います。みんながそれを問いかけ、答えを求めるようになるので、チャンスとしては奥行きが見込まれるのではないでしょうか。
イノベーションは時代の必然。発明家は崇敬の対象ではない
――個別の流れは分からないけれども大きな流れは分かるというのが本書のコンセプトですが、大きなビジョンを描くことの価値についてはどうお考えですか。例えば空飛ぶ車を作ろうと夢見たり、不死を目指したりということは、ケリーさんのいう大きな流れに合致していないけれども、こうした大きな夢は我々を前に進めるでしょうか。
ケリー: 生産的な質問です。個人的には、空飛ぶ車よりインターネットの方がずっと素晴らしいと思いますけどね(笑)。
不可避なものを超えた夢を描く意義があるのか、それとも起こる現実を受け入れるしかないのかという話です。私はエジソンやスティーブ・ジョブズなど英雄的な発明者を礼賛する風潮には違和感を持っています。その人たちが発明していなくても、翌週に別の人が同じものを発明していたでしょう。エジソンが電球を発明したときも、実はそれより前に電球を発明していた人が30人ほどいました。エジソンは具体的な条件を正しく設定したから特許を取得できたのです。時代の流れが新しいものを生み出す環境を作っているということです。
もちろんビジョンを持つことは重要です。発明者がアイデアを披露し、どういうものを作りたいかを可視化することで望ましい形を考えるきっかけになります。その人の価値感が作ろうとしているものの特性を具体化していくわけです。ただ、その役割を歴史的に見ればマイナーであってメジャーではないと思います。
破壊や失敗を含めて未来を受け入れる
――クリエイティブに携わる人々にメッセージをお願いします。
ケリー: 繰り返しになりますが、決してみなさんは遅れを取っているわけではありません。膨大なチャンスがある時代です。広告もそうです。これから数年、広告において多くの破壊的状況も起きるでしょうが、それを可能性と見るべきです。
そして、この破壊を受け入れることです。失敗も受容するのです。我々の目の前でさまざまな変化が起きつつあります。その変化は新しい可能性を開きます。誰かがそれをとらえるのです。あなたでなければ別の人がするでしょう。でも、あなたにチャンスがあるのですから、あなたがそれをやるべきです。その先には素晴らしい機会、富があります。対価として失敗もあるでしょうが、だからこそ、その失敗も引き受けなければならないのです。
このテクノロジーを受け入れてください。受け入れて初めて運営することができます。AIもVRも到来するのだから使ってみるのです。使うことによってのみ、それが何に役立つかが分かります。
それは未来を受け入れるということです。そのために私の本が少し役に立つかもしれません。みなさんは社会で大きな違いを生み得る方々なのですから。
WEB限定コンテンツ
(2016.7.22 港区の電通ホールにて取材)
text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri
ケヴィン・ケリー氏のウェブサイト。オンラインに投稿した記事やインタビュー記事が閲覧できるほか、テーマごとに体系化されたブログやウェブサイトなどもまとめられている。
http://kk.org/
* レイ・カーツワイル
アメリカの発明家、思想家、フューチャリスト。『シンギュラリティは近い――人類が生命を超越するとき』『ポスト・ヒューマン誕生――コンピューターが人類の知性を超えるとき』(ともにNHK出版)など、シンギュラリティやAIに関する著書も多い。
ケヴィン・ケリー(Kevin Kelly)1952年生まれ。著述家、編集者。1984~90年までホール・アース・カタログやホール・アース・レビューの発行編集を行い、93年に雑誌WIREDを創刊。99年まで編集長を務めるなど、サイバーカルチャーの論客として活躍してきた。現在はニューヨーク・タイムズ、エコノミスト、サイエンス、タイム、WSJなどで執筆するほか、WIRED誌の"Senior Maverick"も務める。著書に『ニューエコノミー 勝者の条件』(ダイヤモンド社)、『「複雑系」を超えて――システムを永久進化させる9つの法則』(アスキー)、『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)など多数。
※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
WORKSIGHT
※インタビュー前編:今がベストなタイミング、AIは電気と同じような存在になる
2016年7月、電通デザイントークにて『〈インターネット〉の次に来るもの――未来を決める12の法則』を執筆したケヴィン・ケリー氏の出版記念講演会が開催された。(主催:電通デザイントーク、企画協力:COTAS)
ケリー氏の講演内容を前編で、その後の質疑応答を後編(本編)で紹介する。
【参考記事】ケビン・ケリーが考えるテクノロジーの進化/Figure out(解明する)
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――AIが人間の知能を超える「シンギュラリティ」(技術的特異点)について、一般に「弱いシンギュラリティ」と「強いシンギュラリティ」が知られていますが、本書でケリーさんは「弱いシンギュラリティの方があり得る」と指摘していますね。なぜ強いシンギュラリティが起こらず、弱いシンギュラリティしか起こらないのでしょうか。
