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韓国政治の未熟な実態を物語る、朴槿恵「弾劾案可決」

ニューズウィーク日本版 2016年12月16日 11時0分

<「崔順実ゲート」事件があらためて浮き彫りにした、韓国に巣くう縁故主義と腐敗の深刻度>(写真:「弾劾」と書かれたパネル越しに映る国会)

 韓国国会は先週、朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾訴追案を可決した。朴は職務停止となり、黄教安(ファン・ギョアン)首相が代行する。今後は憲法裁判所が最長180日以内に弾劾の可否を審理する。

 大統領の弾劾プロセスは2つに分かれる。まず、国会での弾劾訴追には、300人の国会議員の3分の2の賛成が必要だ。先週の採決は、賛成234票、反対56票だった。

 可決に必要な200票を大きく上回る投票結果は、法的判断のみを行うのが建前の憲法裁判所に微妙な政治的圧力をかけることになりそうだ。過去2カ月間、国政がほぼ機能停止状態に陥っていることを重く見て、憲法裁は比較的早めに結論を出すと示唆する観測筋もいる。

 憲法裁の審査でも、3分の2以上の賛成が必要になる。9人の裁判官のうち6人以上が賛成すれば、弾劾が成立し、朴は罷免される。

 弾劾審査と並行して、特別検察官の捜査も行われる。朴は一貫して違法行為を否定してきた。「親友」の崔順実(チェ・スンシル)に過大な権限と利権を与えたことは認めるが、犯罪行為には当たらないというのだ。特別検察官の最終報告は1月~2月初めに出るとみられる。憲法裁は、それを待って判断を下す可能性がある。

【参考記事】朴槿恵にも負けないほど不人気なのは、あの国の大統領

 一方、左派系の野党勢力は今後も抗議活動を続ける構えだ。ソウルで10月末に始まった週末の大規模デモは、今や参加者が200万人を超えた。国会内の激しい非難と相まって、朴は結局、失職に追い込まれると予測する専門家は多い。

 朴が現職の大統領でいる間は憲法の規定上訴追の対象にはならない。だが、失職すれば単なる民間人になる。その後に朴が刑事訴追を受けることは、ほぼ確実視されている。その結果、投獄される可能性もある。

 今回のスキャンダルのせいで、「近代的な国家」だったはずの韓国の面目は丸つぶれだと、多くの観測筋は口をそろえる。実際、「崔順実ゲート」はこの国に巣くう縁故主義と腐敗の深刻さを改めて浮き彫りにした。国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルが発表する腐敗認識指数でも韓国は世界で37位と振るわない。

「崔ゲート」でこの問題が最大の内政課題になった今、政界の浄化が早急に求められている。特に必要なのは政財界の癒着を絶つ「万里の長城」だ。「崔ゲート」でも過去のスキャンダルと同様、巨大財閥がらみの疑惑が次々と浮上した。

 未熟で透明性に欠ける韓国政界の体質も露呈した。「崔ゲート」の始まりは朴が大統領に就任した13年。それが最近になって明るみに出たのは政府がひどく「不透明」だったからだ。



機能した憲法プロセス

 朴の統治スタイルは、超然とした貴族のよう。メディアに対しては、(多くが台本ありきの)記者会見を年に1度開くだけで、政権に批判的なジャーナリストや報道機関を何度となく攻撃した。大統領府のスタッフも、それに加担していた。

 一方、野党の左派勢力は危険な火遊びに走った。先週、弾劾訴追案が否決されれば、全議員が辞職すると脅しをかけたことだ。もしそうなっていれば、韓国の政治危機は一気に深刻化していたはずだ。こうした野党の姿勢は、左派が憲法上の手続きに敬意を払っていないことを示唆している。まるで途上国のような政治感覚だ。

【参考記事】「女たちが国を滅ぼした」――韓国のデモに紛れ込む「女性嫌悪(ミソジニー)」の危険度

 だが、いいニュースもある。憲法のプロセスがきちんと機能していることだ。スキャンダルはあらゆる民主主義国家で起こり得る。大切なのは、それにどう対処するかだ。

 韓国の場合、大規模な街頭デモが平和的に行われたことは、高く評価していい。国会と大統領も、今のところ憲法の規定を守っている(ルール違反ぎりぎりの駆け引きはあったが)。朴は、もし憲法裁が弾劾を決定すれば受け入れると語った。

 ここ数カ月の韓国は大揺れだったが、多くの犠牲を払って手にした民主主義は、この国の政治家よりも健全で成熟していることを示そうとしている。

[2016.12.20号掲載]
ロバート・E・ケリー(本誌コラムニスト)

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