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オルタナ右翼のアカウント凍結を、ツイッターがスピード解除

ニューズウィーク日本版 2016年12月13日 19時0分

<米大統領選をめぐる偽ニュース騒動で凍結されていた、オルタナ右翼の中心人物のツイッターアカウントがあっという間に復活した。そもそもツイッターの凍結措置は、ヘイト行為を煽っているという理由ではなかった>(画像:スペンサーのサイト「ラディックス・ジャーナル」には皇帝姿のトランプが並ぶ)

 米ツイッターが先月から凍結していた、白人ナショナリズムの右翼運動「オルト・ライト(オルタナ右翼)」の主要な人物のツイッターのアカウントが10日、わずか数週間の凍結でスピード解除された。

 主にネット上でひろがったアメリカの新興白人ナショナリスト運動を指して「オルト・ライト(オルタナ右翼)」と呼ぶが、リチャード・スペンサーはその名付け親となった中心人物の一人だ。

 スペンサーは現在、白人ナショナリストのシンクタンク「国家政策研究所」の所長を務めている。この団体については先月、首都ワシントンで開催した年次会合に参加した数千人の右翼ナショナリストが、トランプ次期大統領をナチス式の敬礼で称賛していたことが発覚して、主流メディアから一斉に批判を浴びていた。

 13年にネットメディアのインタビューで語ったように、スペンサーは「ヨーロッパ人だけが集結する民族主義国家」の設立を目指すと公言してきた。14年にはハンガリーで白人至上主義を標榜する会合を開こうとした罪で逮捕され、国外退去処分となり、以後3年間はシュンゲン協定に加盟するEUの26カ国への入国が禁止されている。

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 米マサチューセッツ州ボストン出身のスペンサーは、白人至上主義に対する「知識層」的なアプローチを好む傾向があり、同じオルト・ライトの活動家であるマイロ・ヤノプルスのように周囲をわざと挑発するようなコメントは控えている。憎悪犯罪対策などに取り組む米NPO「南部貧困法律センター」は、ホームページでスペンサーの人物像を「アカデミックな人種差別主義者」と紹介する。

 ツイッターは11月、オルト・ライトとの関連性が目立つ数百のアカウントに対する取り締まり強化の一環として、スペンサーのアカウントを凍結した。国家政策研究所や、彼が編集主幹を務めるネットメディア「ラディックス・ジャーナル」のアカウントも対象になった。

 ツイッターの凍結措置は、ツイッターが中傷行為を阻止する機能を新たに導入すると発表したわずか数時間後のことだった。米大統領選で偽ニュースなどの誤った情報が出回り、記事や執筆者に対するネット上の誹謗中傷(トロール)が横行したのを受けて、ツイッターとしても嫌がらせ行為を取り締まる姿勢を鮮明にする狙いがあった。

 スペンサーは当初、アカウントの凍結は「企業によるスターリン主義(粛清などを特徴とする全体主義)だ」と批判した。「ツイッターはオルト・ライトを消し去ろうとしている。明らかに恐れをなしている。奴らは失敗する」



 だがネットメディア「ボックス」は11日、スペンサーのアカウントが停止されたそもそもの理由は「複数アカウントの不正利用」だったと明らかにした。マイノリティに対するヘイト行為を煽っていたことが凍結の引き金になったわけではなかった。

 ツイッターの広報担当者はそうした事実関係を認めた。「当社のルールは同一ユーザーが重複使用を目的として複数アカウントを保持することを明確に禁止している。違反行為が発覚して一時的にアカウントが凍結された場合、ユーザーは復活するアカウントを1つだけ指定できる」

 ツイッターは11月の凍結に先立ってスペンサーが主に使用していたアカウントを認証し、今回の復活にあたっても再認証したことを認めた。ただし広報担当者は「認証済みであることは、ツイッターがそのアカウントにお墨付きを与えたというわけではない」と強調した。

【参考記事】オルト・ライト(オルタナ右翼)とは何者か

 スペンサーは10日にツイッター投稿し、国家政策研究所やラディックス・ジャーナルを含めたオルト・ライトに関連する自身の他のアカウントの凍結も解除するよう要求した。だがツイッターは本誌に宛てた文書でそれを否定した。

 ツイッターはかねてから、言論の自由を優先させるあまり、嫌がらせや暴言からユーザーを保護していないとして、その対応がしばしばやり玉に挙げられていた。攻撃的な行為に関するポリシーを設けて「一方的な中傷や悪口、特定の人種、性別、宗教などに対するヘイト行為」を禁止しているが、近年はトロールの無法地帯とまで言われている。

 だがツイッターは7月、映画『ゴーストバスターズ』に出演した黒人女優レスリー・ジョーンズに対する誹謗中傷を扇動したとして、右翼のニュースサイトの編集者であるマイロ・ヤノプルスの利用を無期限で禁止した。

ロウリー・チェン

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