ケリー: シンギュラリティは複雑な概念です。もともとは物理学の用語で、そこから先は未知の世界が広がって予測が不可能という、その境界を表す言葉です。賢いAIを作って、それが自分より賢いAIを作り、それがさらに賢いAIを作るという具合にAI自身による自作を連鎖させれば、知能の爆発的な進化を引き起こすことができるのではないかと研究者が考えたわけです。
これについてレイ・カーツワイル* は独自の考察を示しました。AIの進化が増幅していく状態が100年も繰り返されると指数関数的な成長が起き、ある時点でそのキャパシティが人間の知能を上回り、AIが無限大の知能を持つと。それはすなわち医学的な問題を含めた全ての問題を解決することになるので、人間は不死になると言ったわけです。これが強いシンギュラリティで、2044年頃に起こるだろうとされています。
AIが無限大の知能を持って人間を凌駕するという見立てについて、私は共感しかねます。実現するには条件があまりにも複雑だからです。
人の知能は多数の思考、複数の次元からなるものです。一方、エンジニアリング上の制約でAIは全ての機能を最大化することはできません。従って、人間を上回る知性を持ったAIは実現しないと私は考えています。
ただし、違う種類のシンギュラリティはあるかもしれません。シンギュラリティにはさまざまなシナリオがあると思いますが、私が考えるより可能性の高いシナリオは地球規模のコンピュータを作るということです。全ての人類と全てのコンピュータをつないで、人間とマシンが複雑な相互依存を形成する。非常に大規模な1つのコンピュータとして振る舞うのです。そういった種類のシンギュラリティが一番可能性が高いのではないかと思います。
これはあなたの未来で、そこから逃れることはできない
――本書で説明されている不可避の未来をもたらす12のトレンドは全て動詞で示されています。あえて形容詞や副詞をつけるとしたら、どんなものがありますか。
ケリー: 有名な広告キャンペーンがあります。1990年代のAT&Tのものです。将来について語ったテレビコマーシャルです。彼らの加えた言葉は2つでしたが、その言葉は私の本のセンスに近いです。それは"You will"です。あなたはそうするんだということです。
あなたは将来、地図なしで国を横断すると彼らは言った。GPSのことですね。あるいは海岸にいて誰かにメッセージを送っている。あるいは台所で質問すると答えが出てくる。そういう風景に対して"You will"という言葉が添えられるのです。
これが私が提案する価値です。"You will"です。不可避のテクノロジーに私なら副詞でなく代名詞を加えると思います。基本的には"You will"です。あなたはフィルターする、あなたは認知化する、あなたはアクセスする、あなたはリミックスする――。あなたはこの不可避の流れに関わってくるんです。これはあなたの将来で、そこから逃れることはできないということです。
この質疑応答は、聞き手を廣田周作氏(電通ビジネスクリエイションセンター、COTAS編集長/写真左)、司会を松島倫明氏(NHK出版編集長)が務めた。
生産的な問いができるかどうかでクリエイターの価値が決まる
――あなたがそうするんだという、受け手に対する問いかけがコミュニケーションとして重要ということですね。一方で、テクノロジーは人間とは何かという再定義を迫るものだという主張が本の中で随所になされています。効率が重視される仕事をテクノロジーが肩代わりしていく中で、クリエイターのミッションはどのように再定義されるでしょうか。
ケリー: 将来におけるクリエイティビティは驚くべきものになるでしょう。人間特有の能力ではなくなると思います。
アルファ碁が韓国のプロ囲碁棋士であるイ・セドルと対戦したとき、人間を上回るクリエイティブな手を打って世間を驚かせました。トレーニングすることでコンピュータにクリエイティビティを発揮させるのは可能なのです。また、新しいシステムを作ってより高次のクリエイティビティを持たせることもできます。音楽やアートなどではすでに行っていますが、自律的に創作活動するようにプログラミングするのです。モーツァルトのスタイルで作曲するコンピュータの作った楽曲は、専門家もそれと区別できないレベルです。
多くのクリエイターはガーデナーのような存在になるかもしれません。まずプロセスを作り、それから生成していく。直接クリエイトするのではなくて、ものを作るシステムを構築することで間接的にクリエイティブに関わるということです。
となると、我々人間に残されるクリエイティブなこととは何か。それは質問することです。クリエイティブの基礎にあるのは、これはできるのか、やったらどうなるかというような探索的なスキルです。決まった答えがあるときは機械に聞けばいい。人が得意とするのは、自由回答の形で好奇心からするような質問です。考えても答えが分からない、迷っているような領域を探求することです。
質問することの方が答えを出すより価値があるのです。答えはAIがくれますからね。今後、クリエイティブの仕事は生産的な質問ができるかどうかが問われてくると思います。
進化したAIと共存する未来では、人間のアイデンティティが揺らいでいく
――AIが電気のように世の中に普及していくということは目新しいものでなくなるということ。人間とAIが協働する未来は、あまりワクワクするようなものではないのでしょうか。
ケリー: その通りです。未来のテクノロジーは退屈でつまらないものになるかもしれません。それについてもう意識をしないということは成功しているということです。
第一次産業革命では、工場で使われているような巨大なモーターが小型化して家庭用に普及していきました。今はいくつもの小さなモーターが家庭のあちこちの家電に埋め込まれ、我々はその存在を全く意識していません。AIも同じで、見えなくなることが成功の証です。意識しない存在になる可能性が高いでしょう。
もう1つ言えることとしては、AIと共存する社会になると人間のアイデンティティが変わってくると思います。先ほどのクリエイティブの話のように、人間こそクリエイティブだと思っていたのに、マシンの方がクリエイティブだとしたら、我々のクリエイティビティが問い直されることになるわけです。テクノロジーの進化は、我々は何か、何のためにここにいるのかを考え直すことを迫るのです。
それは人間にとって不安な状況です。その不安感を和らげるためのテクノロジーが重要ですし、またこうした消費者のマインドの変化は広告の大きなニーズになると思います。みんながそれを問いかけ、答えを求めるようになるので、チャンスとしては奥行きが見込まれるのではないでしょうか。
イノベーションは時代の必然。発明家は崇敬の対象ではない
――個別の流れは分からないけれども大きな流れは分かるというのが本書のコンセプトですが、大きなビジョンを描くことの価値についてはどうお考えですか。例えば空飛ぶ車を作ろうと夢見たり、不死を目指したりということは、ケリーさんのいう大きな流れに合致していないけれども、こうした大きな夢は我々を前に進めるでしょうか。
ケリー: 生産的な質問です。個人的には、空飛ぶ車よりインターネットの方がずっと素晴らしいと思いますけどね(笑)。
不可避なものを超えた夢を描く意義があるのか、それとも起こる現実を受け入れるしかないのかという話です。私はエジソンやスティーブ・ジョブズなど英雄的な発明者を礼賛する風潮には違和感を持っています。その人たちが発明していなくても、翌週に別の人が同じものを発明していたでしょう。エジソンが電球を発明したときも、実はそれより前に電球を発明していた人が30人ほどいました。エジソンは具体的な条件を正しく設定したから特許を取得できたのです。時代の流れが新しいものを生み出す環境を作っているということです。
もちろんビジョンを持つことは重要です。発明者がアイデアを披露し、どういうものを作りたいかを可視化することで望ましい形を考えるきっかけになります。その人の価値感が作ろうとしているものの特性を具体化していくわけです。ただ、その役割を歴史的に見ればマイナーであってメジャーではないと思います。
破壊や失敗を含めて未来を受け入れる
――クリエイティブに携わる人々にメッセージをお願いします。
ケリー: 繰り返しになりますが、決してみなさんは遅れを取っているわけではありません。膨大なチャンスがある時代です。広告もそうです。これから数年、広告において多くの破壊的状況も起きるでしょうが、それを可能性と見るべきです。
そして、この破壊を受け入れることです。失敗も受容するのです。我々の目の前でさまざまな変化が起きつつあります。その変化は新しい可能性を開きます。誰かがそれをとらえるのです。あなたでなければ別の人がするでしょう。でも、あなたにチャンスがあるのですから、あなたがそれをやるべきです。その先には素晴らしい機会、富があります。対価として失敗もあるでしょうが、だからこそ、その失敗も引き受けなければならないのです。
このテクノロジーを受け入れてください。受け入れて初めて運営することができます。AIもVRも到来するのだから使ってみるのです。使うことによってのみ、それが何に役立つかが分かります。
それは未来を受け入れるということです。そのために私の本が少し役に立つかもしれません。みなさんは社会で大きな違いを生み得る方々なのですから。
WEB限定コンテンツ
(2016.7.22 港区の電通ホールにて取材)
text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri
ケヴィン・ケリー氏のウェブサイト。オンラインに投稿した記事やインタビュー記事が閲覧できるほか、テーマごとに体系化されたブログやウェブサイトなどもまとめられている。
http://kk.org/
* レイ・カーツワイル
アメリカの発明家、思想家、フューチャリスト。『シンギュラリティは近い――人類が生命を超越するとき』『ポスト・ヒューマン誕生――コンピューターが人類の知性を超えるとき』(ともにNHK出版)など、シンギュラリティやAIに関する著書も多い。
ケヴィン・ケリー(Kevin Kelly)1952年生まれ。著述家、編集者。1984~90年までホール・アース・カタログやホール・アース・レビューの発行編集を行い、93年に雑誌WIREDを創刊。99年まで編集長を務めるなど、サイバーカルチャーの論客として活躍してきた。現在はニューヨーク・タイムズ、エコノミスト、サイエンス、タイム、WSJなどで執筆するほか、WIRED誌の"Senior Maverick"も務める。著書に『ニューエコノミー 勝者の条件』(ダイヤモンド社)、『「複雑系」を超えて――システムを永久進化させる9つの法則』(アスキー)、『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)など多数。
※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
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